今日は朝から何かと教室内からは賑やかな空気感じる。
全員というわけではない、一部の男子だけ。
一応、予想はついている。というかそれ以外ないはず。
席替え。
答えはこれ。
正直にいえば、大半の男子が浮足立っているようにも見える。
学生の恒例行事である席替えは、新しい出会いや気になる異性と話すキッカケになる。
女子側の考えはわからないにしても、男子となればあからさまにソワソワする人は少なくない。
「席替えかぁ」
「どうかしたの?」
「いやさぁ、隣がまともな人だったらいいんだけど……下心丸出しなアホ面男子が隣に来ると、つっかれちゃうんだよねぇ」
「そ、そうなんだ」
「あぁ、それわかるかも。話すときは少し素っ気ないっていうか気取ってるというか、そんな感じに接してくるのに、授業中とか内容をノートに書いてるときとか妙に視線を感じるのよね」
なるほど、そういうことらしい。
これはめったに聞けない貴重な意見だ。
僕はそういう気持ちで接したことはないけど、無意識にそうならないよう気を付けなければ。
「でもさぁ、どっちにしても今の席から変わるのは気が進まないよねー」
「それわかる」
「それ物凄くわかる」
机に頬杖を突いている
しかも、アイコンタクトを交わして頷き合って。
それが意図するものであるのはわかっても、その意味まではわからない。
これは男子が踏み込んではいけない。と、直感が警鐘を鳴らすため、見て見ぬ振りをした。
「僕も賛同だね。席が変わるとしても入り口付近とかは避けたいとは思う」
「出入りが頻繁にあるから?」
「そうだね。授業中はともかく、休み時間になったら人の流れを常に気を付けていないといけないってのは、ちょっと疲れるからね」
たしかに、休み時間なのに気を張らなければいけないというのは疲れるかもしれない。
幸いにも経験をしたことが無いため、想像の域でしかないけど僕も入り口だけは避けたいと思った。
でも、みんなが言うように僕も今の席のままがいいな、と密かに思っている。
気を張らなくていい、気兼ねなく話ができる。こんな些細なことが心地よくも安心できるものだったなんて、初めての感覚だ。
次に隣席となる人が、今のみんなみたいな関係になれるとは限らない。
これは我儘なのかもしれないけど……。
そんな気持ちを抱きながらも先生が入室してきて、授業が始まってしまった。
「今回の席替えは以前のものとは違い、学事祭に適応したかたちで行います。なので、現時点でパーティが決まっているところはその通りになり、それ以外の人たちはパーティが決まり次第変わります。窓際が既に決まっている人たち、廊下側がそうでない人たちとなります」
心躍らせ、お祭り騒ぎ状態だった男子は一瞬、何を言われたか理解できていない様子で凍り付いている。
たぶん、先生の口から「席替えのためにくじ引きをします」と告げられた後に騒ぐ予定だったのが、その目論見も潰えた。という感じだろう。
ちなみに例外なく僕、いや、それを聞いた全員が理解できていなかったのかもしれない。
「あれ、皆さんどうかしましたか? 皆さんが大好きな席替えですよ?」
「そ、そりゃあないぜ先生」
「悪夢の始まりだ」
ちらほらと男子がそんな小言を先生にぶつけている。
「はてさて、一体何のことかわかりませんけど移動を開始してくださいね。あ、そうそう、志信くんたちはそこから移動しなくて大丈夫ですよ。さあ皆さん、ちゃっちゃと移動してくださーい」
何かに取り憑かれたかのように小言をブツブツと零しながら移動していく男子。その反面、キャッキャと浮足立っている女子。
その答えはすぐにわかるものだった。
「そうそう、言い忘れてましたけど、パーティ内でしたら席を交換しても大丈夫ですのでご自由に」
先生がそう言い終えたと同時に、
「よっす」
「そんな感じみたいだから、よろしく」
「おおお願いします!」
「みんなよろしく。それで、みんな席はどうする?」
「そこで、折り入ってお願いがあるんだけどいいかな」
そう口を開いたのは叶だった。
「いいよ、どうしたの?」
「図々しいのは百も承知なんだけど、一番後ろの席を譲ってくれないかな」
「あー、便乗して悪いんだけど俺もそうしてもらえると助かる」
一華にも目線を向けるも、ぺこぺこと頭を下げている。
個人的にはこれと言って断る理由も無いけど……。
「僕は全然大丈夫だけど、みんなはどうかな?」
「僕も問題ないよ」
「私はー、志信の隣ならどこでもいいよっ」
「私たちが一つ前になるだけよね、それなら問題ないわ」
「そだねー、問題なしなし」
若干一名だけ変な意見があった気もするけど、みんなの承諾は得られた。
みんなの移動を終え、各々が新しい席に着く。
通路側・美咲・窓側・彩夏。
通路側・結月・志信・窓側・桐吾。
通路側・一樹・叶・窓側・一華。
と、いった感じの並びになった。
そして、他のところを見渡すと、男子だけで固まっているところ、女子だけで固まっているところが目に付いた。
移動時に聞こえた言葉やテンションの差はここにあっということか。
男子は女子とお近づきになれる機会を失ったということで、女子は気苦労をせずに済んだ。と。
そして、僕たちと同じく早々にフルパーティを決めたところがもう一組、前の席に座っている。
その中には、体力測定のときに一華が何度も謝っていた