「ここか?」
「あからさまだな」
色鳥達はいかにもな豪華に装飾された扉を見つけた。
「縁、手出しはするなよ?」
「我は幸せを願うのみだ」
「神様状態のお前は扱いつらい」
色鳥は苦笑いしながら豪華な扉を開けた。
「皆様! 次の挑戦者がやってきたようです!」
色鳥はスポットライトのような光に照らされる。
「ようこそ正義の味方さん! ルシファント地下闘技場へ!」
色鳥は周りを見回すと中央には血にまみれた大男が立っている。
周りには血だらけの武器が散乱していてそれを囲むように観客席があるようだ。
「幾度と無く正義の味方がここに訪れて散っていきました! 男も女も無残に殺されるか犯される! 今回はじわじな殺す男! 殺人鬼の熊五郎だ! 無残に殺されるぞ!」
「いいぞー!」
「殺せー!」
「ぶちまけろクマー!」
実況らしき男の解説で会場が湧き上がっている。
観客は60人くらいで姿形だけならば老若男女居るようだ。
色鳥は中央に向かって歩き始めた。
「俺は正義の味方じゃないんだが? 俺は命を弄ぶ奴らを殺しにきただけなんだ」
色鳥は辺りを見回して実況者を探した。
観客席よりも高い位置に奇抜な衣装を身にまとった男が身を乗り出している。
「それはある意味では正義ではありませんか!? そして我々は『殺し合い』をビジネス! 言わば『娯楽』としてお客様に提供しております!」
実況男は身振り手振りをしながら話をしている。
「いや、そんな事聞いてねぇんだよな」
「そして貴方達は勝たなければ生きては帰れない! 生き残ってもジャスティスジャッジメントからは逃げ切れない!」
色鳥をビシっと指差す実況男。
「てめぇらが命を弄ぶ確証が得られたら好都合だ、全て殺してやるから安心しろ」
「可哀想な人だ! 同情の余地もある! しかし、この場においては情け無用だ!」
今度は泣き真似をしている実況男。
「あ、情け無用なのか、なら観客も殺せるな」
「おっと!? 観客に出だしは出来ないぞ! 最新鋭のバリアが観客を守っている!」
「なんでそのコメントは拾うんだよ」
「モウイイ、ハヤク戦わせロ!」
熊五郎は血だらけの斧を拾い上げた。
「なら遊ぼうか? 遊びにはルールが必要だ、観客が自害しすれば俺は死ぬ、ただし観客が心から懺悔をしながらでなければ無効、それ以外で俺に怪我もしないし死にもしない、なったとしても演出で済まされる」
色鳥はニヤリと笑った。
「ワンチャン可能性は残した、お前達は理不尽が好きらしいからな……楽しくなりそうだ」
「挑戦者! 何かわけわからない戯れ言を言っているぞ!」
実況男は大笑いしながら壁を叩いている。
「ハハハ! 命乞いなら面白くしろ!」
「そーだそーだ!」
「土下座しろ!」
「いや! 無残に死ね!」
観客も言いたい放題色々と叫んでいる。
「さ、お遊びを始めようぜ?」
「コウルサイハエだ!」
熊五郎は斧で色鳥の腕を切り落としにかかる!
「おいおい、ルールは守ろうぜ?」
色鳥は平然とため息をしていた、斧は色鳥の肩で止まっている!
