第26話 薬

「はい、これが毎食後に一錠。忘れないで飲んでくださいね。お大事にぃ」

少女が客に薬を渡す。

少女は薬師。名前をリィという。

黒いぼさぼさ髪を後ろで一つにまとめ、デニムのワンピースを着ている。

そして、気が強そうな目をしている。

ここは三番街、がらくた横丁の薬師の店だ。


薬師の仕事は…説明するのは簡単だ。

要は薬を調合すればいい。

それには知識が要る。

薬師のリィは、どこで得たかは知らないが薬の知識は十分にある。

病気屋からまわされたり、またはそうでないお客を相手に、結構繁盛しているらしい。


薬師はよく、一番街の電脳中心に行く。

薬師宛てのメールはここで預かってもらっているからだ。

「こんにちはー」

元気良く挨拶。

「いらっしゃあい」

と、電脳娘々が出迎える。

「ね、ね。シャンジャーからメール来てる?」

「来てるよ。待っててね…端末に落とすから」

リィはその時間をわくわくして待っている。


「『今日もバグ取りしてました。電脳風水師の仕事は意外と地味です』だって。リィは、結構カッコイイお仕事だと思うんだけどなぁ」

「電脳に携わるのはシャンジャーに限らずみんな地味よ」

「むぅ、シャンジャーきっとカッコイイもん」

「妄想は夜羽のとこにでも持って行ったらぁ?」

「娘々ひどぉい」

そして二人でケラケラ笑った。


「リィはね、薬師のお仕事好き。誇り持ってる」

「誇り…ってわかってて使ってるの?」

「失礼な!……って、実はわかんない。てへへ…」

「あたしにはあんたの方がよくわかんない…」

「そぉ?」

リィは屈託なく笑った。


「それじゃ次来る時は例の薬持ってきてね」

「ああ、腰痛の薬ね。娘々座りっぱなしだもんねぇ」

「大声で言うんじゃないの!」

「えへへー」

リィは笑って誤魔化すと、ばいばぁいと電脳中心をあとにした。


これから腰痛の薬の調合だ。

お客が来ていたらそっちもやらないと。

やることは結構あるのだ。


リィは薬師の仕事がやっぱり好きだ。