第103話 染色

斜陽街の一角で知り合った、

色のない魚の『シキ』と、空っぽの異邦人の『クウ』は、

思うように斜陽街をふらついていた。


そして、斜陽街の路地の一角で、

黒い人影と、クウがすれ違った。

ぼんやりしたクウが黒い人影にぶつかってしまう。

「すまない」

と、人影の方が謝った。

クウはよくわかっていない。

「こっちこそすまねぇ、おい、クウ、こういう時は謝るもんだ…って、お前空っぽだからわかんねぇんだな」

シキはちょっと呆れたように言った。

そして、シキは人影の持ち物に気がつく。


黒いボウガン。


そして、まじまじと人影を見る。

黒い短めの髪、黒いサングラス、黒いスーツ、あまり背は高くない…

「あんた…何者だ?」

シキがたずねる。

「僕は羅刹。殺意を形にしている者だ」

彼はそう名乗った。


シキは、羅刹の黒ずくめの姿をじーっと見ていた。

そして、

「あんたの黒、少し分けてくれないか?」

と、申し出た。

羅刹も羅刹で、

「構わないよ。以前壊れた思い出の黒をスーツに移したから…それを持っていくといいんじゃないか」

「サンキュ」

と、シキは礼を言った。


そして、スーツから、ゆるゆると黒が移る。

ゆっくりと、シキが黒に染まる。

シキは黒っぽい魚になった。

「少し軽くなったよ」

「こっちは重くなったぜ」

羅刹とシキはそう言って笑いあった。


何もわかっていないクウが取り残されていたので、

シキは、

「俺の身体に触ってみろ」

と、言った。

クウが、シキに触れる。

クウの中に何か流れこんでくる。

心地よいもの、よくないもの…

シキもそれを感じたようだ。

「クウよ。それが、きもちいいってことと、きもちわるいってことだ。お前にとって、いいこととわるいことだ」


シキとクウは羅刹に別れを告げ、

また斜陽街を歩いた。


クウは、斜陽街はきもちいいと感じた。