なんと呼ぶが分からないが、懇親会のようなことをクラブではすることがある。
とりあえず『クラブイベント』と呼んでおく。
新人のレベル上げを兼ねた、ダンジョンツアーみたいなものだ。
ゲームによっては、レベル差があると、ペナルティがあるため、こういうイベントをやりにくいこともある。
レベル差ペナルティは養殖のような行為の旨味を軽減させるためだとは思うが、過度なシステムによる制限は、遊びの幅を狭める諸刃の剣に他ならない。
経験値はどうでもよくて、ただ一緒に遊べればいいとはいえ、そういうシステムによる弾圧みたいのがあると、楽しさもなんか悪いことしているみたいな気分になって、素直に楽しめなくなる。
とにかく、この日は全員が揃っているので、クラブツアーをすることになった。
場所は南のトロリン村から南西方向に草原を進んだ、草原遺跡ダンジョンだ。
ここは発見からそれほど経っていなくて、全エリアは制覇されていない。
まず転移水晶で10人全員でトロリン村へ移動する。
転移できるということは、一度は来たことがあるので、目新しさはない。
でも来たのは2回目なので、観光みたいな気分には十分なる。
「わー。ニワトリが歩いてます。のどかですね」
オムイさんは今日も平常運転だ。
10人。こういうので団体行動するのはこの人数が限界だろう。
40人学級とか信じられない。
単独のボスと戦うのだってスイッチといって、前衛を入れ換える戦略でも10人くらいが最大人数な気がする。
でも多くのゲームではレイド戦がある。あれは6人パーティーが6個とかで36人ぐらいだろうか。
後衛の魔法攻撃が前衛に当たらないことを前提としているので、このゲームとは少し勝手が違うのだろう。
現実的には、前衛なしで全員で離れてマシンガンで攻撃したほうがマシだろう。
ファンタジー的には剣一本で巨大な竜に立ち向かう絵がかっこいいのかもしれないけど、やはり剣では心もとない。
草原では、イノシシ、ウサギが出てくる。
俺たちにとってはもう怖いことはない相手だ。
新入りの子たちにお願いをする。
このゲームでは、1パーティーで6人までみたいな、職業固定強制主義のゲームではないので、15人ぐらいまで1パーティーにすることが可能だ。
複数パーティー連携モードのレイドももちろん設定ではできる。
俺たちは、分けるのもアレなので、単一パーティーにしてあった。
「なんか少し盛り上がってますね」
オムイさんが言っているのは士気の話ではなく、地面のことだ。
古墳まではいかないけど、円形巨石群みたいのが、見えてきた。
草原に白い巨石がいくつも置いてある。
それがストーンサークルみたいになっているのだ。
ストーンヘンジを思い浮かべてくれればいい。
円形の土の盛り上がりのとこに石の部分があり、内部への入り口が口を開けていた。
「みんな、ライトの準備はいいかい?」
「「「はいっ」」」
「よろしい。では出発」
女子高の引率の先生になった気分だ。
教え子たちは美人ばかりで、自慢の子たちだ。
「狭いっすね」
長身リリーさんが、頭を屈めて中に入っていく。
幅もひとり分ぐらいしかない。
10mぐらい進んだところで、部屋に出た。
「タナカ偵察します」
「よろしく」
普通ちゃんタナカさんは斥候スカウトプレイがしたいらしい。
別にスカウト用の凄いスキルとかを持っているわけではない。
ロングナイフを片手に持ってライトの明かりを頼りに部屋の中を調べてもらう。
今までたくさんのプレイヤーが入ったのだろうから、今頃なにか見つかるとも思えないが、用心は必要だ。
俺は部屋の入り口で様子を見る。
床に模様のような青い色の跡が残っている。
天井は白い石が剥き出しだ。
「タナカさん、ちょっとライト消してもらえる?」
「あっ、はい」
ライトを消して目が暗闇に慣れてくると天井に矢の模様が浮かんできた。
弱い蛍光塗料のようなものが塗ってあるようだ。
それは斜め右の壁のほうを指している。
「ライト戻していいよ。壁を調べてみよう」
タナカさんが矢の指した壁を探ってみる。
石がいくつかに別れて壁を作っているだけだ。
「あっ」
があああ。
壁が動いて通路があるようだ。
