懐かしいな、あの指。
綺麗に爪は切り揃えられ、マニキュアをしたところを見たことがない。
ぽっちゃりして触ると柔らかい手で。
なのに器用に、クルクルと。
「え、いつからいたの?」
「5分くらいかな」
「やだ、声かけてよ」
「いやぁ、なんか懐かしくってさ。相変わらず器用に回すね」
私がそう言うと、さーちゃんは、手に持ったペンを見て苦笑した。
無意識なんだよ、と。
ペン回しは、学生の頃からのクセらしい。
回している時は集中している時らしい。
学生の頃にも散々からかっていたけど、本当はちょっと憧れてた。
なんとなく大人っぽくみえたから。
「賢そうに見えるね」
「成績、知ってるでしょ? しーちゃんと変わらないよ」
当時の会話を思い出す。
私と同じような成績だったけど、さーちゃんは努力家だ。
今だって、難しい資格試験に向けての勉強をしている。
「ねぇ、週末も勉強?」
「ううん、試験はまだ半年以上先だしーーどこか行く?」
デートでも? なんて。
「え、いいの?」
「もちろん。ん、何か変?」
私の顔を見て不思議がる。
「いや、もっと照れるかなって」
「まぁ、もう隠す必要なくなったからね」
開き直り? 違うか、一人突っ込みをするさーちゃんも珍しい。
どこ行く? どうしようか 映画でも? いいねぇーー
「ねぇ、初めて見た映画、覚えてる?」
何の映画を見るかタブレットで探していたら、そんな質問をされた。
「あれでしょ、アニメの--」
「猫型ロボット」
「幼稚園だった?」
「どうだったかな、一年生だったかも」
そういえば、入学祝いに皆んなで見に行ったような気もしてきた。
「泣いたね」
「だって、アニメではいじめっ子がさ、一緒に冒険したり助けられたり、カッコよかったりするんだもん、泣くよ、そりゃ」
「あは、そうだね」
「隣に座って見たよね」
「うん、手繋いでたね」
「うん、逆隣りはお母さんだったなぁ」
「……ごめん、思い出させて」
「ん? 別にいいよ、何年前の話だよ」
さーちゃんは微笑んでいる。
「でも……時間が経てば、寂しくなくなるもの?」
「なんというか、寂しさに慣れる感じかな」
慣れる? この痛みに?
二人の間に沈黙が流れた。
「ねぇ、今夜一緒に寝てもいい?」
「いいよ」
大抵がそうだ。
たまにだけど。
私が寂しくなった時とか、人恋しくなった時に、肌を重ねるようになっていた。
『人は一人では生きていけない』と言ったのは誰だっただろう。
どこかの偉い人だったか、何かの歌だったか、昔のドラマの先生だったか。
間違っているのだろうか。
傷を舐めあっているだけだろうか。
それでもーー生きていかなきゃいけないのだから。
いつか傷がかさぶたになる。
剥がれたら、また出血するかもしれないから、剥がれないように慎重に。
そうやって生きていってもいいんじゃないかな。
明日見る映画は泣けるだろうか。