一昨日、1回戦が終わった。
スピカもなんとかCブロックの50人の中に残れた。
試合の後────
「いーですね、スピカちゃんは。誰かさんとか誰かさんに追いかけられるような試合にならなくて」
「えぇ……」
あんな理不尽ないやみを言うエリーさんは、初めて。
でも分かる。試合見てたけど、すごいとらうまになりそうな試合だったもん────
「で、その試合に負けたリゲルは不貞腐れてお家に帰ってこないんですのね!
全くいつまでたっても子供ですこと!」
「いやいや、不貞腐れて帰ってこないわけじゃ、多分ないだろ?
そもそもアイツ、そんな性格じゃないし────」
そんな話を聞き付けて、スピカがリゲル兄と住んでるお家に、アダラ姉とカペラ兄がやってきた。
一昨日から帰ってこなくなってしまったリゲル兄────
今はスピカと使用人さんしかいないので、お家の中はとっても寂しかった。
「まぁ、スピカ。アイツのことは心配しなくていいよ。
例えショックで帰ってこないとしても、そのうち帰ってくるだろ」
「そう、かなぁ……」
「そこまで長い間、スピカに心配かけられるやつじゃないから」
まぁ、そう言われるとスピカもあんまり心配はしてない。
試合が終わった後、いなくなる前リゲル兄と少しお話ししたけど、悔しそうだったけど、すごい満足そうだった。
多分、しょっくで家出──とかじゃない気がする。
家族の中で家出したのは、ふりょー娘のスピカだけだもん。
「それでもスピカに心配かけるとか、許せませんわね!」
「それ言ったら、こないだいなくなった、アダラ姉の方が、スピカ心配だったけど……」
「あ、それオレも」
スピカとカペラ兄に言われて、アダラ姉は「うぅ……」と唸った。
「え、そんなに私心配かけてましたか!?」
「うん……あの時、アダラ姉、どこ行ってたの……?」
「き、企業秘密ですわ……」
いやーな事を思い出したみたいに、アダラ姉は顔をしかめた。
「ふぅん。まぁ、そこは突っ込まないでやろうか。
こんなダメな
「分かった……」
「え、ダメな姉って、それが2人の共通認識ですの!?」
だって、大人なのにお城の中で花火爆発させてレスターさんに怒られたり、中庭に沢山ニワトリを放して怒られたり。
少なくとも『そんけー』できるお姉ちゃんじゃないよ。
「まさか自分で気付いてないとはねぇ。
ここに来た目的もすっかり忘れてるようだし、君そろそろ本気でこのままでいいのか、考えた方がいいよ」
「はっ、忘れてましたわ!」
「え、2人とも、スピカが心配だったんじゃ、ないの……?」
てっきり、スピカを心配して2人とも来てくれたんだと思ってた。ちょっとがっかり。
「うん、それもあるけどね。
それだけじゃなくて、父さんに伝えたんだよ。
スピカが1回戦を、余裕で勝ち抜いたよって」
「ほんと……!」
数ヶ月前、スピカはぱぱとお城で約束をした。
大会に出て、スピカが軍でも一人でやっていけるって言うのを、ぱぱに証明しなきゃならない。
ぱぱが認めてくれなければ、スピカは軍を辞める────
だから、1回戦の結果を聞いて、ぱぱが何て言ったのか、スピカはとても気になっていた。
「それがね、伝えたら『そうか』とだけ言って、それだけだったよ。
ま、直接見たわけでもないし、1回戦突破だけじゃ、そうだよね」
「うぶーっ……」
「ハハハ! カペラ見てくださいこのスピカのほっぺた!
膨らんだとこツンツンするとなんとも言えない感触ですわよ!」
「ホントだ、面白い面白い」
兄や姉に遊ばれて、スピカはまたほっぺを膨らませた。
遊ばないでよ────
「私たちからは、スピカの1回戦突破をお祝いしたい気持ちもあるのですけどね!
