また朝になった。水曜日。
ゴーン、ゴーン、ゴーンと三の刻、朝六時を告げる鐘が鳴る。
「むにゃむにゃ、にゃああ、エド、おはよう」
「ああ、おはよう、ミーニャ」
「にゃはあ、エド、すきぃ」
ミーニャはそう言って抱き着いてくる。
なぜこんなに好かれているのか、いささか不明だけど、悪い気はしない。
トイレ、洗顔、髪を適当に直して、ご飯を食べる。
今日の朝ご飯のメニューはこちら。
イルク豆とカラスノインゲンの水煮。
ホレン草のニンニク炒め。
フキとサトイモの塩煮。
タンポポサラダ。
犬麦茶。
やっぱり朝はサラダを食べたい気分だった。
「うまいな、うん」
ギードさんも出勤しなくなったので、余裕がある。
「美味しいぃ」
ミーニャも相変わらず。
「「ごちそうさまでした」」
ご飯も食べたし活動開始だ。
「ギードさん、ミーニャ、体操をしようと思う」
「体操?」
「うん」
ということで体操だ。
この世界にも、準備運動的な言い回しがあった。
外に出て、気分はラジオで体操だ。
「腕を回します」
「腕、回す」
ぐるぐるっと腕を回す。
「肩から回します」
「肩、回す」
ぐるぐるっと今度は肩から全体的に回す。
「腕を開いたり閉じたり」
「腕、開く」
腕をやったり足を動かしたり、それから腰。
腰、重要。
そうやって体操をした。
「これは健康に良さそうだわ」
とはメルンさん談。
どんどん現代知識チートで健康になろう。
ただし家族、知り合い限定。
俺は
「さて、ではいってきます」
「いってきまし」
ミーニャを連れて、ドリドン雑貨店に向かう。
家は城門からちょろっと出たところで、雑貨店は城門の目の前だから、すぐだ。
「ドリドンさーん」
「どうした、エド、ミーニャ」
「犬麦茶、というものを持ってきました」
「どれどれ、見せてみろ」
「はい。ミントティーは好き嫌いがあると思いまして」
「なるほどなぁ」
バッグから犬麦茶を取り出す。
一応アイテムボックスは秘密にしてある。
「いい匂いがするな」
「でしょう」
「一杯飲ませてもらってもいいか?」
「もちろんですよ」
お湯を沸かす、いやあれ、お湯が出る魔道ポットだ。
一瞬でお湯になった。
「便利ですね、それ」
「だろ」
ティーポットに犬麦茶を入れて魔道ポットからお湯を注ぐ。
すぐにいい匂いが広がっていく。
朝から買い物に来たお客さんたちも興味津々だ。
「あら、いい匂いがするわ」
「なんだろうね、いい匂いだけど、知らないわ」
「あらあら、また新作かしら」
そうですよ、新作です。
「お客さんたちにもどうぞ、初めて見るものなので、試飲は必要だと思う」
「おっ、そうだな、エド、わかった」
ドリドンのおじさんがまずは自分たちの分を木のコップに入れる。
俺はちょっと暇だったのでドリドンさんを鑑定してみる。
比較対象は必要だと思ったのだ。
【コランダー・ドリドン
36歳 オス O型 人族
Dランク
HP352/358
MP198/205
健康状態:A(普通)
】
あれ、大人でもそれほどHPとか高くないんだ。
MPもこれならミーニャのほうが多い。
でもDランクだ。ちょっと強いのかもしれん。
あとコランダーだったんだな、おじさん。
「う、うまい」
そういっているうちに、一口飲んだドリドンのおじさんは、うれしそうに、親指を上げてグッドを示した。
「みなさんもどうですか、時間があれば、ぜひ試飲をどうぞ」
「あらやだ、くださるの、いただくわ」
「うれしい、私もくださいな」
こんな感じでみんなもらっていく。
ここは城門前の通り沿いなので、出勤で城内に入っていく人も通るため、人だかりができてきた。
「結構、試飲で出てるけど? いいのか?」
「いいですよ、たぶん大丈夫でしょう」
「そ、そうか、ちょっとくらい薄く出すか」
ドリドンさんが慌てている間にも試飲は増えて、犬麦茶が商品として売れていく。
奥さんも出てきて、今は手伝ってくれている。
これなら販売は大丈夫そうだ。
特に心配はいらない。
「ハーブティーはちょっと苦手だったけど、これはおいしい」
「こっちも、どっちも好きだな。迷っちゃうな」
「水かお湯しか飲んでなかったからな、俺らは」
まあ、そんな感じで、大盛況となった。
◇◇◇
水曜日、午後。
「あのね、エド、ちょっと水浴びしに行こう」
「お、そうだな」
ぐへへへ。
転生知識取得前の俺はよくこんなシーンを平気で過ごしていたな。
トライエ市の南側には北西から東に向かって川が流れている。
城門前の街道を横断して南側へ入り、しばらく歩くと川に出る。
「あれ、エドどうしたの?」
「ああ別に、俺が周りを警戒していてやるから、早く水浴びしちゃいな」
俺は変態ではあったが、紳士だったのだ。
「わかったっ」
無邪気に返事をしたミーニャが服を脱ぐ、衣擦れの音がする。
お、おう、改めて背中で聞くと、なんだかなまめかしいな。
俺も反対側を向いて、シャツとパンツを脱ぐと、ざぶざぶ川に入っていく。
ここの川は川幅30メートルくらいか。
すぐそこは浅いので大丈夫なのだ。
川の水で全身を洗いつつ、手で軽くこすっていく。
スラム街ではこれが普通だけど、トライエ都市内には銭湯があり、それを利用するか、自分の家でお湯を使ったタオルで拭くのが常識らしい。
噴水の水浴び場で洗っていたのは、昔のことという話は前にしたと思う。
ごしごし、ごしごし。
前世の記憶を思い出したから、前より衛生観念は強くなった。
念入りに体を洗っていく。
手首とか耳の後ろ、膝の裏とか、あまり洗わなかったところも綺麗にしていく。
次に脱いだ服を持ってきて、洗う。
シャツ、ズボン、トランクス。
なんか汚れが流れていくのが見える。染みついてるなぁ。
お金が増えたら、替えの服とかも欲しいかも。
いや待て、服より防具のほうがいいか、あとは武器も欲しい。
ミスリルのナイフは強いけど間合いが、いかんともしがたい。
剣かなやっぱ。それとも魔法を習って、魔法剣士。
雑魚を倒しまくってレベルアップして、ステータスを上げて、簡単には死なない肉体が欲しい。
これはミーニャとラニアにも言えることだ。