第52話 熱

一番街に、寄り添うように病気屋と熱屋がある。

病気屋でもらった病気の、熱さましを熱屋がする。

病気屋の病気は必要以上の効果を発揮しないが、

客が思った以上の熱が出てしまった時など、需要はある。


熱屋は熱をカプセルに閉じ込める。

直径3センチほどのオレンジ色のカプセル、

それが体温に換算して1度程らしい。

それを、大きなガラスの球状の器に入れている。


熱屋の彼女は、訳あって成長も老化も止まっている。

黒い髪の長い、…ちょっと虚ろに笑う、ついでに血色もあまりよくない、痩せた、

少女と女の間の女性だ。

真っ白いティーシャツと青いジーンズをいつも身につけている。

がらはない。

季節によっては寒そうだが、そんな時は売り物であたたまっているらしい。


「邪魔するよ」

背の高い、もっさりした熊のような白衣の男が熱屋に入ってくる。

隣りの病気屋だ。

「いらっしゃい」

熱屋が虚ろに笑う。

それを見て、病気屋がちょっと辛そうに笑い返した。

その表情を読み取って、熱屋が不思議そうに首を傾げる。

「…どこか痛いの?」

病気屋は首を横に振る。

「辛そうだよ?」

「…辛くないと言えば嘘になるが…」

「なら…」

何か言おうとした熱屋を、そっと病気屋が制した。

そして、熱屋の冷たい頬に手を置き、病気屋は真っ直ぐに熱屋を見る。

病気屋が呟く。

「…どうしたらその笑顔が満たされるんだろうなぁ…」


やがて、病気屋が手を離す。

熱屋にはその意味がわからなかったようだ。

やっぱり不思議そうな顔をしている。

病気屋は大きな手を熱屋の頭に置くと、わしゃわしゃと熱屋の髪をかき回した。

「ひゃっ!」

熱屋は突然のことに驚く。

驚きもさめないうちに、

「…何でもない、邪魔した」

と、病気屋は出ていってしまった。


…熱い気がする。

熱屋はそう思った。

手が置かれた頬が。

…熱い気がする。

そう思って自分から熱を取り出そうとしたが、

取り出せるような熱はなかった。


この熱は何だろう?

熱屋は不思議な熱をしばらく感じていた。