第70話 糸

神屋に神様が住み着いた。

男の神様と女の神様。

幸せそうに融合して。

二人で一つになって。


神様達は、自分が特殊な糸を紡げることに、気がついた。

男の神様も、女の神様も。

不思議な色合いの、頼りない糸。

「編んでみようか」

そう言い出したのはどっちだったか、今ではわからない。


神様達は糸を編んで、

不思議な編み物にしている。

この編み物が誰かの手に渡り、

何かの役に立つなら、神様達は幸せだ。


今日も斜陽街には風が吹く。

神屋の窓が小さく鳴る。

神様の編み物は、

一区切りついたらしい。

編んでいた指から、ふっと糸が切れる。

そして、不思議な色合いの編み物がそこに落ちる。

「こんなものかな」

「そうね」

そして、二人で微笑みあう。


やがて誰かが神様の編み物を見に来るかもしれない。

最近よく出歩く夜羽だろうか。

近所の探偵だろうか。

それとも、扉からやってきた誰かだろうか?

または、電網系のあなただろうか?


男の神様と女の神様。

二人の糸が絡み合う。


頼りない糸達。

どこかへ繋がる糸達。


それは神様達の紡いだ、頼りない物語。

終わらない。

この物語も。

どこかへ編まれゆく糸。


またどこかで糸が編まれ、

一つの形になるかもしれない。

その時はどうか、糸の行く末を見守ってもらいたい。


神様達はまた糸を編み出した。


ここは斜陽街。

懐かしいけれどどこかずれた街。

これは斜陽街の物語。

記憶の底の物語…


ではまた、斜陽街で逢いましょう。