第三話 演目 将来の夢とその努力

 どっちゃんに案内されて神社の奥地へとやって来た。

 そこには学校のグラウンドの様に広く、何も無い場所。


「さ、着いたよ、ここは私の訓練所さ」

「何もないね~?」

「大丈夫だ風月、必要な物は直に取り出せる」

「なるほど」

「んじゃ早速誰がやるかな? と、思ったがその前に少々小言を言いたい」

「何だどっちゃん、いきなり説教か?」

「いや、縁達が努力で今の強さを得たと理解してるのかなと」

「いるか? その位はわかるだろ」

「いる、才能もあるだろうがお前達の強さは、努力と犠牲で成り立ってるだろ」

「努力はわかるが……犠牲? 何かしたか?」

「お前達が青春時代を犠牲にした事だ」

「あや? あたしの事もわかるの?」

「風月、こいつは努力の神だ、それ関係は筒抜けと思っていい」

「いやん!」


 風月はわざとらしく身体をくねくねしている。

 だが、特に誰も反応せずに話が進んだ。


「生徒さん達や、間違ってもコイツらみたいになろうとは思うなよ? 目標にするのはいいけどな」

「どっちゃん、どうしてですか?」

「それはな一本槍、幼少の頃から戦いに身を置いていた奴が、まともな人生な訳ないだろ」

「おおう縁、結構痛い所をつかれてますよ」

「だな、まあ変えられない事実だ」

「で、こいつらの強さは大切な時期を犠牲にしたのさ」

「どっちゃん、いまいちピンときません」

「例えば、そこら辺に落ちている石ころを宝物と思えるか? 綺麗な色や形なら持って帰るかもな」

「石ころですか?」


 どっちゃんは地面を指差しす、皆の視線がそちらへと向く。

 綺麗とは言えないただの石ころが落ちている。


「子供ならもしかすると、拾って宝物にする事もあるだろう、この2人はそういう時間を犠牲にしたんだよ」

「俺はずっと妹を守ってたな」

「あたしもずっと修行してたね~それが嫌でスファーリアに分かれたんだけど、結局絶滅演奏術やらされるし」


 今更ながら2人は幼少期や少年少女の、大切な時間。

 感性が豊かな時間を使ってしまったのだ。

 しかしそれに見合う対価は得る。

 縁は妹を守り、結びは界牙流と絶滅演奏術を極めた。

 そんな2人が出会うのは必然的だったのかもしれない。


「努力は大事だ、何かを成すには大小努力がいる、それをせずに成功しようなど愚かだ、だが何でもかんでもは犠牲にするなよ」

「いや~あたし達はいい反面教師な教師だね~」

「皆はこっちには来るなよ? すっげー面倒くさいから」

「っても……どっちゃん一ついいっすか?」

「どうした? そこの死神君」

「いや、俺達のほとんど特殊な人生歩んでそうっすけど?」


 ここにいる生徒達。

 異世界転生してきた一本槍、死神のツレ。

 地獄の邪神のダエワ、太陽神のアポロニア、神の封印を解いた久城。

 どう考えても普通じゃない生徒達の集まりだ。


「ハッハッハ! これは一本取られたな、ああそうだ、君達の事を簡単に自己紹介をしてくれないか? ついでに将来の夢も聞きたいな」

「あ、じゃあ俺から行くっす、俺はツレ=テクーダ、ご存知の通り死神の見習いっす」

「ほほう? 死神か~将来何になるの?」

「魂の運搬の護衛っす」

「おお、死神本来の仕事をしたいのか、若いのに珍しいな、多分大事にされてるだろ」

「ああ~先輩達に変に持ち上げられて困るっす」

「今のご時世、魂を安くみる奴らが多いからね、あんたみたいな若者が居ると死神業界は明るいね~」

「それよく言われるっす」


 それを聞いていた風月は、縁の肩をちょちょいと突いた。


「縁、死神業界って忙しいの?」

「俺も詳しくは無いが、魂ってのはそいつの身分証明書みたいなものなんだよ」

「なるほど、その例えは何かしっくりくる」

「で、身分証明書を誰かに好き勝手されたらどうなるか」

「それは怖いね、本人確認できないじゃん」

「死神業界もある意味でお役所仕事だからな、魂を閻魔様に持っていく、大まかに言えばな」

「はは~ん、輪廻転生出来ないとか?」

「どっちかってーと、公平な審判を出来なくなる」

「閻魔様も大変だ~……って、ツレのしたい仕事ってのは超重要な仕事じゃん」

「そうだ」


 納得したように風月は頷いていた。

 どっちゃんの視線はアポロニアとダエワに向いている。


