どっちゃんに案内されて神社の奥地へとやって来た。
そこには学校のグラウンドの様に広く、何も無い場所。
「さ、着いたよ、ここは私の訓練所さ」
「何もないね~?」
「大丈夫だ風月、必要な物は直に取り出せる」
「なるほど」
「んじゃ早速誰がやるかな? と、思ったがその前に少々小言を言いたい」
「何だどっちゃん、いきなり説教か?」
「いや、縁達が努力で今の強さを得たと理解してるのかなと」
「いるか? その位はわかるだろ」
「いる、才能もあるだろうがお前達の強さは、努力と犠牲で成り立ってるだろ」
「努力はわかるが……犠牲? 何かしたか?」
「お前達が青春時代を犠牲にした事だ」
「あや? あたしの事もわかるの?」
「風月、こいつは努力の神だ、それ関係は筒抜けと思っていい」
「いやん!」
風月はわざとらしく身体をくねくねしている。
だが、特に誰も反応せずに話が進んだ。
「生徒さん達や、間違ってもコイツらみたいになろうとは思うなよ? 目標にするのはいいけどな」
「どっちゃん、どうしてですか?」
「それはな一本槍、幼少の頃から戦いに身を置いていた奴が、まともな人生な訳ないだろ」
「おおう縁、結構痛い所をつかれてますよ」
「だな、まあ変えられない事実だ」
「で、こいつらの強さは大切な時期を犠牲にしたのさ」
「どっちゃん、いまいちピンときません」
「例えば、そこら辺に落ちている石ころを宝物と思えるか? 綺麗な色や形なら持って帰るかもな」
「石ころですか?」
どっちゃんは地面を指差しす、皆の視線がそちらへと向く。
綺麗とは言えないただの石ころが落ちている。
「子供ならもしかすると、拾って宝物にする事もあるだろう、この2人はそういう時間を犠牲にしたんだよ」
「俺はずっと妹を守ってたな」
「あたしもずっと修行してたね~それが嫌でスファーリアに分かれたんだけど、結局絶滅演奏術やらされるし」
今更ながら2人は幼少期や少年少女の、大切な時間。
感性が豊かな時間を使ってしまったのだ。
しかしそれに見合う対価は得る。
縁は妹を守り、結びは界牙流と絶滅演奏術を極めた。
そんな2人が出会うのは必然的だったのかもしれない。
「努力は大事だ、何かを成すには大小努力がいる、それをせずに成功しようなど愚かだ、だが何でもかんでもは犠牲にするなよ」
「いや~あたし達はいい反面教師な教師だね~」
「皆はこっちには来るなよ? すっげー面倒くさいから」
「っても……どっちゃん一ついいっすか?」
「どうした? そこの死神君」
「いや、俺達のほとんど特殊な人生歩んでそうっすけど?」
ここにいる生徒達。
異世界転生してきた一本槍、死神のツレ。
地獄の邪神のダエワ、太陽神のアポロニア、神の封印を解いた久城。
どう考えても普通じゃない生徒達の集まりだ。
「ハッハッハ! これは一本取られたな、ああそうだ、君達の事を簡単に自己紹介をしてくれないか? ついでに将来の夢も聞きたいな」
「あ、じゃあ俺から行くっす、俺はツレ=テクーダ、ご存知の通り死神の見習いっす」
「ほほう? 死神か~将来何になるの?」
「魂の運搬の護衛っす」
「おお、死神本来の仕事をしたいのか、若いのに珍しいな、多分大事にされてるだろ」
「ああ~先輩達に変に持ち上げられて困るっす」
「今のご時世、魂を安くみる奴らが多いからね、あんたみたいな若者が居ると死神業界は明るいね~」
「それよく言われるっす」
それを聞いていた風月は、縁の肩をちょちょいと突いた。
「縁、死神業界って忙しいの?」
「俺も詳しくは無いが、魂ってのはそいつの身分証明書みたいなものなんだよ」
「なるほど、その例えは何かしっくりくる」
「で、身分証明書を誰かに好き勝手されたらどうなるか」
「それは怖いね、本人確認できないじゃん」
「死神業界もある意味でお役所仕事だからな、魂を閻魔様に持っていく、大まかに言えばな」
「はは~ん、輪廻転生出来ないとか?」
「どっちかってーと、公平な審判を出来なくなる」
「閻魔様も大変だ~……って、ツレのしたい仕事ってのは超重要な仕事じゃん」
「そうだ」
納得したように風月は頷いていた。
どっちゃんの視線はアポロニアとダエワに向いている。
