第87話 間一髪

ヤジマとキタザワは、

鷹の彫られた扉に逃げ込んで、

扉のたくさんあるところへやってきた。


そこでは爺さんが鑿をふるっているだけで。


荒い息が落ち着いたところで、

ヤジマが話しかける。

「おい爺さん」

「…」

「ここは何なんだ?」

「ここは斜陽街の扉屋…」

「しゃようがい?とびらや?」

ヤジマがキタザワを見る。

キタザワも、ちんぷんかんぷんのようだ。


「とにかく爺さん、警察に通報するなよ。行くぞ、キタザワ」

ヤジマは一つだけぽつんとある、

出入り口らしい扉を開いた。


風が吹いた。

ヤジマもキタザワも感じたことのない風が吹いた。

「斜陽街…」

どうやら別の街に来てしまったようだ。

それだけは二人もわかった。


警察が追ってくる気配はなく、

そのかわりに、寂れた街に、雑多な店が並んでいる。

中にはシャッターが下りている店もある。

そんな街を二人でてくてくと歩いた。


「これからどうします?」

「どうするってなぁ…あ!」

ヤジマが何かに気がついた。

「占い屋だってよ。取り合えず何かの道標になるかもしれない」

「当たるも八卦当たらぬも…」

「いいんだよ、どうせ何にもわかんないんだから」

ヤジマが占い屋に入っていく。

キタザワもそれに続いた。


「あら…お客さん?」

占い屋に入った二人を迎えたのは、

オリエンタルな香の香りと、

泣きぼくろが印象的な、色っぽい女性だ。

ファッションショーにでも出てきそうな、ぴったりとした服を着ている。

「変わった卦が出たから…やっぱり変わったお客さんが来たわね…」

やっぱり占い屋だなと二人は思った。

「あたしは『占い屋のマダム』とでも覚えてくれればいいわ…」

「俺達は…」

キタザワが名乗ろうとするのを、ヤジマが制した。

「ばか!ここでもお尋ね者になる気かよ!」

「え、そ、そんな訳じゃ…」

「あら、お尋ね者?…ますます変わっていていいわ…」

マダムの持っていた長い針がきらりと光る。

ヤジマの勘が、危険と叫んでいた。

「失礼します!行くぞ!」

ヤジマはキタザワをつかんで出て行こうとする。


ヒュッ!

針が風を切って、壁に刺さった。


「あたしのコレクションにならない…?」


彼等は振り向かずに占い屋をあとにした。

少し街を行ったところで、噂を聞いた。

占い屋のマダムは、変わった卦のある人間を、動けなくしてコレクションにする、悪い癖があると。


間一髪だったんだなとヤジマは思う。

警察が来なくても、それなりに注意が必要だと、ヤジマは自戒した。