「んで、そっちの神様ブラザーズの自己紹介聞こうか?」

「いえ、私とダエワは兄弟ではありません」

「ちいせぇ頃から一緒だったからな、兄弟みたいなもんだろ?」

「その場合はどっちが兄だ?」

「アポロニアお兄ちゃん」

「張り倒しますよ? 気持ち悪いです」

「おお、何だ何だ? 家庭内暴力か!?」

「今屋外ですが」

「そうじゃねーだろ」

「そうですね、それより自己紹介の方が大事です」

「はいはい、お兄ちゃんからどうぞ」

「コホン、では改めまして」


 アポロニアは、咳払いをした後に姿勢を正した。

 流石は太陽神の家系、雰囲気だけで言えば縁よりもビシッと神様だ。


「太陽神の一族で、アポロニアと言います」

「……ん? でもあんた人間だね?」

「ええ、父と母には人間の血筋が入っています、それに対して小さい頃は勝手に自暴自棄になってましたよ」

「そそ、お兄ちゃんは何時も泣いていたな」


 アポロニアの肩を叩くダエワ、直に頭を叩き返される。

 かなり痛かったのか、地面に少々のたうち回った。

 そして起き上がりアポロニアを睨む。


「いってーな! 叩くことねーだろ!」

「お兄ちゃんとしつこいからです」

「泣いた事はいいのかよ」

「事実を言われて拗ねる歳ではありません」

「かぁー! すかしてるなぁ!?」


 本当の兄弟の様に和気あいあいとしている2人。

 そんな2人を見てどっちゃんは笑う。


「おうおう仲良しだな、そっちの元気なあんちゃんは地獄の邪神か」

「ああ、因みに将来の夢は実家を継ぐ事、アポロニアもそんな感じだろ?」

「継ぐといっても、人間の私には出来る事はかぎられますがね」


 風月は、縁とアポロニアを品定めするように交互に見始めた。


「縁、太陽神ってやっぱり凄いの?」

「生命の象徴だからな、比べるのも失礼だ」

「なるほど、んで人間って生まれてくるの?」

「人間の血筋が入ってれば生まれるよ、彼は大事に育てられたようだ」

「ふむふむ、じゃあ地獄の邪神てなにしてんの?」

「色々といるけど、彼の家系は地獄の罪人を処罰するのが仕事だな」

「へ~何かいい事してそうなのに邪神なんだ」

「解釈する者の見方で変わるからな」

「なるほど」


 ちょっと納得いかなそうな顔をしている風月。

 縁の方が太陽神より凄いと思ったのだろう。

 どっちゃんはという、嬉しそうに一本槍を見ていた。


「確かあんたは一本槍……陸奥だったよな?」

「はい、この間はありがとうございました」

「いやいいよ、あの後多分先生達に怒られただろ?」

「はい、返答次第では殺されたましたね」


 お前達マジかよ、と冷ややかな目でどっちゃんは縁達を見る。

 縁は首を振って風月を指差した。


「俺じゃない、こっちこっち」

「予定の無い事で縁とのデートを邪魔したから」

「おいおい界牙流は物騒だな」

「界牙流では伴侶との時間は特別だ、邪魔する者は死あるのみ」


 どんな存在だろうが殺す、風月の言葉に嘘は無い。


「縁……マジで言ってそうだから、止める時は止めなよ?」

「いやいや~? どっちゃん、あたしの旦那は人との縁をないがしろにすると見境ないよ?」

「縁を大事にしない奴はな」

「どっちもどっちじゃねーか」

「世の中に出たら誰も教えてくれないじゃん、どんな時にも死ぬ可能性はあるじゃない」

「……その話は置いとくか、で、一本槍は何になりたいとかあるか?」

「今は特にありません」

「そうか……では最後アカネ、夢はあるか?」

「私は将来巫女になろうかと」

「ほほう、これまた珍しい」

「合法的に立ち入り禁止の場所に入れますし!」

「お、おお……なるほど、き、気合い入ってるな」


 久城の情熱的な一言に少々たじろいだ、並々ならぬ努力を感じたのだろう。


「でもどっちゃん、どうして夢なんて聞いたんだ?」

「それはな縁、単純に興味があっただけだ」

「おいおい」

「まあそろそろ始めようじゃないか」

「最初は誰だ?」

「そこの死神君だな、この中で一番自分の将来に真剣で、それに対する努力を模索しているからだ、気に入った」

「うお、俺っすか」

「努力は言葉に染み付くからな、覚えておくといい」


 どっちゃんはとの言葉を言うと、雰囲気が変わった。

 それを察した縁達は、2人から離れて見ることにする。