各々の作戦会議が終わり、次は対戦相手の発表。
「じゃあ、僕と叶の相手は彩夏と結月」
「わかった」
「はいはーい、手加減しないよー」
「よしきた、全力で行くよーっ」
やる気全開の彩夏と結月に対して、どうしてよりにもよってという目線を送ってきているだろう叶。
その目にはほんの少しだけ殺気が込められているような気もする。
僕も一方的に攻撃されて喜ぶ趣味はない。
他の組み合わせに比べると、一番攻撃力が高い組に間違いないけれど、だからこそ、必要なこと。
だから、そこは許してほしい……。
つ、次。
「桐吾と美咲の相手は一華と一樹」
「よろしくね」
「私も頑張るよ」
「よ、よろしくね」
「よろしく頼む」
相も変わらずクールな桐吾。
握る杖に力が入り、緊張の色が見えている美咲。
控えめに構える一華、あれは相手を油断させているのだろう。
ここで疑問が浮かぶ。
こういうお祭り事みたいなものには、前のめり気味だった一樹のテンションが高めではない。
少しだけ不思議ではあるけれど、誰だっていつでも絶好調というわけではないのだから、それもそれでいい練習だ。
本当に体調が優れないのであれば、自己申告してくれるだろうし、今は様子見でいいかな。
「じゃあ、始めようか」
まず初めに、僕と叶対彩夏と結月。
相手の手に構えられているのは片手直剣と片手短杖。
対する僕たちは、両手小盾と片手直剣に小盾。
組み合わせの中でも一番の攻撃力を行使する2人、当然のことながら勝機が目に宿っている。
だけど、こっちだって負けるつもりはない。
「――始めっ!」
美咲の合図によって幕が開ける。
開幕早々、仕掛けてきたのは結月――後方から追従する様に彩夏の炎魔法。
――今だ。
『カンッ』
「っ!」
右の盾を鳴らし、叶はそれに気づいて僕と同じに右へ飛ぶ。
「うっわ、なにそれ」
「ふーん」
結月はそのまま真っ直ぐに通過、同じく彩夏の魔法も空振りに終わる。
「まだまだー!」
彩夏の意気込みが聞こえ、再び結月も地面を蹴り突進してくる。
『カツッ』
「なるほど、こういう感じね」
今度は左の盾を鳴らし、同時に左へ回避。
「うっそでしょ」
「……」
「あーもう、まだまだー!」
彩夏は炎魔法の三連射を繰り出してきた。
あれは普通ならば回避困難の攻撃。
――だけど、今なら。
『カンッ、カツッ、カツッ』
合図の元、右――左――左と完璧に呼吸の合った回避をみせる。
「はぁっ!? そんなのないでしょうよ!」
こちらの戦術は変わらない。
回避と防御の徹底。
結月もさすがに思うこともあったのだろう、一度彩夏の位置まで飛び戻った。
「ねえ志信、私は驚きが隠せないよ。あっちは絶対に気づいてないね」
「かもしれない。でも、油断はできないよ」
「だね」
一息つき終えると当時に、あちらの意見交換も終わったようだ。
結月が再び突進の兆候をみせる。
「くるよ」
想定通りの突進。
だけど、彩夏の魔法の軌道が弾幕となる。
「おりゃりゃりゃりゃーっ!」
一つはこちらに向かって飛んでくるも、他の二発は向かって左側の宙へ飛んでいく。
結月の顔に笑みが浮かんでいる。
ああ、そういうことか。
「叶、受けてっ!」
「はいよ」
剣と盾がぶつかり合う。
「つーかまえたっ」
「攻撃じゃ勝てないけれど、防ぐことなら負けないよ」
「力比べ―っ!」
結月の怒涛の攻撃が繰り出される。
素早い数度の刺突。
風切り音が鳴る斬撃。
その華奢な体からは想像のできない剣圧。
対する叶は、身のこなし軽く防いでいる。
