46 夏祭りだよ


 八月の第二日曜日。今日はお祭りなんだよ。

 王都での主催は国王だけど、一応ルーセント教のお祭りなんだ。

 要するにルーセント教が国教になっていて、宗教にも国の影響があるんだ。

 世界的にも各地で大小のお祭りが開かれるんだそうだよ。


 お祭りの名前は聖ヘクトリーナデーといって、聖ヘクトリーナ様が聖人に認定された日なんだって。

 三百年くらい前、ただの田舎の町娘だったヘクトリーナ様は天啓を受け、聖魔法に目覚めたそうだ。そして人々を癒やし続け、教会に所属し、町から領都、そして王都へと移動になり、ついに王様までもお世話になった。

 その見返りに、生きているうちに、聖人の称号を教会から与えられたのが、八月の第二日曜日なんだってさ。


 なんでも聖ヘクトリーナ様は大層な美少女で、毎日のように告白されていたとか。

 それにあやかり、愛の告白をするといい日とされてるんだよ。きゃあ。


 うーん。今の所、男の人には、特に興味はないかな。

 この前もイケメンにだまされたばかりだし。

 顔だけじゃだめだよね。もっと経済力とか、いろいろ理解してくれる優しい人じゃないと。


 それともうひとつ特徴があって、地域にもよるんだけど、お魚を食べる日なんだよ。

 お魚がどうしても手に入らない地域は、お肉の日みたいだけど。


 実家の田舎村でもやっぱりお魚の日で、普段あんまり食べない川魚、あとは干物の海の魚が運ばれてくるんだよ。


「お魚の日だね、どうしよっか」

「お魚もなんでも好きですよ」

「さすが食いしん坊のマリーちゃん」

「えへへ」

「シャロちゃんは?」

「私はいつもはイカリナですね」


 イカリナは湖で取れる小型の魚でとっても美味しい。そのぶんちょっとお値段高めだ。

 この辺ではお魚の日といえば、イカリナなんだそうだ。もちろん富裕層の話だと思う。


「よし、決めた。イカリナにしよう。マリーちゃん買ってきて」

「了解しました」


 マリーちゃんしくよろ。

 あ、日曜日で普通のお店はやってないけど、今日はお祭りだから特別にやっている店が多いんだ。

 なおうちはお休みです。


「シャロちゃんは錬金術の練習だあああ」

「え、あ、はい」

「下級、中級と出来たからね、上級は高いから飛ばして、特級の訓練してもらおうかね」

「は、はい」


 訓練と言ってもポーションを作るとかではない。魔力を練る練習だ。

 こう両手をかざして魔力を手に循環させる。もっともっとだ。特級の込める魔力はそんなもんじゃない。いっぱい魔力使う練習しないと、出来ないよ。


「ねーるねるねる、ねるねるね、はいっ」

「えっと、ねーるねるねる、ねるねるね」

「いいよいいよ、もう一回」

「ねーるねるねる、ねるねるね」

「そうだよ、もっとあと十回」

「ねーるねるねる、ねるねるね……」


 はあ、けっこう魔力を練ったね。頑張った、頑張った。集中力いるから大変だよね。

 はあっと手を放すと、あれだけ集まっていた魔力もどんどん飛んで行って霧散してしまう。不思議な光景だ。


 恋人たちが告白する日だからと、お外でデートしたり、日曜だけど特別にやってるレストランで食事したり、と甘い時間を過ごすみたいだけど、我々には関係ないのだ。のだあぁあ。


 子供たちにとっては、この日はというと、お魚クッキーという魚の形のクッキーを貰える日ということになっている。

 ただし、お店もやっていないので、親から貰える子もいるというだけだ。

 もちろん貧困街とかではこういう風習もないと思う。


 明日朝にお魚クッキーを作って持っていこう。一日遅れだけどまあ許してもらおう。


 うちではマリーちゃんが帰ってきて、イカリナを素揚げにした。


「いただきます」

「「いただきます」」


 さっそくイカリナを食べる。


「ん、美味しい。塩加減もちょうどいい」

「あ、美味しいですね」

「でしょ、美味しいですよこれ」


 みんなでイカリナを食べた。

 知っている魚でいうとワカサギみたいな感じだね。小さいから骨まで食べられる。サクッとしてるし、お魚の旨味もある。

 美味しかったです。