まだお父様が認めない以上、ここで大々的にお祝いをするわけにもいかないでしょう!」
「てことで、オレたちからは今日は報告だけ。
今日はこの後も王国騎士の会議があるから、失礼させてもらうよ」
「あっ、忘れてました! 行きたくないのですけれど!」
カペラ兄はため息を着くと、そのまま嫌がるアダラ姉を連れて帰ってしまった。
また、スピカはお家でぽつん。ちょっと寂しい────
「まだ、ダメだよね……」
ま、ぱぱがスピカが頑張ったのを知ってくれただけでも、スピカはちょっと嬉しかった。
2回戦も頑張らなきゃ。昨日はお休みしたけど、今日は訓練所にでも、行ってみようかな────
出かけようと思ってどあを開けたら、お家の扉の前に丁度、訪ねてきた人がいた。
「よっ、リゲルの妹。久しぶり」
「あ……」
そこにいたのは、ロイドだった。
※ ※ ※ ※ ※
「久しぶり、ロイド……」
「だからなんでお前、いつもオレだけ呼び捨てなんだよ」
ロイドはリゲル兄の友だちで、よくこっちのお家にも来るから、よく知ってる。
リゲル兄が軍を辞める前には、この人がリゲル兄の隊長さんだったらしい。
「だから、アイツとは、別に友達じゃねぇって」
「友達じゃないなら、なんで毎日、うち来るの……?」
「そりゃお前────え、毎日は来てないよね?」
毎日じゃないけど、でも、ほぼ毎日来てた。
最近はちょっと来なくなったなーと思ってたけど、やっぱまだ来るんだ。
「そう言えば、お前どこか行くとこじゃなかったのか?」
「うん、ちょっと、運動……」
「訓練なら付き合うぞ? 丁度ヒマしてたんだ」
「ううん、いい……」
ロイドじゃなんか頼りないし。怪我させられそう。
だから、軽く断って訓練場に向かったら、なんかロイドも着いてきた。
「ロイド、なんで付いてくるの……?」
「オレも訓練行こうとしてたんだ。リゲル誘おうと思ってたんだけど、いねぇなら一人で行く」
えぇ、付いてくるのかぁ、この人。やだなぁ。
そう言えばロイドに久しぶりって言ったけど、こないだ大会のBぶろっくでリゲル兄と戦ってるのを見た気がする。
そう言えば、あの時エリーさんを落とそうとしたのもこの人だっけ────
「なんでロイドは、エリーさんを追いかけ回したの……?」
「あ、大会でか? アイツと戦える機会なんか、最初で最後かも知れねぇだろ?」
ふーん。動機が不純。
「ふしゃーっ……! がぶっ!」
「うわ痛っ、お前猫かよ!!」
ちょっと怒れたから、ロイドの手に噛みついてみた。
ロイドは必死にスピカを振りほどこうとする。
「勝負事だ、こっちはルール守って楽しくバトルしてんだから、他人のお前にとやかく言われる筋合いねーっつーの!
第一、アイツも残ったんだからいいじゃねぇか!」
「がぶっ! がぶっ!」
「イタイイタイ! 何なのお前!?」
何度もがぶがぶ噛んでいたら、怒ったロイドに無理矢理引き剥がされる。
流石にスピカも疲れたから、今日はこのくらいにすることにした。
「イタタ……うわ、血ぃ出てるよ……」
「ねぇ、訓練所着いたよ。ばいばい……」
「え、あれだけ噛んどいてアッサリ過ぎねぇ!?」
訓練所に付いた。やっぱり、大会に勝ち残って練習に来てる人もいっぱいいるみたい。
今日半日、一人だけど集中して訓練しなきゃ────
「なぁ、リゲルの妹。そういえば聞きたかったんだけどよ」
「なぁに、まだ用なの……?」
「いやさ、お前そういえばエリアルの隊に入ったらしいじゃん。
アイツ最近なんか、変なことなかった?」
「変なこと……?」
そう言っても、エリーさんは普通にスピカたちと同じように、修行して1回戦勝ち抜いただけだと思う。
そういえば大会に出場するのは意外だったけど、それはクレアさんとの約束だからって言ってたし────
「別にない、かなぁ……?」
「ふーん、そ。アイツにしちゃ、やらなきゃいけないことでもないのに本気だしてたから、少しひっかかったけど。
別にオレが気にすることでもねぇか」
「あ、リゲル兄とロイドに追いかけられて、珍しくいやみ言ってきたよ……」
「それは──知らん」
ロイドが目をそらす。
だからまた噛みつこうとしたら、今度は普通に避けられた。
「2度はさせねぇよ。1回目はサービスだサービス」
「ぶーっ……」
「おっ、なんだその頬。変な感触だな」
ロイドにもほっぺた突っつかれた。
そんなにスピカのほっぺた突っつきやすいのかな。
「ま、エリーになんかあったら、リゲルに教えてやれ。
アイツそーゆーのに首突っ込むの大好きだから」
「別に……大好きじゃないと、思うけど……」
「大好きだろ。オレは向いてねぇ、慣れねぇことはもうしねぇから」
そう言うと、ロイドは男性更衣室の方に行っちゃった。
「何したかったんだろ……」
なんかエリーさんを気にしてたけど、それならもっと優しくすればいいのに。
リゲル兄の友達だけど、ロイドのことはよく分かんないな────