木曜日。
今日も朝ご飯を食べたら出発だ。
ミーニャを連れ、スラム街を抜けて草原の様子を見に行く。
「お、やっぱり、なってる、なってる」
草原にはぽつぽつと間隔を空けつつ、赤い実がなっていた。
【ノイチゴ 植物 食用可】
二週間前はまだ白い花だった。
それが一斉に実になろうとしている。
まだ完熟になり始めで、今日あたりからしばらく収穫できそうな感じになっている。
問題はスラム街の草原は、子供たちの縄張りであり毎年ノイチゴだけは、みんなで採って食べるという習慣があることだった。
このノイチゴを集めてジャムにすれば、かなり儲かる。
しかしみんなに声を掛ければ、ジャム作りが露見するし、代金の分配も必要だ。
勝手に自分だけで採れば大
ということで切り株のある草原は諦めようと思う。
しかしどういうわけか、抜け道があった。
それは道を渡った川岸の平地にも、草原ほどではないけど、ノイチゴはなっているということだ。
子供たちは食べたいには食べたいが、そこまでして採りに行くほどでもないということなのか、なぜかこちら側の分は基本スルーしている。
「ひっそりと川岸の平地のノイチゴを集めます」
「はーい」
そうと決まればラニアを迎えに行こう。
「ラーニーアーちゃーんー」
「は、はーいっ」
「川岸でノイチゴを集めてジャムにします。子供たちにバレないように、そそくさと」
「わ、わかりました」
ということでスラム街を通って街道を渡り、南側の川岸へ。
「なってる、といえば、なってるね」
確かに草原ほどたくさんはなっていない。
しかし集めればかなりの数になるのは間違いない。
切り株の草原より、川岸のほうが広い。
前世のおかげで、算数は得意だ。
心の中でそろばんをはじいた。
一つのイチゴの低木に到着。
さっそく摘んでいく。
一か所に何個もなるので、一度見つけるとそれなりに採れる。
また次のイチゴの株に移動、摘んでいく。
合間にタンポポ草なども採取しつつ、どんどん集めた。
「はい、エド」
「エド君、どうぞです」
「ありがとう」
別に俺が貰うわけではないけど、なんとなくお礼を言う。
ミーニャは俺によろこんでもらえるのをよろこびとしているので、すごくうれしそうだ。
ラニアも多少なりとも、そんな感じはある。
お金になるというのも、これが集まればジャムになるというのも、うれしいのだろう。
赤とオレンジのノイチゴが大量に集まった。
色は違うけど、一緒にしてしまう。
午前中ぎりぎりいっぱい、今日の分は集め終わった。
かなり採れたと思う。
アイテムボックスも残り容量も減っている。
「はい、ミーニャ、ありがとう、終わりにしよう」
「うにゃあ」
「ラニア、ありがとう。終わりだよ」
「はいです」
それぞれ声をかける。
「家に帰ってお昼を食べたら、ジャムにしよう」
「やったっ」
「楽しみです」
いやあやっぱりジャムは格別だ。
しかも美味しいのはわかっている。イチゴだもんね。
ストロベリーじゃなくてラズベリーに近いけれど、イチゴジャムとパンとの相性は前世でも保証済みといえる。
家に帰ってきて、いつものように野草のお昼ご飯にする。
「さて、ジャムを作ります」
「はーい」
「いよいよですね」
イチゴを鍋に投入。少量の塩、水を加える。
イチゴのいい匂いがする。
赤いイチゴの色がおいしそう。
「「(ごくり)」」
二人とも我慢できないという顔をして、見てくる。
まだ早い、もうちょっとだ。
「完成!」
「「わーい」」
いつの間にかパンを用意している。
ナイフで切ってあげる。
そして薄切りにしたパンにイチゴジャムを塗って、一口。
「「おいしー」」
「お、うまいじゃん」
なかなか。ほどよい甘さ。ちょっとの酸味がまた美味しさを引き立てる。
このバランスが素晴らしい。
あと匂い。イチゴのいい匂いがいっぱいだ。
やっぱりジャムといえばイチゴ。イチゴといえばジャムなのだ。
俺は二人がまだ食べたそうにしているのを尻目に、次のイチゴジャムの作成にかかる。
そうしてイチゴジャム第一弾が完成した。
ビン詰めもしてドリドン雑貨店に向かった。
「ドリドンのおっちゃん、おっちゃん」
「お、なんだエド」
「イチゴ、ジャム」
「お? 確かにそろそろそんな時期だが、子供のおやつだったろ」
「そうなんだけど、川岸のほうは採らないから」
「なるほど。それでいくつだ?」
「20、ですね」
「味見は?」
「あるよ」
俺は味見用のイチゴジャムを渡す。
さっそく売り物の黒パンを薄切りにすると、奥さんを呼び出した。
パンにジャムを塗る。
食べる。
「美味しいわ」
「美味いな」
奥さんもドリドンさんも、味には満足のようだ。
「問題は値段だな。ブドウよりも俺は好きだ」
「私もそうかもしれないわ」
「6,000ダリル、手取り5,000ダリルでいいか?」
「いいよ」
俺は二つ返事をする。ブドウと同じだった。
もっと高くても売れるだろうけど、素人の砂糖なしの値段としては、これぐらいが限界かもしれない。
「では、販売よろしくお願いします」
「おお、まかせろ」
ドリドンさんと腕を突き出すポーズで、お互いの健闘を称えて別れた。
さてどうなるかな、イチゴジャム第一弾。
そう、これは第一弾なのだ。
まだ収穫前期で、もう1回か2回は作れる。お金は倍ドンだ。
もちろん、ラニアにもひとビン渡した。