縁は倒れているヤマトの方を見た。
「風月、殺したんじゃないのか?」
「『普通に殺した』だけだ、どうせ生き返るのだろう?」
「なるほど、だから教材か」
「お前達の中でアイツを殺したい奴は居るか?」
「……風月先生、僕にやらせてください!」
「出来るか? 一本槍」
「今の僕では勝てません、そこで縁先生にお願いがあります」
「俺?」
「はい、僕に先生の加護を一瞬下さい!」
「理由を聞いていいかな?」
「風月先生に『力を持つ事の心構え』を教えてもらいました、それを相手から感じなかったからです」
「ほう」
「一本槍、一言で相手の心を動かせ? 戦闘中に長く喋るな」
「僕の大事な友達を傷つけた奴をぶっ殺したいんです」
一本槍は憎しみ溢れる顔で縁を見た。
縁は内心ビックリしていた、一本槍の口からぶっ殺したいと出たからだ。
その言葉から信念を感じた縁は、納得したように笑う。
「いいねその信念、俺より適任者に力を借りよう」
「適任者ですか?」
「加護にも相性があってね」
縁は何時も使っている長方形型の通信媒体を取り出した。
それを操作して耳に当てる。
「ああ、どっちゃん? 久しぶり、風呂上がり? すまんね急用さ、努力を小馬鹿にこいたような奴が現れてね、ああ、直にき――」
話している縁の後ろに突如魔法陣が現れる。
そこからTシャツとハーフパンツ、頭に努力と書かれたハチマキ。
燃えるような赤い髪に、美しい肉体美の女性だ。
「おい縁! 何処のどいつだ! 努力を小馬鹿にした野郎は!」
「速いなどっちゃん」
「んなこたぁいい!」
「そこの一本槍君に力を貸してやってはくれないか?」
「あぁ!?」
ブチギレながら縁の指さした一本槍を見る。
その迫力に一本槍は少し動じてしまう。
どっちゃんは肩を怒らせて近寄ってくる!
「……ん? お前さん……その歳でいい努力をしてるじゃねーか!」
一本槍をまじまじと見たどっちゃんは、ニコニコ笑顔になった。
「え、あ、ありがとうございます」
「ちょっと握手してくれ、状況を知りたい」
「は、はい」
どっちゃんと一本槍は握手をする。
「なるほど理解した、縁、つまりそこのぶっ倒れてる奴が努力を小馬鹿にした奴でいいか?」
「ああ、異世界転生者って奴だ、振る舞いは聞いたことがあるだろ?」
「神のいい傀儡にされてる哀れな奴か」
「そうだ」
「ふーむ、この青年も異世界から来たようだが大丈夫なのか?」
「話してみるといい」
「ううむ」
どっちゃんは乗り気ではない顔をしている。
「青年よ、俺は努力の神だ、どっちゃんと気軽に呼んでくれ、君の努力は素晴らしい、しかしだ、俺の力で君が慢心しないかが心配だ」
「その力とは?」
「『確定した未来の努力した姿』に一時的に変身って言った方がわかりやすいか」
「なるほど、確定しているという事は、僕がどんな事をしてもそれに行きつくと」
「ああ、理解がいいな」
「大丈夫です、僕には超えたい先生達が居ます、その未来の姿を知っても僕は努力を続けます!」
「根拠は?」
「先生達も努力をし続けていくからです! 立ち止まっていてはもっと差が開いてしまう!」
「若いってだけで力だな……いいぜ力を貸そう!」
「ありがとうございます!」
一本槍は綺麗なお辞儀をした。
「話がまとまった所で、奴はそろそろ生き返るぞ」
「すげーな風月、まさか時間調整したのか?」
「ああ」
風月の言った通り、倒れていたヤマトは立ち上がった。
「やりやがったなこん畜生! だがこの程度で俺を止め――」
恨みつらみを吐いているヤマトの目に縁が映った。
「やっと! やっと見つけたぞ! 俺をここまで堕とし入れた張本人!」
「一本槍、一撃で消せ、出来なければ私が横取りする」
「はい、風月先生、どっちゃん、お願いいたします」
「うむ」
どっちゃんが一本槍の肩に触れた。
眩い光に包まれいき、その光が大きくなり光は直に消えた。
一本槍は大人になっていた。
白い上下のジャージ、白い長いハチマキに指ぬきグローブ。
ジャージの背中の部分には、トライアングルとその中に風が吹いている草原を走る兎のマークが描かれている。
「これが……未来の僕!」
「ああん!? なんだ!?」
嬉しそうに自分の体を見る一本槍に、ヤマトが突っかかる。
「縁先生の前に僕が相手をしますよ」
「はっ! 笑わせるなよ? 神に力を借りようが俺にはき――」
悠長に語り出すヤマトに、一本槍はその隙を見逃さない。
「絶滅!」
一本槍は左足を高く上げ、それを下ろしし地面をえぐり音を出す。
「演奏!」
そして、右手で壁を裏拳で叩く様な動作をして音を出す。
「体術!」
その右手と左手を逆さまで合わせて音を出す!
「消滅!」
両手をヤマトに向けると凄まじい音が出る!
その音が消えると共に、ヤマトは消えていった。
「無意味な言葉は発しない方がいいですよ」
「一本槍君、ここに寝てくれ」
縁は白いシーツを指差した、手には黒い宝玉を持っている。
「わかりました」
「素直で助かるよ」
一本槍がそのシーツに横になると、元の姿に戻った。
縁は黒い宝玉を一本槍に握らせる。
「体への負荷が尋常ではないのでしょう?」
「ああ、身の丈に合わない力を使うには、何かしらの対価が要る」
「っても今回俺は、特に対価は要求しないがな? 身体的ダメージはあるが」
「すまんなどっちゃん」
「いやいいよ、いいもん見れたしな」
どっちゃんは満足そうな顔をしていると、一本槍が彼女を見る。
「縁先生、どっちゃんに神社は有るんですか?」
「ああ、俺達より立派なのが有るぞ?」
「それなら今度、何かお礼に奉納したいです」
「おいおい、いいんだぜ青年、お礼なんて」
「まあまあどっちゃん、貰える物は貰っておこうぜ、俺も何か持ってくよ」
「青年、名前は?」
「僕は一本槍陸奥といいます」
「よし覚えた、俺の名前は神社に来た時に教えよう、その時を楽しみにしてるぜ」
それだけ言うと、どっちゃんは魔法陣で帰っていった。
「縁、一本槍はどの位のダメージなんだ?」
「詳細はわからん、アフロ先生を呼ぼう」
縁は再び長方形の通信媒体を操作する。
「アフロ先生? ちと急用、生徒が神の力を使いまして、いや、対価はありません、見てもらえますか? お願いいたします、はい、待ってますね」
しばらく待っていると、ヘリコプターでアフロ先生と看護師数名が来た。
「縁、何があったんだ?」
「詳しくは生徒達から聞いてくれ、俺も風月もやる事があってさ」
「……わかった、ここは生徒達は病院で預かる、後で来い」
「行くか、風月」
「ああ」
縁と風月は突風を残してその場から居なくなった。