ありーな闘技場へ続く暗い道に、こつこつとぶーつの音が響く。
「うぅ、まぶちっ……」
ぱっと明るいところに出ると、そこには沢山の人がスピカと相手のヘレナさんを見ていた。
なんだか注目されることに慣れてないから、すごく緊張する────
「初めましてでありマス! スピカ・セネット殿!
私は王国騎士第3部隊所属、ヘレナ・カードナーでありマス!」
「あ、初めまして……」
ありーなの真ん中で、対戦相手のヘレナさんが待っていた。
出された手を握ると、ぶんぶんと強く振られる。
あ、これアダラ姉とおんなじ癖だ────
「これデスか!? センパイがよくなさる仕草がうつってしまったんデス!」
「へぇ……」
王国騎士のほとんどの人は普段お城の警備とかをしていて、直接スピカたちの顔を知っている人はあんまりいない。
部隊長のレスターさんは例外だけれど、多分この人はスピカの立場も、アダラ姉やカペラ兄の事も知らないはずだけど────
「そちらにはキョーミない話でしたね! では早速始めましょう!」
ぱっと手を離されてよろけそうになったけれど、気にせずヘレナさんは行ってしまった。
こういう細かい所を気にしないところも、なんだかアダラ姉に似ていた。
そういえばスピカが修行を始めてから、ヘレナ姉はレスターさんに連れられて、誰かの修行に付き合わされてたみたいだった。
きっとこの人の修行だったんだ────
「どうかいたしましたか?」
「な、何でもない……」
本当はスピカが、修行を見てもらうはずだったのに。
なんだか、この人にアダラ姉を取られたみたいで、すごく嫌だった。
※ ※ ※ ※ ※
スピカとヘレナさんが位置につくと、試合開始の音が響いた。
相手が
「スピカ殿、申し訳有りませんが試合前、あなたの事を色々と調べさせて貰いました。
何でも髪を操る能力を持っているのだとか?」
「うん、そう……」
「ならばやはり、近付くのは危険デスね!
手前、剣士ではありますがこの距離からお相手させていただきマス!」
言うと、ヘレナさんの剣がぴかぴかと白く光り始めた────
「いくでありマスよ! “ストレート・レイズ”!」
「…………!」
剣を空に突いた瞬間、その切っ先から光線が発射されて、ありーなの向こうの壁まで飛んでいった。
スピカは2つの円盤で真上へ飛び、それをかわした。
そのまま空を飛んで、高いところからヘレナさんの様子を伺う。
「避けましたか! やはりそちらも下調べはしていマスよね! 当然!」
「知ってるよ……エリーさんに聞いたもん……」
ヘレナさんは能力で、細剣から光を飛ばすことが出来るらしい。
剣の間合いがなくなる、スピカと違ってとっても戦闘に特化した能力だ。
「と、言っても実際の光ほど速くはないですね。あの人の能力は」
と、エリーさんは言っていた。
「光とは、違うの……?」
「はい、とても速いのは確かですが、本物の光には遠く及びません。
戦った感じでは剣からビームが出ると言うより、【剣を延長し射出する能力】と、言ったところじゃないでしょうか?」
こないだそう言ってたエリーさんの予想は、多分当たってる。
実際今の攻撃はスピカでも避けることが出来たんだから。
本物の光ならまず避けられなかったけれど、これなら何とか────
「スピカさん今、上へ逃げる時、砂を撒きましたね?」
「撒いた。ヘレナさんの能力から出る光は、実態があるよね……」
「その通り。決して光線と言うわけではありませんが【レイズ・レイピア】という名前をいただいておりマス。
少々荒々しい能力ではありマスが、ご勘弁を!」
「あっ、ダメ……!」
再び刀剣が光だしたのを見て、スピカは銃を大きくして、上空から一発弾丸を放つ。
「くっ!」
しかしヘレナさんは、何と細剣でスピカの弾を難なく弾いた。
狙いは完璧だったはずなのに、これじゃ銃で勝負がつけれない!
「速い……!」
「来ると分かっていればなんとか!
しかしスピカ殿が銃を持っていたのは想定外でしたな!」
ヘレナさんは、スピカが
そしてさっき弾を弾いたことで、いつの間にか刀身からは光が消えている。
「こちらの手の内がバレているお相手とは、初めてデス!
