金曜日。
日本では、キンキンキラキラ金曜日とか言うらしいけれども。
この世界は日曜日が安息日で、土曜日も休みではないので、そういう言い方はしないらしい。
もっとも、ギードおじさんなんかは定休はなく、ほぼ毎日働いていたけど。
ギードさんと俺作のスプーンは、まずドリドン雑貨店でまとめて買い取りしてもらった。
すでに合計で二十五個引き取ってもらい、ひとつ300ダリル、合計銀貨七枚半銀貨一枚になった。
そのままドリドン雑貨店に置かれている。ちょくちょく売れているもよう。
このままだと飽和してしまうので、ドリドン雑貨店経由で、余剰分はトライエの商店のほうへ、買い取りに出す予定らしい。
こういう小物は同じものを大量に安く買い揃えたい、食堂とかに需要があるそうな。
ゴーン、ゴーン、ゴーンと朝の鐘が鳴る。
朝以外も夕方まで鳴っているけど、あまり意識はしない。
朝の支度をして朝ご飯を食べる。
今日も大体同じだ。
イルク豆とカラスノインゲンの山椒焼き。
ホレン草の塩茹で。
フキの
犬麦茶。
豆は山椒でピリッと辛い味にしてみた。
「あっ、なにこれ。ピリッとする」
「ほう、これが辛いんだな、これはこれで」
「美味しいわね」
山椒もそこそこ評判が良かった。
その朝食も食べ終わったころ。
「すみません、ごめんください。エド君、ギードさん」
誰かと思ったら、あまり見かけないラニアの母親ヘレンさんが、突撃お宅訪問をしてきた。
俺たちのようにボロではなく緑の服を着ている。髪と目はラニアそっくりで水色に近い青色だ。
なんだろう「よくもうちの娘を連れまわして傷物にしたわねムキー許せない」とか言われたらどう言い訳と謝罪しよう。
「うちの娘が、あんなに、いいものをもらってきて、本当にご迷惑ではありませんか?」
あれ、ちょっと語気が弱いというか、なんか違う。
家の中に入ってきたヘレンさんは後ろにラニアを連れているが、ラニアは涙目だった。
下を向いて、悔しそうに、悲しそうにしている。
「いやいやいや、ジャムのことですか? 自分たちで採ってきたものを調理しただけですから、全然問題ないんですよ?」
「そうですか、でも……無料というわけにはいきません」
そういうと、ヘレンさんが一枚の硬貨を両手で丁寧に差し出してくる。
銀貨一枚なら、ほほーんともらってもいい。
しかしそれは金色、黄金色に輝いていた。
――金貨一枚。
「えっ、そんなにするのジャムが」
俺は思わず
「だってジャムですよ、ジャム、あんな高価なもの」
「そうなのおじさん?」
「さあ、僕は世間に疎くて。ジャムも食べたことはあるけど自分で買ったわけじゃないからわからなくて」
ギードおじさんも困惑気味だ。
「あのヘレンさん。その高価なジャムは、たっぷりの砂糖を使っていませんでしたか? 砂糖や蜂蜜は高価なので」
「あら、そういわれれば、そうかもしれないわね。でもジャムはジャムでしょ」
まあそうなのだが。これには光熱費と三
「これは、おままごとみたいな、子供のちょっとした冒険の結果、手に入れた果物を自分たちで煮ただけですから、別に大丈夫なんです。お金は掛かっていません」
「そうなの?」
「はい。ね、ギードさん?」
「ああ、にわかには信じがたいが、たぶん、本当だ。僕が保証します」
「ギードさんに言われたら、そうね」
結局金貨は受け取らなかった。
「じゃあ、ジャムを無償でくれるというのですね? 本当に? ありがとう」
「いえ、いいんですよ、自分たちの分もあるので」
「そうですか、ありがとうございます。ほらラニアも」
「あの、ありがとうございました」
「これからもラニアとは仲良くしてやってください」
ヘレンさんはそう言ってラニアを連れて帰っていった。
最初は非常に申し訳なさそうにしていたけど、最後はニコニコしていたので、大丈夫だろう。
やれやれ、早とちりも困ったもんだ。
ラニアちゃんは先に怒られてしまったのだろう、とばっちりだ。ごめんな。
しかし、ジャムはクソ高い、というのが一般常識だということは、重要な情報だった。
適当に自慢して歩いたら、うちが襲われるかもしれないことを考えれば、なるべく黙っていようと思う。
いや、もしくは中途半端に高い値段で、ドリドン雑貨店に置いてもらって、おおっぴらに売れば、うちで食べているものも「普段節約して買ってきた」ということに、できるのでは。
自分で作って食べてますってバレるよりは、いいかもしれない。
要検討としよう。
恐ろしいことに、ジャムにしたリンゴはまだ十五個ぐらい。
残りが八十個前後なので、ビンにして五個はいける。
でもってそんなクソ高いものをビン一杯に詰めるアホはいないので、倍にしても十ビンはいける。
値段にすると相場なら金貨五枚という。
そんなアホな値段になるん? 採ってきたリンゴがだよ。
しかも木には半分残してきたし、他にもリンゴの木はある。
なんで誰も金貨に両替しないんですかね。
ゴブリンか、ゴブリンが怖いんか。
それともジャムという発想が高すぎてないのか? ああ、そうかもしれない。
自分でも作れるというイメージがないと、そもそもやろうとしないのは本当だ。