第一話 演目 愛する人の心の闇

 風月は意気揚々とグロムの目の前にやって来た。


「さてと、殺し合いしましょうか?」

「くくくく……そうして居られるのは今のうちだ!」

「ほう、何だ何だ」

「伴侶と言ったな? 貴様の心の闇を引き抜くまでよ!」


 グロムが手を上げると、風月の影に変化が現れた。

 それはまるで影絵でも見せられているかの様に、風月の前に立ちはだかる。

 だが風月は興味深かそうに影を見た後に、縁の方を向いた。


「縁、あれは私の心の闇だそうだ」

「ふむ、もしかして俺はこう言えばいいのか? 風月……いや、結びさんが俺をこんな風に思っていたなんて! ……とか?」

「落ち着いてるね」

「てかそもそも負の部分だけ見せられてどうしろと?」

「お、その心は?」

「人と関わりとは、相手の最低な部分を認めてそれからだろうに」

「確かに、あー若ければうろたえるんじゃない?」

「それはあるかもな、恋愛をキラキラだけだと考える時期もあるだろう」


 心の闇を見せられた所で動じない2人。

 それもそのはず、ダメな部分だけを見せられても的外れなだけだ。

 総合的に見ての人付き合い、この2人にとっては恋愛。

 この程度で動じる愛し方はしていない。


「さあやれ! 速く奴らを殺せ!」

「あ? 私に命令するな、ちょっと黙ってろ」


 グロムが呼び出した影は、召喚主を明後日の方向へと蹴り飛ばしたのであった。


「えぇ……ここで心の闇と戦う流れじゃないんかい」

「フッ……私よ、お前の心の闇だが自分や将来の夫に刃を向けると思ったか?」

「いやその流れじゃん」

「私はお前の足元にも及ばない、何故なら私は負の感情しかないからだ」

「理解がある心の闇って珍しいな、襲ってくるもんだと思ったのに」

「理由はたった今言っただろ? ただ縁に一言」

「おお、何だ?」

「私を裏切るな……その時が来てしまったら殺す」


 それを聞いて縁は影に近寄り手を取った。


「大丈夫だ」

「信じてるぞ……さて、私は消えるしよう」

「あ、自分で消えれるんだ」

「私はお前の負の部分だぞ? それくらいできる」

「やるな、流石は私!」

「あの訳わからん奴は街の外まで蹴り飛ばした」

「おっけ~後は任せろ」


 影が消えると同時に、風月の足元にも影が戻った。


「おお、本当に自分で消えれるのか」

「あの程度の術で私の偽物? 影? 心か? どうにか出来るとは浅はかだね~」

「とりあえず俺はこの広場を元に戻しておくよ」

「ああ……おっけ~頼んだわ」


 縁が指差したのは、シンフォルトが残した血と風月けが壊した地面。

 色々と道具を鞄から取り出して、まずは掃除を始めた。

 風月は吹っ飛ばされたグロムを追いかけて街の外へ。


「おやおや、まだ死んでなかった」


 えぐれた地面、衝撃が当たって倒れた木。

 グロムは大木に当たってやっと止まった様だった。

 そして色々と重症な様だ、特に心の闇が通じなかった事に対してショックらしい。


「こ、こんなはずでは! な、何故心の闇が効かない! うろたえ否定するもの! 何故!」

「そりゃ残念、ほら次の手を考えて」


 風月は子供を諭すようにしゃがんで優しく話しかける。


「縁を殺したいんだからさ、それなりの準備はしてたんでしょ? 嫌がらせだけしたかったの?」

「……」

「ん~つまらん、戦意喪失しているならもう死ね」

「ぐばぁ!」


 グロムの首が飛んだ、風月が何かしたのだろう。

 そもそも格が違う、生半可な悪人では善戦した。


「ありゃ、首飛ばしたのに生きているとは、こういう中途半端な不死身は面倒くさい」

「ちゅ! 中途半端だと!?」

「ありゃ? 地雷を踏んでしまったかな?」

「お、俺が――」

「悪党の回想はいらないからさ、喋るなら私を殺すとか、逃げるとか、自爆するとか、仲間を呼ぶとか色々あるでしょ?」

「おーい、風月」

「速いな縁、はい、暇つぶしはおしまいね、さようなら」


 風月が手を叩くとグロムはチリとなり、叫ぶ暇もない風に舞う。

 たいした暇つぶしにもならなかった様だ、つまらなそうな顔をしていた。


「次はどうするんだ?」

「そうだね、このままこの一味を潰しに行こうか」

「場所はわかっているのか?」

「もちろん、ルティから聞いてるよ……だだ」

「ん? 何かあるのか?」

「マリナさんが暴れてるらしい」

「え? 何で?」

「下っ端がフレビィにちょっかいを出す、マリナさんちょい怒る、調べていったら縁の敵と知る、遠慮しなくていいじゃない! と」

「マリナさん、太陽の祝福を受けても吸血鬼だからな」

「見に行ってみよう」

「ああ」


 2人はその場から消えた。