ならばこういうのはいかがでありマスか!?」
今度はヘレナさんの刀身じゃなく、剣を持たない方の腕が光始めた。
一体何をするつもり────?
「いや、関係ない……! くらえ……!」
「他愛っ!! なしっ!」
また2発、3発と撃った弾をヘレナさんは弾いて行く。
でも今度は光った部分が戻らなかった。
そして、弾の隙をついてヘレナさんは、光る方の腕へ細剣を持ち変える。
「チャージ完了でありマス! “ストレート・レイン”!」
「っ────!」
逆の手に持ち変えた瞬間、スピカに向かって連続突きを放つ。
すると、地上から沢山の光線が雨のように飛んできた!
「うそっ……!? “
ぷろぺらからの風で、光を散らす。
なんとかこちらに飛んできた斬撃は、全て反らすことが出来た。
先に実態がある光だって、確認できてよかった────!
「流石にこの程度の威力では、打ち落とせないでありますな!」
「はぁ……はぁ……」
威力は高くなくても、当たらないようにするには全てを逸らさなきゃいけない。
でもそのためには、沢山の魔力を使う必要があった。
「もう一度、行くでありマスよ……!」
「だめっ────!!」
何度もやられたら、こっちがもたないのは明らかだった。
スピカは次の発動をされる前に、
「“ツイン・スターダスト”!!」
「なっ……!」
上から降る弾の雨を、ヘレナさんが避ける。
数発は弾いてもいたけれど、やはり全てから逃げる事は難しいみたいだった。
そしてそのうちの一発が、ヘレナさんの脇腹に当たる!
「ぐあっ────!」
「ひっと……!」
ついに腕の光が消えたヘレナさんは、弾の当たった場所を押さえながらはぁはぁと肩で息をしていた。
「な、成る程……髪を使えば、複数の銃も同時に扱えるのデスね……
銃を構える必要もないから、撃った反動も宙に浮かせて分散できると……」
「うん、そう……」
本当なら女の子には扱うのが難しい武器でも、スピカの【コマ・ベレニケス】があれば、操ることが出来る。
問題は普通に構えるより狙いが定まりにくいことだけれど、敵がすぐそばにいるこの試合では、あんまりそれも弱点にならなかった。
「接近戦向きの能力かと思いきや、そんな方法を────それに、練度も高いでありマス」
「うん、使ったのは弱い魔力弾、だよ……
すごく痛いと思うけど、我慢して……」
相手を大怪我させる訳にはいかないから、込める魔力で威力が調節出来る、魔力弾を試合には持ってきた。
でもそのせいで、決め手に欠ける。
今の一発で仕留めたかったな────
「成る程! 私、遠距離攻撃には定評があったのですが、上には上がいるものでありマスね……!
ならばこちらも次なる手を尽くすまで。お覚悟!」
またヘレナさんの細剣が光り始める。
止めようとしたけれど、今度は相手の溜めの方が少しだけ速かった!!
「“スクエア・レイズ”!」
「なっ……!?」
今度も避けよう────
そう思った瞬間、光が突然かくん、と
「ぷぎゃっ!!」
肩に光が当たって、激痛が走る。血が出たり傷になったりはしてないのに、貫かれた場所がただただ痛い!
そして思わず集中が切れて、スピカはぷろぺらのばらんすを崩してしまった。
そのまま体勢を保てず、あらぬ方向に飛んだスピカは、地面に激突する。
「うぐうぅっ────!」
何とか風と髪の毛で衝撃は緩和できたけれど、光が当たった場所、落ちてぶつけた場所がすごく痛んだ。
持っていた魔力銃と、装填しようとしていた弾が下に転がる。
「いいいぃ…………光が直角に……曲がった……?」
「実際には光ではありませんので、こんな事も。
魔力消費は大きい奥の手デスが、命中して良かったデス!」
本当はもう動きたくなかったけれど、このまま倒れていたら降参したことになってしまう。
スピカは痛みを耐えて、何とか立ち上がった。
「さぁ! ようやく地上に引きずり下ろしたでありマス! 続きをやりましょう!」
「うぅ────!」