ある朝、どんどんどんと扉が叩かれる音で俺は目が覚めた。
「え? 何どうしたの?」
やはり飛び起きてしまった妻のネスリーは驚きつつも服を着る。
「誰っすか?」
俺は尋ねた。
「ガレル! 俺だよ俺。ランダースだよ!」
「おお、どうしたんだ入れ……」
扉を開けた瞬間、俺は唖然とした。
ランダースは同じ騎士宿舎に住む同僚だ。
いつも出勤してくる時にはぴしっと服も髪も髭もキメてくる男が、夜着のまま、髪はくしゃくしゃ、起き抜けの髭もぼうぼう。
そして手に何やら紙を掴んでいた。
ふらふら、と入って来る奴に、ネスリーは椅子を無言で出した。
どさ、と座る奴は力無くうなだれ、テーブルの上に手の中の紙を置いた。
「見てくれ」
「いいのか?」
「ああ。何だってこんなのがあるのか俺はさっぱり判らない」
それは綺麗…… とまでは言いがたいが、生真面目な文字の手紙だった。
「まあ、これ、エイムの字ね。私にも見せて」
ネスリーは俺の横からのぞき込んだ。
愛していたランダース。
愛する、と書けたらとても良かったのに。
私はもう貴方とは一緒にやっていけません。
何かもう疲れてしまいました。
とりあえず実家に戻ります。
実家ではきっと反対されるとは思うのですが、それでも私はもう本当に疲れてしまったんです。
ですので私を自由にしてください。
貴方を愛していたエイムより。
「あら…… とうとうそうなっちゃったのね」
ネスリーはあらあら、という様に肩をすくめた。
「え? 俺には何が何だか判らないんですが」
「うん、まあ、この宿舎の奥さん連中皆エイムにがんばれ、って言うと思うのだけどね。あ、かく言う私も。ともかくしばらく実家に居るって言うんだから、ゆっくりさせてあげたら? 下手な手出しせず」
「そんな」
嗚呼! とばかりにランダースはテーブルに顔を突っ伏せた。