引き続き火曜日、午前中。
森に入る直前でいつものようにミーニャに声を掛ける。
「神様へのお願い、祝福よろしくミーニャ」
「あ、はい」
三人が向き合い、ミーニャが真剣な顔で祈る。
「ラファリエール様、私たちをお守りください」
シュパシュパッと右から左、左から右へと
祝福完了だ。
いつもは森が深くなる北へ向かうが、今日は東に向かう。
森に入ると、山そのものは木で見えない。
森に入り平地を進む。
しばらく進むと突然、登り坂になってくる。
「ここから見張り山だね」
「そうだね」
「初めて来ます」
山ったって100メートルだ。
登るのはだるいが、これくらいは余裕だろう。
ここには街道からの登山道があるので、道なりに進む。
ぐるぐる回って、上まで行くようだ。
一角ウサギ、はいるかなぁ。
お肉が欲しい。
別に干し肉も悪くはないが、たまには違うものが欲しい。
経験もしたい。
「エド、あれっ、ウサギ」
「お、お出ましか」
一角ウサギだ。
普通のウサギより大きい。倍くらいある。
色は茶色。
『鑑定』
【(名前無し)
2歳 オス F型 一角ウサギ
Eランク
HP147/152
MP102/129
健康状態:A(普通)
】
俺たちより健康じゃん。
「キュピキュピ」
お、鳴いた。わりとかわいいが、こいつはお肉なので。
モンスターなので。
「ラニア」
「はい。燃え盛る炎よ――ファイア」
火球がウサギめがけて飛んでいく。
「グニャア」
イチコロではないですか、ラニアさん。
「はい一撃」
「そ、そうだな」
「すごいね」
ウサギちゃんは目を回しているようだ。
すでに倒れて動かないが、俺が剣でとどめを刺すと完全に死亡した。
さすがにレベルアップはないか。
「よっし、まずは一匹、収納」
こういうとき、アイテムボックスは信じられないほど便利だ。
お肉を、ゲットしたぞ。
引き続き、山登りを再開する。
内心すでにクエストクリアの気分だ。
ギルドのクエストはオマケで、お肉確保がメインといってもいい。
「キュピ」
「お、また出たわ」
「そうだな」
「どうしますか?」
「俺が剣で倒す!」
たまには勇者の雄姿を見るがいい。
剣を振る、くぅ、ウサギちゃんは回避する。
なかなかすばしっこい。
「まだまだぁ」
剣を振る、シュパパパーン。
あっさりかわして、大ジャンプ、逃げていく一角ウサギ。
「逃げちゃったね」
「逃げていきました」
二人から突っ込まれてしまった。
「す、すまん」
「いいよぉ」
「別に、大丈夫ですよ」
優しいねぇ、うれしい。
さて気を取り直して、再び登っていく。
坂が思ったより急できつい。
「ウサギっ」
「はい」
「ラニアよろしく」
「凍てつく氷結よ――アイス」
ババンッと氷の塊が飛んでいき、ぶち当たる。
「ピギャア」
ウサギちゃんは倒れて動かなくなった。特にとどめも要らなそう。
「じゃあ、南無三、収納」
二匹目ゲット。
ラニアしか戦っていないじゃないか、とかいうのはなしね。
ミーニャについては、杖で殴るしかできないし。
俺に至っては、剣を持ったばかりですよ。
さて登るか。
「もう少しだと思う」
「頑張ろう!」
「そうですね」
余裕のパーティー。
冒険はやっぱりこうでないと。
山を登っていく。
と、いきなり木がなくなり、平坦になってきた。
「やった山頂だわ」
「登りきったのですね」
「ふぅ」
一息いれる。
山頂の中央には平屋の小屋と、二階建ての見張り台の高い床が見えている。
見張り台の上には二人いて、こっちを見ている。
軽装だけど胸に騎士団の紋章、トライエ騎士団だ。
「こんにちはぁ」
「どうしたあ、坊主たちいぃ」
挨拶をすると大きい声で呼びかけてくる。
「お手紙の配達に来ました」
「お、珍しいな、こんな小さい子が」
「えへへ」
降りてきて、出迎えてくれた。
小屋からも一人出てくる。
全員若い二十代の隊員だろう。
「はい手紙です。それからこっちが物資です」
この任務では手紙と一緒に物資の運搬もあるのだ。
ちょろまかすことがないように、ギルド員専用のクエストとなっている。
物資の中身は黒パン、干し肉、飲料水、ドライフルーツ。
ドライフルーツは今はオレンジとリンゴだね。
「お、わりいな」
「それから、僕たちからのおすそ分けです、ブドウジャムです」
「ジャムか、そりゃあいい、でもいいのか? こんな高いもの」
「いいんです。砂糖不使用なので。早めに食べてください」
「悪いな」
「いえ、その代わり、一角ウサギの解体を教えてくれないかなぁと」
「ん? そんなことか、いいぜ」
その前に見張り台に登らせてくれるというので、登ってみる。
「わーたかーい」
「おお、よく見える」
「見晴らしがいいです」
遠くまで見える。
ラニエルダのスラム街からトライエの城壁と城門。街区それから貴族街。
貴族街には緑の庭と大きな家が並んでいる。
北の方向には山脈、その右側、北東の奥のほうに旧エルダニアもかすかに見えた。
あれがエルダニア。城壁などはもちろん残っている。
今は事実上、廃虚となっていて、人はほとんど住んでいないと聞く。
「ありがとう、遠くまで見えました」
「はいよ」
地面に降りて作業開始だ。
ということでバッグから出すフリをしてウサギを二匹出す。
「おお、新鮮だな」
「はい。今狩ってきました」
「なぜかこの辺多いからな」
「そうですよね」
「俺たちも狩ってもいいんだけど、調理器具がないからな」
「そうですね」
「火を
「あぁ、それは困りますね」
確かに。