第22話「新たな装備品」

教えてもらった洞窟は入口に厳重に魔法で鍵がしてあるもので専用の鍵が無いと開かないようになっていた。どうやらエルミスの職人達を中心にして管理しているらしい。僕たちは借りた鍵でその扉を開ける。

「おじゃましま~す……わぁ……!」

 洞窟の中は伸びた魔水晶が岩肌に露出しており、それが放つ光が反射してキラキラと輝いていた。

「すごい、魔力の濃さ……確かにこの濃さだったらこれくらいの魔水晶が出来てもおかしくないね……」

 魔水晶はいわゆる魔力の塊だ。魔力というのは目に見えないもので空中を漂っているらしいのだが、洞窟などの狭い空間で一か所に集まりすぎると凝縮されて少しずつ結晶化していくらしい。それが長い長い時間をかけて大きくなり、こうやって水晶になるのだ。

「確か、生えてるのは触っちゃダメって言ってたから……あ、ほら、これこれ。自然に折れて落ちてるやつを回収すればいいんだよね!」

 アリアが目を輝かせながら入っていく。魔水晶は貴重なものだ。グレイストーン王国をはじめ、ここら辺の地域が豊かなのはきっとこれが理由だろう。

「小さいのが二個あれば足りるって言ってたから、うん。それで十分かな。貴重なものだし無くさないようにね」

「はーい!」

 彼女は拾った魔水晶を大切そうに鞄にしまう。

「じゃあそろそろ帰ろうか」

 あまり長居するのもよくないだろう。漏れ出た魔力でエネミーが寄ってくることもあるらしい。一応扉は閉めているが念のためだ。綺麗な光景をもっと見たいという思いはあれど僕達は言われた通り目的を達成したらすぐにその場から離れた。


 僕達は回収した素材を持って村に戻った。ガルドさんの所に向かって声をかける。

「おう、おかえり。どうだい?集まったかい?」

「はい!あと、一つ聞きたいことがあるんですけど……」

 そういって僕はアイテム鞄の中に手を入れてメェリスの死体と、ついでにツノウサギの死体も取り出す。こっちも捌いてもらいたい。僕が全部取り出して見せると彼は驚いたように眼を丸くした。

「お、お前……ちょっとこっちこい!」

「え、あ、はい!」

 ガルドさんに手を引かれて工房の奥の方に行く。周りに誰もいない事を確認して彼は僕にしか聞こえないような声でコソコソと話す。

「お前、今使った鞄、どうなってるんだ……?」

「どうなってるって……えっと、普通の鞄では……?」

 彼はため息をつく。

「そういえばお前たち遠い所から来たんだっけな……?常識をしらないのか分からないが、その鞄を人前で見せるのはやめた方がいい。それ、すげぇ高価な物だからよ……」

「えぇ……!?」

 そう説明されて僕は思わず声をあげる。今までのエルドラで何の違和感もなく使っていた物だ。どうやらこれはゲームの中だから許されていたものらしい……。僕たちにとってはここはゲームの中だとしても彼らにとってはリアルの世界だ。ほぼ無限に物が入る鞄というのはありえないものなのだろう。

「わ、分かりました……。ありがとうございます……」

「これからお前さん達はいろんな人に出会うだろうし、気を付けた方がいいぜ。狙われちまうかもしれねぇ」

 そう彼は注意してくれる。ガルドさんが優しい人で良かったと安心しつつ、この話は後でアリアにもしようと思った。

「ちなみに村の皆さんはああやって獲物を捕まえたときはどうやって運ぶのですか?」

「ううん……そうだなぁ、荷車に乗せたりとか、その場で捌いたり……とかだな。良かったら捌き方教えてやろうか?」

「いいんですか?すごく助かります……!」

「いいよいいよ、これくらい。あとは……そうだなぁ、氷原に行く前に王国にいって商人登録をするといい。行商人ならディメンションポーチを持ってるやつも少なくはないし、色んな所にいってても怪しまれないだろう。他の国に行くっていうのも行きやすくなると思うぜ」

「なるほど……丁寧にありがとうございます」

 どうやら、この世界でのこのアイテム鞄はディメンションポーチと言うらしい。行商人と言えばエルドラの世界にもあった職業の一つだ。冒険をして得たアイテムを売る、ロールプレイ用の職業で、それに登録しているプレイヤーはアイテム取引等の面で有利になったり獲得できるドロップアイテムが稀に増えたりするといった形の職業だったのを覚えている。話をもう少し詳しく聞けば、他の地区に行くにはそれ相応の理由がいるらしい。現状、僕が光の守護者に選ばれていることは今はまだ内緒になっており、何かしらの表向きの理由が必要だろうと言う事だ。ここら辺は王様に話を通せば考えてくれるだろうとの事なので後でマルクスに相談することにしよう。

「じゃあ工房に戻ろう。簡単な捌き方教えてやるよ」

 そう言って僕はガルドさんと一緒に工房の方に戻った。不思議そうな顔で待っているアリアにこっそりディメンションポーチの事を説明して、それから二人で解体技術について教えてもらうことにした。

「ここを、こうして……こう……ほら、やってみな」

 ガルドさんが丁寧に説明してくれるおかげで、最初こそ手こずったもののなんとか解体することに成功した……といっても僕達が手を出したのはツノウサギだけなのだが……。

「初めてにしては上手だったぜ。もしかしてやったことあるのか?」

「え、あぁ……地元でちょっとだけ……」

そう言って僕はごまかす。一応解体だけなら元のエルドラでやっていたがアレはスキルありきだ。体が覚えているのかそれっぽい動きは出来たけどあの時みたいに完璧にはほど遠い。

「よし、あとは俺達の仕事だ。装備が出来るまで時間がかかるから……それまでは村でゆっくりしてこい。みんなお前さん達なら歓迎だからな」

「はい!ガルドさんもいろいろありがとうございます!」

僕とアリアは彼にお礼をいって工房を後にする。完成したら知らせてくれると言う事で、あと数日はこの村で過ごすことになりそうだ。