79.ドクダミとヨモギ


「すまん、少し遅くなった」

「あ、いや、別にいいよ」


 いきなり俺に謝ってきたのはハリスだ。


「売り上げの二割だったか。はい金貨三枚」

「あっ、ああ」


 学校でこんな大金ほいほい渡すなよ。

 とは思ったものの、もう遅い。


 放課後だけどまだ駄弁りのお子様が何人か残っている。


 周りの子はちらちら金貨を見ているが、だんまりを決め込むか。

 というかなぜ金貨に両替してきたんだ。

 普通に銀貨で収入貰ってたら金貨にならないはずだろ。


 見栄か。何かの見栄なのか。

 他人の考えていることまでは俺の能力ではわからない。


「すげえよな。あの俺らが金貨を渡すんだぜ」

「そうだな。しかし銀貨でもよかったんだぜ」

「えぇ?」

「なにその不思議そうな顔」

「いや、エドは金貨のほうがよろこぶかと思って」

「いや、どっちでもいいから、次は適当にしてくれ」

「わかった」


 なにやら考え方にすれ違いがあったもよう。

 商売で話し合ってなければ、そんなもんか。


 ドリドンさんはどっちがいいか聞いてきたっけな。

 金貨も銀貨も金があるからできる芸当ともいう。その余裕は羨ましい。


 ハリスもいっちょ前の顔して俺と握手した。


 ちなみにこれはドリドン雑貨店での売り上げの二割だ。

 他の仕入れは俺が支払う側なのでその都度払っている。

 貰ったり払ったりややこしいがご勘弁願いたい。


 どうでもいいと思っていたので不干渉でいたんだけど、本当に二割貰えると、金額はともかくうれしいな。

 そして実際に金貨三枚とか。


 これはプール金に突っ込んでおこう。

 四人で割りにくいし、かといって初期の三人で割るというのも、みんないい顔をしないと思う。


「そうだハリス。あのなドクダミとヨモギってわかるか?」

「いや、全然。草なんて今まで興味なかったし」

「だろうな」


 ガキ大将が草に詳しかったら逆にびっくりだわ。

 どんな短い人生送ってきたんだってなる。


 俺たちは草原に移動して、ドクダミとヨモギそれからツキミソウを教える。


「これをブレンド。ブレンドってわかるか。混ぜるんだ。分量は同じくらいにしてくれ。あと犬麦茶も混ぜる」

「それで?」

「健康茶ってやつだよ。健康にいいとされてる。民間療法だよ」

「あぁメルンさんの」

「ああ」


 正確には違うが、似たようなものなので頷いておく。

 ヒールやメルンさんの薬草、薬草茶は「マジ」で効くタイプなので、民間療法より強力なんだけど、説明するのがだるい。

 あとあれはたいてい本来は高い。もしくは「くそ高い」のだ本当は、たぶん。

 どこから調達してるのか平気な顔して処方したりしていたが、なんなんだあれ。


 実はマジックバッグとか持ってるのかな。

 で乾燥薬草みたいのを詰めてあるとかか。それなら理由にはなる。


「わかった。知り合いには俺が教えておく。サンキュー」

「ほいほい」




 こうしてドクダミ、ヨモギ、ツキミソウ、イヌムギの健康茶ができた。

 店で出す種類は絞りたいとは思っているんだけど、健康茶は入れたかったので増やした。


 ドリドン雑貨店それからトライエ市内の例の雑貨店でも取り扱ってくれているらしい。

 すでにハーブティーと犬麦茶を出荷していて、そっちの料金の二割も利益に含まれているそうだ。


 さて本当はタンポポ茶をどうしようかな、と思っている。

 作り方は知っている。


 根っこを掘り返して干して細かくして炒るんだけど、根っこを取ってしまうとなくなってしまう。

 採りつくしたりしないとは思うけど、少しだけ心配だ。


 あと自分でその工程をやるのはだるすぎるため、やはりハリスにアウトソーシングするのがいいと思う。

 面倒な作業は任せるに限る。


「ということでタンポポの根を炒ったのがタンポポコーヒーになる」

「お、おう。よく知ってるな」


 試しに一緒に作って試飲してみた。


「うまいなエド。香ばしいというか、いい匂いして」

「そうだな。思ったよりも美味しいな」


 俺とハリスでコーヒーを楽しむ。


「数量限定になるが、店で出す分は俺たちで作るか」

「すまん、たのむ。ハリス」

「ああ。ドリドンさんちまでは回らないからエルフィールの専売だな、当分は」

「そうなるね」


 これで喫茶店の飲み物メニューはハーブティー、犬麦茶、レモン水、健康茶、タンポポコーヒーの五種類になった。

 なるべく少ない手間、メニューでと当初考えていたが、やっぱり欲しいものを追加していくとどうしてもこうなってしまうな。


「んじゃ、今後もご贔屓ひいきに。ハリス」

「ああ、まかせておけ。エド」


 俺とハリスが暗黒微笑で握手を交わす。

 ハリスはあまり手間の割には儲からないが、ハーブティーだけでは売り上げが頭打ちで、増産してもそれほど売れそうになかったようだ。

 そこに新しい仕事として健康茶とタンポポコーヒーが入ってきたという状態だった。


 だからホクホク顔で仕事をしてくれるらしい。

 比較的安い仕事だが、トライエ市内の雑用よりは倍以上稼げるとあって、やる気は十分だった。


 ハリスの舎弟というか友達も一緒に仕事をするので、分け前が増えることになり大歓迎ということだった。

 今までは少ない仕事を交代で休みを入れて回していたので、ワークシェアリング状態だったのだ。

 毎日働きたいというわけではないが貰える額が増えるならやるだろう。


「エド、お前いいやつだな」

「今さらかよ。俺は前からいいやつだぞ」

「くぉっ。なにが黒髪黒眼は呪いの子だ。嘘っぱちじゃねえか」

「まったく。魔素占いだっけ?」

「そうだぞ。伝統の魔素占いな。なにが魔素占いだよ。信じるだけ損だったな。前は、その、つっかかってごめん」

「いいって。もう過ぎたことだ」


 なんだかんだ、俺たちはいい商売相手になりそうだ。

 子供の仕事だとか思ってアウトソーシングしているけど事業は安定しているし、ひっそり儲けているから十分だったな。

 さらにお茶の種類増やして、販路をもっと広げて、あとは他のお店や町まで輸出できるようになればもっと売れる。

 俺の仕事ではないがハリスがやる気になれば、一生この仕事でも大丈夫だな。


 まあハリス、なんやかんやお茶屋もいい仕事になりそうだ。がんばってくれ。