RPGでは宿屋も重要施設だ。
寝て起きるとHP、MP全回復みたいな謎の施設としてよく使われる。
MMOでは、ちょっとしたイベントシーンみたいなのが見れるだけで、すぐに朝になるのはRPGと同じだ。
まぁフルダイブVR以外は、PCの前にいるのに画面内で寝られても困るから、それ以上どうすることもできない。
でだ。
「わーいお部屋ですよ。木の部屋ってなんか落ち着きますね。家は鉄筋コンクリート製のマンションだから」
「そうだよな。うちもそうだわ」
一人暮らしなんてそんなもんだ。
「あの、ベッドが一つしかないですよ」
「そういうもんなんじゃね。普通」
「そうなんですか?」
「ツインの部屋なんてないみたいだったよ。ツインにするくらいなら2部屋とるだろ、普通」
「そうなんですね」
「うん」
「お風呂は、ここはついてないみたいです。しょぼん」
「まあ、安かったしな」
「ダイブしたまま、寝るとどうなるんですか?」
「体は元から寝てるようなもんだ。で頭も寝るんだよダイブしたままね」
「じゃあ、普通に寝ればいいんですね」
「うん」
「装備を変えてっと」
オム子は最初の青いシャツにズボンだけになり、靴も脱いだ。
俺も初期装備の軽装に戻す。
ワンタッチで楽々着替えだ。
これが生着替えが必要になると、あーんなことやこーんなことが起こるけど、ちょっと言えないな。
ベッドには白い枕が2つ並んでいる。
「じゃあ、寝心地を確かめましょうか」
「おっおう」
童貞の俺様、心臓バクバク。
対するオム子、普通に寝る態勢。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ベッドに並んで寝て、布団を被る。
体の左隅にオム子の体温と柔らかい感触がある。
すーぴーすーぴー。
オム子は速攻、夢の中のようだ。
俺も目をつぶって寝る。
VRの睡眠と現実の睡眠を兼ねてるのは、変な感じだ。
ぐっすり寝た。
朝の6時前、約6時間睡眠で快眠だった。
夢の中では、オム子がカレーを食いまくっていた。変な夢だった。
「えへへ、おはようございます」
「おはよう、オム子」
「うわー。新婚さんみたいだ。恥ずかしー」
「いまさら、それですか」
「だって、木の部屋が暖かくて、ぐっすりだったから」
「ああ。VR、一度ログアウトしようか。トイレとか行かないとな」
「そうですね。すぐ戻ってきますね。シャワー浴びて、ご飯食べなきゃ。ちょっと遅くなるかも」
「それなら先にチェックアウトしよう」
「はい」
宿屋を出て、店の前に来る。
「ではアディオス」
「ああ、アディオス」
なんでアディオスなんだろう、オム子。
俺もトイレやご飯などを済ませて、再ダイブだ。
というわけだが、戻ってきたけど下手に動かないほうがいいかもしれない。
その辺で立ったままオムイさんを待つ。
今後の予定でも立てておこう。
強い敵をだんだん倒す。
武器、攻撃スタイルの確立。
仲間を集めて、ダンジョン、ボスに挑戦。
クラブに参加。
生産のお試し。
やることは山ほどありそうだ。
「ただいま」
天使オムイさんが復活した。
頭の上に輪っかがあるかと思ったけど幻覚だった。
「おかえり、何か食べる?」
「今向こうで食べてきたとこだよ?」
「向こうとこっちは別ボディとなっております」
「そうだね。軽く食べよっか」
「うん」
露店街を歩いてお店を探す。
肉まん、小籠包みたいなのを売っている店を発見した。
肉まん1つ400ラリル。2つ買った。
オムイ天使は1つだった。
「お、西洋風肉まんだな。ちょっと違う」
何が違うかは分からないが、違う。
「でも美味しいな」
「うん」
お店のおばさんが宣伝してくる。
「トマトスープとミカンジュースあるよ。美味しいよ」
「じゃあ俺トマト」
「私はミカンジュース」
「それぞれ100ラリルな」
トマトスープは結構濃いめで味も付いている。
トマト自体に旨味があるので、かなり美味しい。
「ミカンはこれさ。まだ青い間引くミカンを搾って砂糖を入れて水で薄めたら完成さ」
「なるほど。でも薄めるんだ」
「そのままだと酸っぱいよ」
「そっか」
ブタ串焼きの露店も見てみたけど、いなかった。
残金24.6k。
武器ゾーンを見て回りメイスを探す。
オムイさんのサブ武器が見つかった。
鉄のメイス、11kラリル。
「どうですか」
「どうって俺を殴り殺さないでくれよ」
「愛の力でぼっこぼこにしてあげます」
「それ愛なの?」
「はい」
「撲殺天使か」
「ふん?」
「優しくしてください」
「うん」
俺たちは、西門から出て牧草、草原を通過して丘を越えた。
そこにはイノシシとヘビが出るらしい。
肉まん屋のおばちゃんに聞いた情報だった。
イノシシ、こいつはアベルボアだ。
ん?