「んで、そっちの神様ブラザーズの自己紹介聞こうか?」
「いえ、私とダエワは兄弟ではありません」
「ちいせぇ頃から一緒だったからな、兄弟みたいなもんだろ?」
「その場合はどっちが兄だ?」
「アポロニアお兄ちゃん」
「張り倒しますよ? 気持ち悪いです」
「おお、何だ何だ? 家庭内暴力か!?」
「今屋外ですが」
「そうじゃねーだろ」
「そうですね、それより自己紹介の方が大事です」
「はいはい、お兄ちゃんからどうぞ」
「コホン、では改めまして」
アポロニアは、咳払いをした後に姿勢を正した。
流石は太陽神の家系、雰囲気だけで言えば縁よりもビシッと神様だ。
「太陽神の一族で、アポロニアと言います」
「……ん? でもあんた人間だね?」
「ええ、父と母には人間の血筋が入っています、それに対して小さい頃は勝手に自暴自棄になってましたよ」
「そそ、お兄ちゃんは何時も泣いていたな」
アポロニアの肩を叩くダエワ、直に頭を叩き返される。
かなり痛かったのか、地面に少々のたうち回った。
そして起き上がりアポロニアを睨む。
「いってーな! 叩くことねーだろ!」
「お兄ちゃんとしつこいからです」
「泣いた事はいいのかよ」
「事実を言われて拗ねる歳ではありません」
「かぁー! すかしてるなぁ!?」
本当の兄弟の様に和気あいあいとしている2人。
そんな2人を見てどっちゃんは笑う。
「おうおう仲良しだな、そっちの元気なあんちゃんは地獄の邪神か」
「ああ、因みに将来の夢は実家を継ぐ事、アポロニアもそんな感じだろ?」
「継ぐといっても、人間の私には出来る事はかぎられますがね」
風月は、縁とアポロニアを品定めするように交互に見始めた。
「縁、太陽神ってやっぱり凄いの?」
「生命の象徴だからな、比べるのも失礼だ」
「なるほど、んで人間って生まれてくるの?」
「人間の血筋が入ってれば生まれるよ、彼は大事に育てられたようだ」
「ふむふむ、じゃあ地獄の邪神てなにしてんの?」
「色々といるけど、彼の家系は地獄の罪人を処罰するのが仕事だな」
「へ~何かいい事してそうなのに邪神なんだ」
「解釈する者の見方で変わるからな」
「なるほど」
ちょっと納得いかなそうな顔をしている風月。
縁の方が太陽神より凄いと思ったのだろう。
どっちゃんはという、嬉しそうに一本槍を見ていた。
「確かあんたは一本槍……陸奥だったよな?」
「はい、この間はありがとうございました」
「いやいいよ、あの後多分先生達に怒られただろ?」
「はい、返答次第では殺されたましたね」
お前達マジかよ、と冷ややかな目でどっちゃんは縁達を見る。
縁は首を振って風月を指差した。
「俺じゃない、こっちこっち」
「予定の無い事で縁とのデートを邪魔したから」
「おいおい界牙流は物騒だな」
「界牙流では伴侶との時間は特別だ、邪魔する者は死あるのみ」
どんな存在だろうが殺す、風月の言葉に嘘は無い。
「縁……マジで言ってそうだから、止める時は止めなよ?」
「いやいや~? どっちゃん、あたしの旦那は人との縁をないがしろにすると見境ないよ?」
「縁を大事にしない奴はな」
「どっちもどっちじゃねーか」
「世の中に出たら誰も教えてくれないじゃん、どんな時にも死ぬ可能性はあるじゃない」
「……その話は置いとくか、で、一本槍は何になりたいとかあるか?」
「今は特にありません」
「そうか……では最後アカネ、夢はあるか?」
「私は将来巫女になろうかと」
「ほほう、これまた珍しい」
「合法的に立ち入り禁止の場所に入れますし!」
「お、おお……なるほど、き、気合い入ってるな」
久城の情熱的な一言に少々たじろいだ、並々ならぬ努力を感じたのだろう。
「でもどっちゃん、どうして夢なんて聞いたんだ?」
「それはな縁、単純に興味があっただけだ」
「おいおい」
「まあそろそろ始めようじゃないか」
「最初は誰だ?」
「そこの死神君だな、この中で一番自分の将来に真剣で、それに対する努力を模索しているからだ、気に入った」
「うお、俺っすか」
「努力は言葉に染み付くからな、覚えておくといい」
どっちゃんはとの言葉を言うと、雰囲気が変わった。
それを察した縁達は、2人から離れて見ることにする。