お昼までの時間は自由時間とのこと。
みんなそれぞれ、施設を見学したり、体を動かしたりいろいろしている。
こんな時ぐらいは1人の時間を愉しむというのもありかもしれない。
と、思って歩き出す……という冒険はせず、学園が貸し切っている会場の一席に腰を下ろしていた。
自由に歩き回るには、僕の脚がいうことをきいてくれない。
もうそろそろお昼の準備で従業員の人たちが入って来ちゃうのかな、と思っていると背後から足音が。
「やっほ~」
その声は、今学事祭で散々耳にしてきた人。
「光崎生徒会長」
「なんだい、こんな時ぐらいは普通に呼んでよー。ボクだって役目に縛られ続けるのは嫌なんだ」
「わかりました。でも、こんなところでどうしたんですか?」
僕は半身翻してそう尋ねる。
すると、光崎さんはどこからか持って来ていた、いや、最初から手に持っていたのかもしれない椅子を僕の隣に置いて座った。
「なんだかねぇ。1人になりたかったのかな」
「なんで疑問形なんですか」
「じゃあ志信くんもなんでここに居るのさい」
「1人になりたかったからですかね」
「一緒じゃーんっ」
光崎さんはコクッと体を倒しながら、左手の甲で僕にツッコミを入れる。
「まずはあれだね。ここまで勝ち進んだという実績は凄いものだ。おめでとう」
「ありがとうございます。光崎さんのパーティも、おめでとうございます」
「ありがっとう。それにしてもボクたちは、いろいろと」
「そうなんですか?」
学年もクラスも役割も違うのに、何が?
「実はね、ボクも今回が初めてのリーダーなんだ」
「えっ?」
「言いたいことはわかるよ。生徒会長なのに? だよね。元々は副会長の子がリーダーをやってくれていたんだけどね。今年が最後だからって、そう言われちゃってさ、みんなからも言われたから断りにくくってさ」
「そんなことがあったんですね」
「随分と他人事だね? ボクってさ、こういう性格だからつい自由奔放にやり始めちゃうんだけど、リーダーになっていろんなことを学んだんだ。――責任、ってやつを」
光崎さんは柄にもなく覇気のない声。
「なんでも全力でやって、負けたらしょうがないの精神だったんだけど……全然違うね」
「……わかります」
「でもそう考えると、志信くんの方がよっぽど大変だよね。転校してきて、そこからのリーダーでしょ。同じっていうのは失礼だったね」
「確かに知らない土地に知らない人たちに囲まれて、今でもなんでここに立っていられるのかを考えることがあります」
「だよね~」
本当に、こうしている今でさえそうだ。
僕が転校してきてまだ一カ月も経っていない。
だというのに、こんな……偶然だというのはわかっていても、みんなのおかげだというのを絶対に忘れてはいけない。
それに、光崎さんが言っていた、責任。
今までは自分だけだったものが、随分と重くなってしまった。
「まあとりあえず、おめでとうだね~。ここにジュースでもあったら乾杯っ! って雰囲気なのになぁ」
「――光崎さんこそ、少し他人事ですね」
「そうかな?」
「そうですよ。その言葉は、優勝した時にとっておいてください」
「お~、言うようになったねぇ」
「負けませんよ」
「それはこっちの台詞だよん」
僕と光崎さんは目線をバチバチに交わせる。
すると、時間がいつの間にか経過してしまったのか、複数人の足音が耳に入ってくる。
「あ、そろそろお昼ご飯の準備が始まっちゃうから、お話はここまでだね」
「わかりました」
「ここで試験内容を伝えても良いんだけど……そんなことをされて喜ぶような人間じゃないもんね、キミ」
「そうですね」
「それじゃまた後で~」
光崎さんはスタッと立ち上がって、スキップで出口に向かって行った。
じゃあ僕も、部屋に戻ろうかな。