放課後、一華と叶は夕陽に照らされる教室で話をしていた。
他にも生徒はチラホラと数人の姿があるも、その全員が帰宅する準備を整えている。
「おつかれさま」
「おつかれ~」
教科書を鞄に詰め込む叶。
机へ溶けるように張り付いている一華。
今回初めてのパーティ戦を終えて、緊張感から解放されたかのように安心している。
「今日さ、どう感じた?」
「どうって? みんなのこと?」
「そう」
その問いに対し、喉を鳴らし「ん~~~~」と唸る一華。
「そうだね~。みんな凄かった」
「だよね」
「それに……楽しかった」
「それね」
2人は薄っすらと笑みを浮かべ、その時のことを浮かべる。
「なんか、何をするわけじゃないんだけどさ、いてもたってもいられなくいられなくなるよね」
「うん。今何ができるわけでもないのに、思い出すだけで何かしなくちゃっ、てね」
「最初はさ、ちょうどいい船を偶然にも見つけられてラッキー程度しか思ってなかったのにね。完全に当たりくじって感じ」
「なんだかそれ失礼じゃない……? でも、わかるかも。パーティを組んで全然時間経ってないのにね」
「本当にそうだよね。パーティを組んでまだ五日目だっていうのにね」
「そうだよねー。でも、もう五日も経ったんだね」
一華は体を起こし、座ったまま背を伸ばす。
「私、今までで一番楽しい」
「えっ、叶ちゃんが随分と珍しいこと言ってる」
「何よそれ。私には感情がないとでも思ってたの?」
「え? 違うの?」
くだらない冗談に、2人は目線を合わせて笑う。
「でもさ、一華も人のこと言えないからね?」
「え?」
「一華、いつもより笑ってるよ。それはもう楽しそうに」
「そ、そうか……な?」
叶に言われたからなのか、夕陽に染められたのか、嬉しかったことを思い出しからたからなのか、それとも全てなのか。
本人にもハッキリと理解できない感情が湧き上がり、頬を赤く染める。
「私、初めて褒められた……」
「たしかに、一華が褒められてるところ初めて見たかも」
「え。今、もしかして流れで酷いこと言われた?」
「いいや? 気のせいじゃない」
「ふぅーん」
一華は反撃とばかりに、意味深な顔をしながら口を尖らせる。
「な、なに」
「私だってわかってるんだから。そんなに鈍感じゃないよ」
「だからなにが――」
「叶ちゃんも初めて褒められてたじゃん」
「そ、それは……」
核心を突いたと確信した一華は、これを好機と見て怒涛の追撃を繰り出す。
「し・か・も、ほんの少しだけほっぺを赤くしちゃって! あぁ~、あんな姿の叶ちゃんかわいかったなぁ」
「あ、あれは! あれは、あれは……そ、そう。体を動かしたからで」
「え? 叶ちゃん、あの時は動いてなかったよね?」
「うぐっ」
滅多にない機会に、ニヒヒッと悪い笑みを浮かべながら更なる追撃をする。
「はぁ~、かわいかったなぁ~。いつもあんな感じで過ごしてたら、叶ちゃんも男子からの人気も急上昇だろうにねぇ。はぁ~、せっかくの美人さんがもったいないよ」
「…………」
身振り手振りため息を交え、わざとらしい名演技を見せる一華。
普段は、自分の意思をこれでもかというぐらいに先読みされ、的確に刺激され、話題のネタにされているのだ。
こういう時ぐらいでしか優位に立てないことを良いことに、更につけあがる。
その反面、言い訳や他の要因を疑う余地もなく、頬を、耳を真っ赤に染める叶。
挙句の果てに顔を下に向け、前髪を垂らし、表情を伺えなくなってしまった。
小さくも可愛らしい復讐心を燃やた一華は、止めの一撃を放とうと目論む。
「もしかして叶ちゃん。志信くんのこと好――」
「食らえ!」
「あいたーっ! いたーい! 叶ちゃんひっどーっ!」
「自業自得」
かなり容赦のない手刀が一華の脳天へと放たれた。
得意げに叶をおちょくっていたせいで目を閉じていた一華。
当然、避けられるはずもなく直撃。
それはもう即座に反応してしまうほどの痛み。
もちろん叶もその反動で手に痛みを覚え、プラプラと右手を振っている。
手刀の直撃部分を両手で覆い、涙目になる一華。
目で痛みを訴えるも、叶からは殺意のオーラを纏った笑顔だけが返ってきた。
「ひ、ひぃっ! あのぉ……怒ってます……よね」
「どうだろうね」
叶は酷く冷静で、声にも何かが宿っている。
「随分と痛そうじゃない。もし良かったら、もう片方の手がまだいけそうなのだけど」
「ご、ごごごごごめんなさいっ!」
完全に攻守が逆転した瞬間であった。
そんなやりとりをしていると、気づけば教室の中は自分たちだけになっている。
滅多にこんな経験をすることができず、もう少しだけ物寂しい教室を堪能していたいところではあるが、叶は鞄を手にし、スッと澄ました顔に戻す。
「じゃあ、そろそろ私たちも帰ろっか」
「うんっ」