風月は意気揚々とグロムの目の前にやって来た。
「さてと、殺し合いしましょうか?」
「くくくく……そうして居られるのは今のうちだ!」
「ほう、何だ何だ」
「伴侶と言ったな? 貴様の心の闇を引き抜くまでよ!」
グロムが手を上げると、風月の影に変化が現れた。
それはまるで影絵でも見せられているかの様に、風月の前に立ちはだかる。
だが風月は興味深かそうに影を見た後に、縁の方を向いた。
「縁、あれは私の心の闇だそうだ」
「ふむ、もしかして俺はこう言えばいいのか? 風月……いや、結びさんが俺をこんな風に思っていたなんて! ……とか?」
「落ち着いてるね」
「てかそもそも負の部分だけ見せられてどうしろと?」
「お、その心は?」
「人と関わりとは、相手の最低な部分を認めてそれからだろうに」
「確かに、あー若ければうろたえるんじゃない?」
「それはあるかもな、恋愛をキラキラだけだと考える時期もあるだろう」
心の闇を見せられた所で動じない2人。
それもそのはず、ダメな部分だけを見せられても的外れなだけだ。
総合的に見ての人付き合い、この2人にとっては恋愛。
この程度で動じる愛し方はしていない。
「さあやれ! 速く奴らを殺せ!」
「あ? 私に命令するな、ちょっと黙ってろ」
グロムが呼び出した影は、召喚主を明後日の方向へと蹴り飛ばしたのであった。
「えぇ……ここで心の闇と戦う流れじゃないんかい」
「フッ……私よ、お前の心の闇だが自分や将来の夫に刃を向けると思ったか?」
「いやその流れじゃん」
「私はお前の足元にも及ばない、何故なら私は負の感情しかないからだ」
「理解がある心の闇って珍しいな、襲ってくるもんだと思ったのに」
「理由はたった今言っただろ? ただ縁に一言」
「おお、何だ?」
「私を裏切るな……その時が来てしまったら殺す」
それを聞いて縁は影に近寄り手を取った。
「大丈夫だ」
「信じてるぞ……さて、私は消えるしよう」
「あ、自分で消えれるんだ」
「私はお前の負の部分だぞ? それくらいできる」
「やるな、流石は私!」
「あの訳わからん奴は街の外まで蹴り飛ばした」
「おっけ~後は任せろ」
影が消えると同時に、風月の足元にも影が戻った。
「おお、本当に自分で消えれるのか」
「あの程度の術で私の偽物? 影? 心か? どうにか出来るとは浅はかだね~」
「とりあえず俺はこの広場を元に戻しておくよ」
「ああ……おっけ~頼んだわ」
縁が指差したのは、シンフォルトが残した血と風月けが壊した地面。
色々と道具を鞄から取り出して、まずは掃除を始めた。
風月は吹っ飛ばされたグロムを追いかけて街の外へ。
「おやおや、まだ死んでなかった」
えぐれた地面、衝撃が当たって倒れた木。
グロムは大木に当たってやっと止まった様だった。
そして色々と重症な様だ、特に心の闇が通じなかった事に対してショックらしい。
「こ、こんなはずでは! な、何故心の闇が効かない! うろたえ否定するもの! 何故!」
「そりゃ残念、ほら次の手を考えて」
風月は子供を諭すようにしゃがんで優しく話しかける。
「縁を殺したいんだからさ、それなりの準備はしてたんでしょ? 嫌がらせだけしたかったの?」
「……」
「ん~つまらん、戦意喪失しているならもう死ね」
「ぐばぁ!」
グロムの首が飛んだ、風月が何かしたのだろう。
そもそも格が違う、生半可な悪人では善戦した。
「ありゃ、首飛ばしたのに生きているとは、こういう中途半端な不死身は面倒くさい」
「ちゅ! 中途半端だと!?」
「ありゃ? 地雷を踏んでしまったかな?」
「お、俺が――」
「悪党の回想はいらないからさ、喋るなら私を殺すとか、逃げるとか、自爆するとか、仲間を呼ぶとか色々あるでしょ?」
「おーい、風月」
「速いな縁、はい、暇つぶしはおしまいね、さようなら」
風月が手を叩くとグロムはチリとなり、叫ぶ暇もない風に舞う。
たいした暇つぶしにもならなかった様だ、つまらなそうな顔をしていた。
「次はどうするんだ?」
「そうだね、このままこの一味を潰しに行こうか」
「場所はわかっているのか?」
「もちろん、ルティから聞いてるよ……だだ」
「ん? 何かあるのか?」
「マリナさんが暴れてるらしい」
「え? 何で?」
「下っ端がフレビィにちょっかいを出す、マリナさんちょい怒る、調べていったら縁の敵と知る、遠慮しなくていいじゃない! と」
「マリナさん、太陽の祝福を受けても吸血鬼だからな」
「見に行ってみよう」
「ああ」
2人はその場から消えた。