第七話 演目 神の怒り

 色鳥からの連絡を受けて、縁達は神社へと向かう。


「……ほう? これはまたひでーな?」

「罰当たり」

「どういう神経してるのでしょうか?」


 縁達が見たのは、見るも無残な神社の姿であった。


「縁!」


 先に来ていた色鳥が縁達に近寄って来た、その場にはグリオードと麗華、いずみが居た。


「俺がここに来た時にはもう壊れていた」

「色鳥、何か用だったのか?」

「お前と絆の事だ、また神社が雑草だらけになつてるんじゃないかと、グリオード達と来たらこれだよ!」

「ま、いずみは知ってそうだがな」

「はい、先に教えた方が良かったですか?」


 しれっとそう答えたいずみ。


「いやいい、神が人間の手のひらで踊らされてたまるか」

「おやおや――」

「縁! 縁は居るか!? 色鳥から連絡を貰ったんだが!」


 階段の方から声が聞こえて来て、この凄い勢いで斬銀が走ってきた!

 斬銀は神社の悲惨さを目の当たりにした後、縁が目に入った。

 そのまま縁に近寄って、目の前で土下座をした!


「縁! いや! 縁起えんぎ身丈みのたけ白兎神しろきうさぎのかみえにし様! 直に神社を直しますので! 怒りを鎮めて下さい!」


 あの斬銀が涙を流し震えている、その様子を見たスファーリアは絆にコッソリと聞いた。


「あの斬銀君が本気で怖がってるんだけど、どうして?」

「この神社はお兄様の怒りを鎮める為に建てられました」

「壊れたって事は……あ、約束が破棄されたって事?」

「ええ、原因がどうであれですわ、そして、今のお兄様が暴れたら手がつけられません」

「なるほど」


 縁は悲しそうな顔して、斬銀の目の前でしゃがんだ。


「止めてくれ斬銀さん、恩人の貴方に、神として脅えらると……悲しくなる」

「……元々の約束は俺がここで、神社を守る事だった」

「それは俺が、もういい好きにしろって言ったでしょ?」

「……」

「俺はこの神社のおかげで変わったんだ、いや、貴方が俺を正しい方向へと変えてくれたんだ、だから、土下座は止めてくれ、頼む」

「……わかった」


 斬銀は力無く立ち上がった。


「この神社をぶっ壊した奴だけは……絶対幸せにしてやる」


 縁は今まで見せた事ない、世界の全てを恨んでいるような顔をした。


「俺と結びさんが幸せを祈った神社だ、その神社を潰すって事は……俺達の願いを潰すっ事だ」

「……お兄様」

「それに俺の恩人になにさててんだ……人間の愚かさには感心する」


 右手が全ての怒りを表すかのように、震えている。

 スファーリアは無表情でその手を両手で包んだ。


「待って、縁君」

「……何?」


 スファーリアに対して睨みを効かせる縁。


「神社をぶっ壊した奴らは絶滅するとして、後の事考えないと」

「……後?」

「お祭りするんでしょ? 神社復興しないと」

「ああ? ああ……そうだね」

「よし! ここの土地は誰名義?」

「え!? グリオードに任せているよ?」


 縁は予想外の質問に、豆鉄砲をくらった顔をする。

 それを聞いたスファーリアは、グリオードに近寄った。


「グリオードさん、保険とか入ってる?」

「あ、ああ、もちろんだとも」

「よし、だったら拝殿だけじゃなくて、本殿も建てて、お土産売る場所とか、参拝者の手を洗う場所とか、由来の立て看板とか立てましょ!」

「ほう? 由来の立て看板? これは私の出番では?」


 いずみは自信満々にメガネをクイっとした。


「色鳥君!」

「今度は俺か? どうしたよ?」

「お祭りってどんな事してるの?」

「普段は露店出して、花火打ち上げて終わり……かな?」

「多分今年は普段より沢山人が来ると思う」

「ははーん、俺に催し物を考えろと」

「そそ、必要な物が有れば言って? ポケットマネーで出す」

「いやいや、大丈夫だスファーリアさん、予算は我が国で用意してある」

「国家予算で好き勝手!」

「それは流石に問屋は下ろしません、スファーリア様」

「ほら、斬銀君もこっち来て」

「俺もかよ」


 和気あいあいとお祭りの準備の話をするスファーリア達。

 あっけに取られている縁に絆がフッと笑った。


「助かりましたわね? お兄様?」

「ああ、また皆を巻き込む所だった、怒りは敵にぶつければいいからな」


 縁はゆっくりと深く深呼吸をする。


「ここは斬銀さんが俺を変えるきっかけを作ってくれた神社で、結びさんと幸せになるって約束した場所だ、ここで怒り狂うのはダメだな」

「お兄様、今回はお任せしても?」

「ああ、皆についてけ」

「承知いたしましたわ」


 絆は優雅に一礼するとスファーリア達の方へと歩いた。


「よし、これからグリオードさんの応接室で会議だ!」

「スファーリア様、急ではありませんか?」

「まあいいじゃないか麗華さん、鉄は熱いうちに打てだね」

「承知いたしました、グリオード様」


 いずみがひょっこりと縁に近寄った。


「ここを襲ったのは、隷属の神を信仰していたあの3人です」

「あいつらか」

「まずは、私の教育が無意味に終わった人物がいいかと」

「名前は忘れたが、アイツか」


 以前縁と麗華といずみで幻の街に行った時の話。

 麗華とルナの真剣勝負に水を差し、いずみに自分がどれだけ愚かか叩き込まれたはずの人物。

 隷属の神を信仰している、三日月みかづき春樹はるきの事だろう。


「場所はわかります?」

「運よくな」

「そうですか、そちらは任せました、こちらは任せて下さい」

「ああ、任せたぜ」


 いずみは軽く会釈をしてスファーリア達の元へ。 

 縁に挨拶も無しにスファーリア達は、グリオードの国へ転移魔法を使って移動をしたようだ。

 ほぼ同時に縁の後ろに風月が現れる。


「来ていたのか? 風月」

「そりゃね~スファーリアとは一心同体だしね~? 何が起きたかは知ってるし、今すぐ暴れたい」

「んじゃ行くか? 暴れに」

「お、ノリノリだねぇ~」

「ああ、報いを受けて貰う」


 縁は黒いジャージを取り出して、早や着替えのマジックショーのようにパッと着替えた。


「おっ黒いジャージ縁になった」

「これは俺が昔、神としてイキり散らしてた時に使ってたモノだ」

「いいじゃん! 私と縁の願いを潰した奴らに容赦はいらないよ~ついでに斬銀」

「風月もやる気満々だろ?」

「もちろん! 界牙流四代目として同行するよ」

「わかった、なら俺も神として行くかね」


 2人は互いの顔を見て笑った後、真面目な顔になる。


「さあ、人間達よ……幸せの時間だ」


 そう言うと縁はその場から消え、風月もそれを追って消える。