熊五郎は力を入れているが切り落とす所か切れてもいない。
「ド、ドウナッテ!」
熊五郎は何度も色鳥の肩を切り落とそうと斧を振っているが意味がない。
「お前もあそこの無能みたく人の話聞いてなかったのか? 俺が死ぬ条件は言ったはずだ」
色鳥は実況男を指差した。
「どうなってるんだ!?」
「お、おい! 熊五郎! 遊んでるなよ!」
「そうだ! ちゃんとやれ!」
観客からヤジが飛んできた。
「お前らが好きな一方的な娯楽の始まりだ、自分がやられて嫌な遊びはしないよな? 楽しい言葉遊びもしようじゃないか? ちゃんと考えろ? 俺が死ぬ条件は言ったはずだ」
色鳥はニコニコしながら両手を広げた。
「おっと俺は俺の価値観で物事喋ってるからさ? 間違ってたらすまねぇな」
「フ、フザケ……」
熊五郎は攻撃の手を止めたりしていない。
色鳥が言っていた『死ぬ条件』を思い返し、それが『意味不明で理不尽』だと理解したのだろう。
「言っとくわ、観客も私達は関係無いとか無関係とか思ってないよな? 殺人や強姦を楽しむような奴らが真っ当な事ほざくなよ?」
色鳥は熊五郎の斧を右手で受け止めた。
その手にいつの間にかグローブをしていて受け止めた斧を右手で砕いた。
「一方的殺人って奴を俺も楽しませてもらうぜ? でよ、俺がぺちゃくちゃ喋ってる間にさ、対策の一つでも考えた?」
色鳥はつまんなそうに熊五郎を見た。
「シネ! シネ!」
「なんか冷めた、つまらないわ」
色鳥はため息をしながら刀を抜いて、やる気もなくてきとーに振ると熊五郎の右手に当たって腕は切り落とされる。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
熊五郎は左手で切り落とされて出来た傷口付近を触る。
「ああ言い忘れてたが『熊五郎が痛がると観客と本人は死ぬ』っていうルールがあるんだ」
熊五郎は白目を向いて有無を言わない死体となりその場に崩れ、悲鳴も無く観客達も一斉に倒れた。
「お前達が得意な隠しルールって奴だ、てか面白くねぇ……せっかく神様から許しもらったのによ」
「な、なんだコイツ! こんな事がバレたら俺は!」
実況をしていた男はまだ生きているようだ。
「夜空、頼んだ」
色鳥は男に向かって持っていた刀を投げた。
投げた刀は黒い狼に姿を変えた!
「ひ、く、くるな!」
黒い狼の夜空は男の喉元に食らいついた!
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
男は苦しみ暴れているがしばらくして悲鳴が聞こえなくなった。
夜空は男が完全に死んだ事を確認した後、色鳥の行る場所へと戻ってきた。
「よしよし、帰ったら手入れしてやるからな」
「……ワン」
色鳥は尻尾を振っている夜空を撫でる、少しして刀に戻った。
「遊び疲れた者達よ、安らかに眠るといい」
「ったく律儀に死者にお祈りすねかね? 神様ってのは――」
色鳥はため息をしながら振り返り、手を合わせているであろう縁の方を見た。
「縁! 後ろだ!」
縁は色鳥の叫びを聞いて振り向むくと、目に飛び込んできたのは自分の胸に刺さりそうな短い槍だった。
飛んできた短い槍を受け止めようと右手で掴んだが止められず胸に刺さってしまう。
「ゴファ!」
「縁!? 大丈夫か!」
「見事だ人間……『強い意志の力』を持つ者を久しぶりに見た」
縁は刺さった槍を抜いて投げ捨て唾を吐くと血が混ざっている。
そして着物は出血で本物の赤に染まっていく。
色鳥が警戒している方向から全身鎧で重装備の兵士が一人やってきた。
その兵士は長い槍を色鳥達に向ける。
「色鳥、頼めるか?」
「大丈夫なのか縁」
「我はあの人間には勝てない、居てもお前が不利になるから先に進む」
「だろうな、お前に怪我させる人間だ」
色鳥は楽しそうに笑いながら兵士を見た。
「行ってこい」
色鳥のその言葉に縁は歩き出して色鳥と兵士はお互いを睨んでいる。
縁はこの場から居なくなると色鳥が口を開いた。
「俺は色鳥ってんだ、あんたの名前聞いていいか?」
「侵入者に名乗る名前は無い」
兵士は槍を構え、間合いを図りながら色鳥に近寄ってくる。
「そうかい? アンタには礼を尽くすべきと見た、遊びは無しだ」
色鳥はゆっくりと刀を抜いて兵士を睨んだ。