私たちの不意打ちに、敵は面食らったように怯えていた。
「うおっ!? 後ろのヤツらもう来たのかよ!」
「すまないね! 頑張って来年出ることをおすすめする!」
ヒルベルトさんが、機構員と公社員2人の水晶を素早く右足と背中のリュックを攻撃する。
「なにっ!?」
ガラスが割れるような音がして、足を狙われた職員が倒れた。
ポケットから水晶の欠片が溢れている。
「な、なんで分かったんだ……」
「何となくだ。そっちの人のやつは外したかな?」
「────あ、セーフ!」
「そうかい、よござんしたねっ!」
慌ててバッグを確認した公社員だったが、リュックの中の水晶は衝撃が伝わらず無事だったらしい。
「オレはもう2人受け持つ、残り頼んだぞ!」
「分かりましたっ」
私とレベッカさんは、残りの3人の敵と対峙する。
どうやら相手も手を組んだ方が最適と判断したのか、3人並んでジリジリと警戒している。
「3対2ですか。なら──きーさん槍にっ。“
風とともに氷のつぶてを飛ばし、敵の動きを抑制する。
そして相手が怯んだ瞬間、公社員の一人の腹を槍の柄でどついた。
「がふっ……!」
「先ずは1人っ────うわっ」
瞬間、スキをついて隣にいた機構員の女性が、高く飛び上がり両手のナイフを振るってきた。
間一髪で槍を使い防ぎきる。
「ガルルルルルッ!」
「け、獣かなんかですかっ……」
そう思ってしまったのも、迫力と勢いが獣のそれに迫るものがあるからだ。
もう少し遅かったらタダじゃすまなかっただろう。
「グルルっ、油断したこちらも悪いけれど!
不意打ちに、タダでやられるのは納得いかないから!
エリアル・テイラーさん覚悟を! ガウッ!」
「私の名前ご存じ何ですか────っとわっ」
野獣のようなその力に私は押されてのけ反る。
それを見透かしたように2撃3撃目が振るわれ、私は後退を余儀なくされる。
「っ、とと────」
「そこをっ!」
そして好機だと見たのか背後からは、もう一人公社員の男が斧を振るってきた。
「エリーさん危ないっ! “
「んぎゃっ!」
間に割って入ってきたレベッカさんに触れた瞬間、男性は足を掬われたようにスッ転んで、思いきり頭を打った。
そして、打ち所が悪かったらしくそのままグッタリと動かなくなる。
「やった!」
あれがレベッカさんの能力だろうか、恐ろしい。
以前私が必死で崖から落とし、それでも止めを指すことが出来なかったムカデを、千切ってしまったという力。
その後遺症でレベッカさんは、髪が今のように真っ白になったときいているけれど、詳細までは聞いていなかった。
「さぁ、残りは貴女だけだよ」
「ガルッ────あーっと……ううん、止めておく……」
彼女がそういった時には、いつの間にか向こうで戦っていたヒルベルトさんも請け負った2人を倒し、こちらに来ていた。
彼女はこれ以上は戦う意思がないというように、空っぽの両手を上げる。
「これ以上戦っても多分無駄だからね、止める。
抵抗はしないので、どうか水晶の破壊だけは勘弁してね」
「そう。ならいいけど」
彼女の仲間はもう既にヒルベルトさんが水晶ごと倒してしまっただろう。
ここから1人で24時間のノルマ休憩を請け負いつつゴールは、絶望的だということは、本人も分かっているはずだ。
「まぁ、ここで無駄な体力は使いたくないから、そうしてくれるならオレらもありがたい」
「いいえ。それよりも感動したよ、レベッカさん、エリアルさん。お2人には」
「わ、私たち……?」
先ほどから私の事を知っていたようだけれど、その上レベッカさんとまで知り合いだったらしい。
でも私たちの共通の知り合いって、そんなに多くないよな────
「その制服────あ! もしかして私が能力監査機構に行った時、担当してくれたお姉さん!?」
「そう! 正解!」
「やっぱり!! 久しぶり!!」
先ほどまで戦っていたことも忘れて、2人は手を取り合って再会を喜ぶ。
「何回かレベッカさんには能力の指導もしたけれど、その時より強くなってて、ビックリしましたよぉ!
私が担当した方々が、こうして活躍してくれるのなんて、担当冥利に尽きるなぁ~」
「そういってもらえると嬉しい! ありがとう!」
へぇ、そうなんだ、へぇ。
私は能力監査機構に収容された経験はないけれど、そう言えば3年近く前に一度自分の能力の名前を知りたくて、本部に顔を出したことがあったっけ。
「もしかして、お姉さん3年くらい前に私とお会いしてます……?」
「そう!! 当時は私受付だったの!
やっぱりエリアルさんも覚えててくれたんだね!」
「いやぁ────どうでしょう……」
そう言えば、あの時受付を担当してくれたのは、若い女性だった気がする。
でももちろん顔も覚えてなければこの人だったという確証もない。
なんだそりゃ、その程度の接点で知り合いヅラされても、そんな引っかけ問題分かるわけがないと言うものだ。
2人はキャッキャと再会を喜んでいるけれど、私はその輪に加われる自信がなかった。
「おいアンタ。このテイラー女史はアンタの事覚えちゃいないってよ。
3年も前の事なんか、誰も覚えちゃいないよ、普通」
私の気持ちを知ってか知らずか、戦闘で外したメガネをかけ直しながら、ヒルベルトさんがそう助け船を出してくれた。
正直ない方がマシな気もする、沈没船だ。
「あ、そうなの……?」
「えぇ、まぁ……」
少し残念そうな顔をされると何故か、こちらが罪悪感を覚えてしまう。
でも普通、そんな事を覚えてないし、なんなら相手の顔を見ていたかも私は怪しい。
「え、もしかして、関わったみんなの顔と名前覚えてるんですか?」
「はい! みんな覚えてます!
なんなら能力の名前とか住所とかも!」
「えぇ……」
それを聞いて、若干背筋が寒くなった。
あれから私は引っ越しをしてないので、多分この人は私の住所も知っているんだろう。
まぁ、いまは敵側についているミリアがこの間私の家に襲撃されたばかりなので、その心配は本当に本当に、今更なのだけれど。
そろそろいろんな人に住所ばれ始めたし、引っ越し考えようかなぁ────
都合よく、今の家のように住みやすい場所があればいいのだけれど。
「まぁ、オレからしたら動物や精霊と話せるヤツの方が、よっぽど不条理だと思うけどな」
「あーん────まぁ、そうですけど……」
どうやらリゲル君やロイドから、私の事は予習済みらしい。
案外厳しいこと言うなぁ。
「まぁ、3年前の事を忘れたなら、今日覚えてくれればいいの。
貴女の活躍はよく噂でも聞いていたし、こうして戦えて光栄でした。
今後ともよろしくね、エリアル・テイラーさん!」
「え、えぇ……」
無垢な笑顔に押されて、しぶしぶ握手とかしてしまった。
触って発動する能力とかだったらどうしようかと思ったけれど、何も起きなかった。
「じゃあ、そろそろ行こう。アンタも満足だろ」
「うん、それじゃあ頑張ってね!」
私たちは構成員の彼女を追いて、先へ進む。
第2のチェックポイントも、もうすぐというところだろう。