柔軟な対応力で剣と盾を巧みに扱い、剣の軌道を逸らす。
防御だけではなく、一瞬の隙を突く攻撃も見事だ。
あれだけ見れば後は任せるだけでいい――彩夏が居なければ。
「私を忘れてもらっちゃダメだよーっ」
そうくるよね。
まるで結月の背中を狙った同士討ちにもみれる攻撃が飛んでくる。
だけど、その目的は連携を図る攻撃。
「私たちも2人だからねっ」
想定通り、結月は横へ飛んだ。
だけど――。
「マジックバリアッ」
体勢を崩していた叶は、回避が困難であった。
それをも狙った攻撃、だけど、僕たちだって2人だ。
赤光する薄い膜が砕け落ち、彩夏の攻撃が無効化された。
「志信、ありがとう」
「出たー、それずっるーい」
「ずるいのはお互い様ってことで」
結月からの文句は理解出来なくもないけれど、今は敵同士。
四の五の言っていられる状況ではない。
「ファストヒール、フィウヒール――これで、仕切り直し」
「なんだか、仲間なのに志信のことがちょっと怖いよ。少しだけ結月が言った最初の言葉が理解できたかも」
「でっしょー?」
「僕を怪物みたいに言うのはやめてほしいんだけど」
会話の最中、貴重な情報を見逃しはしない。
対話する結月の体力は、こうして話していれば余裕が伺える。
だけど、今この時を休憩時間と膝に手を突く彩夏。
体力的な問題もあるのだろうけれど、単純に魔法の乱発が問題だろう。
「じゃあ行くよー!」
こうなってしまえば、実質的に二対一。
だけど油断ができないのもまた事実。
なんせ、あの結月という人間は予想不可能な攻撃を繰り出し、的確な攻撃を仕掛けてくる。
『カンッ』
「っ!」
合わせて回避して距離を取る。
そう、無理に打ち合って隙を見せてしまえば、敗北の確率が増えてしまう。
それに、未だ可能性を秘めている彩夏を視界外に置いておくのは危ない。
「へえ~」
「どこからでもどうぞ」
「ふぅ~ん」
少し肝が冷えた。
自信満々に叶は結月を挑発。
モンスター相手には全く通用しない言葉による挑発は、対人戦こその醍醐味とも言える。
頭に血が上った人間というのは、簡単ことさえ見失い、ミスを犯す。
だけど、後々が怖いからほどほどにお願いね……。
「はーぁっ!」
『カツッ、カツッ、カンッ』
「あーっもう!」
僕たちは息ぴったりに回避を実行。
結月もいよいよ苛立ちが前面に出始めた。
だけど、回避の選択を取って正解としか言えない。
結月の動きは風のように機敏で、末恐ろしいぐらいに正確だ。
叶を信頼していないわけではないけれど、正面から撃ち合い続けてしまえば、間違いなく負ける。
彩夏は……ああ。
完全にへたり込んでしまっている。
そして、美咲の声で全員が動きを止めた。
「そこまで!」
終了の合図。
「えー! まだまだ戦いたかったのにー」
「ダメだよ。時間は時間。それに、私たちだってまだ戦ってないんだから」
「……はーい」
不服そうに返事をする結月はこちらに歩み寄ってきた。
「ねえ、今度は私と組もうよ」
「機会があったらね」
「ぶー」
結月は頬を膨らませ吹き、待機組の位置まで歩いて行った。
次に叶。
「お疲れ様。短い時間だったけれど、凄く貴重な経験ができたよ」
「こちらこそありがとう。叶のおかげで選択肢がさらに広がった」
「いやぁ、結月の言葉をいよいよ理解出来たよ。志信とは絶対に敵として戦いたくないね。だから、今後ともよろしく」
「そうだね、僕も叶が味方でいてくれると助かるよ」
次の対戦となる、美咲と桐吾対一華と一樹の結果は、美咲と桐吾に軍配が上がった。