第六話 演目 形見と傭兵達

 ラクギアの街までやって来た3人。


「縁、俺はこの街の警備してる連中に話をしてくる」

「私も行こう」

「経緯を見届けなくていいのか?」

「側に居るといらない事を言いそうだからな」

「ってもお前幽霊だから、普通の人には見えんだろ」

「縁さんにだよ」

「ああ……んじゃ、後でな縁」


 斬銀達と別れ、迷うことなく歩き出す縁。

 その足は小さい平屋で止めて、ドアをノックする。


「どちら様で……」


 出てきたのは、人生に疲れ今にも死にそうな顔をしているロミアの父親だった。


「縁さんじゃないですか、グレモリアル自警団の時はありがとうございました」

「いえ」

「今日はどの様な御用で? 実は息子がこの間死んでしまいまして、妻も体調を崩していましてな」

「これを届けに来ました」


 縁は鞄からロミアが持っていたペンダントを取り出した。

 透けてはおらず、しっかりとそこにある。


「こ、これは! 息子が持っていたペンダント!」


 それを見た父親は縁から奪う様に取り、ペンダントを見つめた。


「ま、間違いない! 私と妻の名前に息子が付けた傷! これを何処で!? 探しても見つからなかったのに!?」

「あの世ですよ」

「あ、あの世……?」

「息子さんは……ご両親に最後の挨拶が出来なかった事を悔やんでいました、いらぬ世話かもしれませんが、助けたかった」

「……いえ、ありがとうございます」


 縁の言葉を信じ難い顔をしていたが、形見から意思を直接感じとり、父親はただ黙って泣いていた。


「今すぐには無理でも、お前があの世で元気にやっていけるなら……私達もお前の死を受け入れるよ」

「……では、俺はこれで」

「ありがとうございます、縁さん、このお礼は必ず!」


 去ろうとする縁に深々と頭を下げる父親。


「お礼はいいですよ、俺が助けたかっただけですし」

「いやしかし!」

「なら、奥さんと一緒に俺の神社で手を合わせて下さい、お賽銭とか奉納はいらないんで、元気な姿を見せて下さい」

「はい! 必ず!」


 生気に満ちた声に満足した縁は、斬銀達と別れた場所に戻る。

 斬銀達は縁を待っている様だった。 


「おう、どうだった縁?」

「いい親子関係だ、あの縁があるならば、今を乗り越えられるだろう」

「そうか、こっちは話をしに行ったら、敵襲が来るのは察知していたらしい、もう少ししたらシェルターへ避難誘導があるらしい」

「話が早かったって事は仕事するんですね?」

「ああ正門を守る、タダで請け負うつもりだったが、正式に傭兵としてお願いされた」

「報酬は?」

「俺はこの街の人の怒りを前払いで頂いた、それでいい、いくら元犯罪者達の街だからってよ、関係ねー奴らが正義の刃振りかざしてるんじゃねーぞ」

「やつらは元罪人を制裁しに来たとか?」

「それならまだいい、元犯罪者? 再犯しない様に殺してやるぜ! ってのがここを襲った奴らの考えらしい」

「……頭が痛くなってきた」

「私も聞いた時はそうだったよ、現世を騒がせているとは聞いていたが、実際に見聞きするとね」

「俺はこの街を守るって依頼を受けたからな、遠慮なく本気でやらせてもらう」

「縁さん、一つお願いがあるんですが」

「ん? 隼士さんなんですか?」

「私に『縁召喚』をしていただきたい」

「なっ!? 何でそれを知って――いや、冥界の人なら知ってるか」


 縁は珍しく驚いた顔をした。

 斬銀は興味有りそうなに質問をしだす。


「何だその縁召喚てのは? 名前だけ聞くと縁自身を召喚しそうだな」

「昔俺が作った召喚方法で、対象者と縁が深い者を呼び寄せる」

「ほー使い方によっちゃ便利だな」

「その使い方次第で死者ですら呼び寄せる、自分ながら後先考えてないな」

「いや、お前はどうしてその召喚方法を作ったんだ?」

「例えば、寿命が終わりそうな人が、会いたい人に会えるようにとね」

「なるほど、つまりお前なりの善意だろ?」

「はい」

「ならいんじゃね? てか、考えたら無闇に死者を呼び戻す方法もあるんだから、べつにいいだろ」

「そうですかね?」

「ああ、で隼士、その召喚方法使って何しようってんだ?」

「いやいや、お前とひと暴れする為だろ」

「いや、死者が現世で暴れるのは云々って、言ってなかったか?」


 お前とひと暴れする、否定しつつも声色からワクワクしている。


「冥府もお役所仕事な所があってな? 最近死者が急増に増えいる、管理しきれないから、少しでもそれを止めるためなら黙認するとさ」

「本当にお前とまた戦えるのか!?」

「流石に今日だけ、それに敵も弱いがいいか?」

「共に戦えるならなんだっていい!」


 夢を見た少年の様な、輝かしい目をして相棒を見ていた。


「やるのは構わないんだけど、縁召喚をしている間は俺が動けない」

「なら万が一を考えて、お前を守りなが――ん?」


 斬銀は、縁の袖を引っ張っている合縁奇縁が目に入った。


「ほう、合縁奇縁が任せろって顔をしているな」

「合縁奇縁、お願い出来るか?」


 縁が目を合わせると、自信満々な顔をしている。


「よし、話もまとまったし正門に行こうぜ!」


 スキップする斬銀を先頭に正門へと歩き出した。