「魔力を手に流して、壁を触ったら、動いちゃった」
「でかした、タナカさん」
通路の先は部屋のようだ。
何もない。いや床に光る物か落ちている。
「リーダー。金貨みたいですね」
タナカさんが金貨を一枚だけだが発見した。
「いくらで売れるかな」
「1M硬貨がたしか金貨だったよ」
「タナカっちやったね」
「えらいぞ。リリーはタナカならやってくれると信じてた」
「オム子も、よかったと思います」
全員で隠し部屋を調べてみたけど何も出てこないので、調査を終了した。
元の道に戻って奥へ進む。
「今度は俺、カロンちゃんにおまかせを」
「カンナも手伝う」
「よろしく」
タナカさんは一仕事したので交代だ。
カロン、カンナの姉妹が先頭を進む。
得物は片手剣だ。二人ともバックラーという小型の丸盾を装備している。
攻守をふたりが連携してうまいことやるらしい。
カンナはまだ中学生でちんまいけど、腕はかなりいいらしいよ。
みんな頭には俺特製、革ヘルメットを被っている。
新人たちのは、実は練度が上がったからだろう、俺たちのより防御力が+2高い。
俺も更新すればいいんだけど、愛着もあるからそのまま使っている。
「が、が、がいこつ、うううう」
カンナちゃんが叫んだ。
「スケルトンだ。ここのノーマルMOBだよ」
「はうう。あっちいけ、このヘンタイ」
カロンとカンナが剣を使って、スケルトンをあっという間に排除した。
ドロップは「骨」。腕の骨とか一部分だ。
集めて粉にすると、薬になるらしいよ。
あとイヌにくれると喜ぶ。好感度アップだ。
イヌ、ネコは飼っている人から子供を譲り受けると、ペットにできる。
意味はそれほどないけど可愛いんだそうだ。
2匹とか出てくるときはみんなで戦う。
1匹のときは、カロン、カンナのコンビになるべく任せた。
前にも書いたと思うけど、剣と盾は戦争用、対人装備で、スケルトンとは相性がいい。
俺の槍は狭いところで少し使いにくい。
それでも長槍ではなく、比較的短いのを買うときに選んだから狭いところでも、なんとか使える。
あと、槍には天井のトラップや仕掛けを探るのにちょうどいいという特性がある。
槍以外は棒とかだけど、このメンバーに棒使いはいない。
「うおっと」
天井に変なマークがあったので、つついたら天井が落ちてきた。
真下から上をつつかなくてよかった。
結構重いと思うので、潰れてしまうところだった。
「リーダー、なにやってんすか」
「すまん」
リリーに怒られた。
おさらい。
俺はコミュ障なので、人の名前は覚えにくい。
クラブの人口が増えるとどうしても、知らない人が出てくる。
マスターでさえそうだから、あとで入った新入りは、覚えるのも大変だ。
サブキャラがいると誰と誰が同一人物とか混乱はさらに増す。
このゲームはサブがないのでその点はありがたい。
コミュ障俺:槍、天然オムイ:
真面目ルルコ:棍棒クラブ、妹ユマル:槌ハンマー、腐女子セリナ:杖ステッキ。
長身リリー:斧アックス、普通タナカ:ロングナイフ、巨乳ニーナ:両手剣。
男の娘カロン:剣盾、その妹JCカンナ:剣盾。
武器はバラバラだけど、何かしら持っている。
魔法もいいけどMP効率と、同士撃ちが怖いから遠近両用が基本になる。
魔法ポーションか魔力の魔術石を大量消費すれば、純魔法使いもできるけど、レベルがもっと上がらないとキツいらしい。
ニーナはしゃべらない。
挨拶はするので話せないわけではないが、いちいち口を動かしたりしない主義だそうだ。
ちょっとツンデレ気味だ。
達観して他人をバカにしている風を装っているけど、本当は凄く優しい子なのを知っている。
孤児院で子供たちと遊んでいるところを見ちゃったから。寄付もたくさんしていた。
俺なんて最初10k寄付してもったいなかったと思った男だ。たかが知れてる。
「よし。じゃあ次はニーナと補助でリリーな」
「ひゃいっ」
「お、おう、おまかせあれ」
へっぴりなのがニーナだ。
多分お嬢様系だと思う。
みんな、防具はハーフアーマーという胸部だけ鉄であとは革の複合鎧にしている。
靴はお揃いのオム子ローファーだ。
男の娘のカロンも女装スタイルだそうだ。