引き続き月曜日、昼前。
城門を通って外に出る。
前から思っているけど、入る人だけでなく、出る人も一応チェックしたほうがいいのでは。
犯罪者とかお尋ね者とか、出ていき放題では。
そんなことを考えながら、トライエ市街からスラム街のラニエルダへ戻ってくる。
ラニアも連れて家に戻る。
「「ただいま」」
「おじゃまします」
「あらあら、おかえり、どうぞ、ゆっくりしていって」
メルンさんが迎えてくれる。
一応、メルンさんは治療師として、なるべく家にいる方針らしいと、最近気が付いた。
いつも怪我人がいるわけではないけど、いざというときに、待機していてくれないと困る人がいる。
本日の昼食メニュー。
イルク豆とカラスノインゲンと干し肉の炒め物。
ホレン草とムラサキキノコの塩焼き。
タンポポサラダ。
ハーブティー。
ムラサキキノコを焼きだすといい匂いがした。
「いい匂い」
ラニアはすでに目を丸くしている。
そして料理が揃って車座に座ると、ますますラニアは驚いた顔をする。
「なにこれ……」
「なにって、これがうちの今の食事。まあキノコは今日のスペシャルメニューだけど」
「前はイルク豆だけだったじゃない」
「野草の採取と、それからハーブティーの販売を始めて、ちょっとだけ干し肉が手に入ったんだ」
「あのハーブティー、あれエド君の売り物だったのね」
ラニアもびっくりである。
「ラファリエール様に感謝して、いただきます」
そして食べる。
ラニアは日曜日以外でも、ラファリエール様に簡単に感謝を
礼儀正しい子だ。
「うまっ、なっ、なにこれ、美味しい、です」
頬を紅潮させて、いかにも美味しいっていう顔をする。
なかなか、かわいいじゃないか。
「ほんとう、美味しい。このムラサキキノコ、信じられない」
ミーニャもご満悦。
キノコは一人一つ。
あっという間に食べてしまうと、もうないという悲しい顔をした。
かわいい顔で訴えても、あげないぞ。
俺だって味わいたい。
「なっ、うまっ、ムラサキキノコ、うまっ」
びっくり仰天。紫なのに美味い。
鑑定、嘘つかない。
『ラファリエール様、ありがとうございます』
こりゃあ俺も思わず、心の中で、神様拝んじゃう。
ラファリエール様が転生神かは不明だけど、他に名前知らないし。
食後にハーブティーで口をさっぱりさせて、一息ついていると、ギードさんが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり。来た来た」
「ああ、仕事は辞めてきたよ。エド君の策がうまくいかなくても、今度は他の仕事を探すさ」
「そっか、ごくろうさまでした」
「ああ、ありがとう」
ギードさんにもハーブティーを出して落ち着いたら話を始める。
俺はすでに試作品の粗削りを終えていた。
「これが、試作第一号、スプーン」
「どれどれ」
木の枝を縦に半分に割り、それを削ってスプーン状にする。
あとはどれだけ削って滑らかにするかの勝負だけど、市販品の多くはかなり適当で、めちゃくちゃ滑らかなのは高級品だ。
しかも最高級品はミスリル製で、次が銀製なので、木のスプーンで最高傑作を作るような人はいない。
俺のはすでに、粗削りだけど、スプーンとして使える状態だった。
鑑定してみるか。
【木の粗削りのスプーン 食器 粗悪品】
くっ粗悪品ときたか、まあ、まだ途中だ。
「これで30分くらいかな。ミスリルのナイフだからできる」
「なるほど、これなら確かに僕でもできそうだ。こういうのは元々得意だしね」
「そりゃ、いい」
ギードさんも枝を粗くカットしてから、細かく削り出し始めた。
かなり手慣れている。
「昔は仕事でも細かいことをしていたんだけど、最近は力仕事が多かったから、懐かしいね」
そういいながら、あっという間に使えるレベルのスプーン第一号を作り上げていた。
「すごいやギードさん」
「いんや、僕の適性を見抜いた、エド君だってすごい。ずっと下働きをしていれば、いずれ評価されて、僕も定職につけると思っていたのが甘かったんだ」
なるほどねぇ。苦労人だねえ。
エルフで体力とかないのに肉体労働して、ダメ野郎の
不器用というかなんというか。
とにかくスプーンが売れるかどうかまで含めてお試しだから、一度売れるまでの工程をやろう。
俺とギードさんがスプーンを量産し始めるのを、ミーニャとラニアはじっと見ていた。
「そういえば、魔石の売り上げを分けないとね?」
「そうですね」
ラニアはあまり気にしないタイプなのかもしれない。
もしくは俺を信用しすぎている。
「銀貨五枚だから、えっと??」
「三人だとアレだし、火魔法を決めたラニアが二枚、俺とミーニャ共同で三枚でいいよ」
「そうですか、ありがとうございます」
ラニアに銀貨二枚をそっと渡す。
「うっ……」
ラニアが急に目を細めたと思ったら、泣き出してしまった。
「どうしたの? そんな急に」
「エド君が、こんなに立派になって、私もゴブリンを無事に倒せて、よかったって。本当によかったです」
「そっか」
まあ確かに、昔の俺はちょっと危うかった。
今は転生前の知識もあるけど、今と比べたら、昔は未来も真っ暗という感じだった。
ラニアも心配してくれていたんだ。
「ラニアちゃん」
ミーニャもラニアと俺を心配してくれていたらしくて、背中をさすってあげている。
俺に対してのライバルといっても、いがみ合っているわけではないらしい。
この世界では重婚は問題ないし、ハーレムもドンと来いである。
そんな細かい禁忌はない。
みんな、仲良くしてくれるとうれしい。
ギスギスしたハーレム生活とかは勘弁してほしいもんねぇ。