あの美味しいお肉ちゃんじゃないか。
絶対仕留めるマン。
「クロスボウよろ。3からカウントするから同時に攻撃しようず」
「えいさ」
「3、2、1、ファイヤ」
イノシシに矢が飛んでいく。
そして俺の手からは「石」が飛んでいく。
どちらも見事命中。ウサギならこれで終わりだったけど、イノシシはまだ平気な顔をしている。
石は
知ってるか。聖書にも記載されている世界最古の武器のひとつだ。
聖書にはこうある「あなたがたのうち、罪を犯したことがない者が、最初に彼女に石を投げなさい」。
俺は軽い罪を犯したことぐらいならあるが、相手は罪人ではなく、コンピューターデータのイノシシでお肉ちゃんだ。
若干のためらいはあるけど、ゲームだと割り切るしかない。
投石で人は死ぬ。すぐには死なないので処刑のひとつ、娯楽として古来から使われた。戦争でも意外と使われてきた。
お城にも石落としの仕掛けがよくついている。
イノシシがそのまま接近してきた。
「おりゃあ、槍攻撃!」
俺の槍が
ダメージは入ったようだけど、まだまだ元気なようだ。
前衛が戦っている所を後ろから弓矢を使うのは、物理的に考えれば難しいのがすぐに分かる。
フレンドリーファイヤというやつだ。
このゲームで同士討ちが発生するかは知らないが、痛いのは嫌なので、遠慮したい。
昔のゲームでは、味方は貫通してノーダメージでその向こう側にいる敵だけにダメージがあるなんてのもザラだった。
あるあるというかシステムの都合だ。
人間がコンピューターの敵だけを倒すゲームをPvE、Player vs Enemyという。
対して人間同士の対戦、将棋とかサッカー、FPSの銃撃戦とかを、PvPという。
これはMMORPGでは、対人あり、決闘のみ、対人なし、のように分類し、その決闘モードをPvPと呼んでいる。
対人なし系統では、人間を殺すことができない。
これは平和なようで、ウザイ問題行動をする悪質プレイヤーを対人戦という方法で排除できないことも意味している。
MMOでのフィールドでの対人、殺人行為をPK、Player Killという。PvPが対戦、格闘技的なのに対して、PKはゲーム内のロールプレイとしての犯罪と定義されていることが多い。
ゲームシステムに犯罪者と認識されてしまう。
しかしPKが実装されているゲームでは犯罪をゲーム内でする「自由」が認められている、ということになっている。
VRゲームでは、橋や崖、家の屋根や城壁から突き落とすことも可能で、実質的なPKが可能だ。
縛り付けてモンスターの前に放り出すことだってできる。
敵をプレイヤーに押しつけてそのプレイヤーを殺すのをMPK、Monster Player Killという。
大量の敵を連れて歩く行為をトレインとよび、トレインの敵を他のプレイヤーに押しつけてするMPKが問題になることがある。
このように武器によるPKがなくても、抜け道はどのゲームにもある。