第117話 不要

ヤジマとキタザワは、

斜陽街一番街のバーにやってきた。

玩具屋に頼まれた、緑色の細工の入ったおもちゃを届けに来たのだ。


入口を開けると、

来客を知らせるベルが、カランコロンと鳴る。

「いらっしゃいませ」

と、カウンターの男が言った。

見たところ、大きく繁盛している訳でもないが、

寂れている訳でもない。

ゆったりした時間の流れるバーだ。

そして、店のものと思わしき男は、

さっき挨拶をしたカウンターの男だけだ。

玩具屋の言うバーのマスターなのだろう。


ヤジマはカウンター席に座る。

キタザワも隣りに座る。

「ギムレット」

ヤジマが注文する。

「あ、ファジーネーブルを…」

と、取ってつけたようにキタザワが注文する。

「かしこまりました」

と、バーのマスターがカクテルを作り出す。


やがて、注文したカクテルが並べられる。

ヤジマは少しギムレットを飲み、

そして、

「これ、玩具屋とか言うやつから預かってきた」

と、緑色のおもちゃを取り出した。

ギムレットの隣りに置くと、優しい緑色が際立つ。

「あんたのか?」

ヤジマが聞けば、

「まぁ…今は私のものです…」

と、バーのマスターは曖昧な返事をした。


そして、バーのマスターはおもちゃを受け取り、

酒瓶の並んでいる棚の隅に、ひっそりとおもちゃを置いた。


ヤジマがグラスを空ける。

「それじゃ、そういうことだ。代金は?」

「いいえ…これを届けてもらっただけで十分です」

「そっか…じゃあな」


ヤジマが出て行こうとし、

キタザワが追いかける。


「…ちょっと、待ってください」

バーのマスターが何かに気がついて呼びかける。

「何だ?」

と、ヤジマが振り向く。

「いえ…ちょっと気になったことが…その鞄…」

「!」

ヤジマがさっと、宝石の詰まった鞄を隠す。

「いえいえ…取ろうとしている訳ではありませんが…もう、あなたたちには不要なんではないですか?」

「不要?」

「もう、要らないんじゃないですか?…それだけです。呼び止めてすみませんでした」


そして、バーのマスターは、黙々とグラスを拭いた。


ヤジマとキタザワがバーから出てくる。

「これからどうします?」

キタザワが聞けば、

「こいつら、処分するか」

と、鞄を示す。

「え!」

「適当なところ探そう。行くぞ、キタザワ」


困惑したキタザワをよそに、

ヤジマは何か吹っ切れていた。