勢いよく駆け出した僕はモンスター小団体まで距離を詰めきった。
時を同じくして、
そして、僕の役割は――。
「【クイックヒール】、【フィウヒール】!」
即時回復系で極々回復量の少ない【クイックヒール】。
回復系のなかでも一番回復量の少ない【フィウヒール】。
これらをモンスターの目の前で自分に発動させる。
そう、僕の役目はモンスターのヘイトを自分に集めること。
「えっ、
二番目にヘイトを集められる回復スキル。
回復量が限りなく少ないとはいえ、連続発動をすればヘイト管理下にないモンスターなら、どんな状況でもスキル発動者に一直線に向かってくる。
そう、今回も例外なく――。
「――いくぞ」
モンスターらはこちらへ標的を定め走り寄ってくる。
まず初めに槍先が僕の腹を目掛け飛び込んできた。
その対処に大きく体を動かす必要はない。体を捻って角度を変えバックステップ。
追撃は剣撃。大振りで上段からの振り下ろし。
これには、左手に装備している盾を剣に当て、軌道をずらして勢いを受け流す。
「無駄に連携力があるな……」
つい愚痴が零れてしまったけど、相手の攻撃が止まるはずはない。
先ほど
「こっち終わった! そっちに――」
「ダメだ! ターゲットを優先!」
「――わ、わかった」
桐吾の言葉を跳ね返した。
今は仕方がない。
この状況は、ソルジャーラットが引き起こしていると言ってもいい。
ならば、この状況を打開するにはターゲットを討伐することが最善策だ。
それに――。
「うーわっ、また来ちゃったよ!」
そう、援軍は止むことはない。
僕ができるだけ時間を稼ぎ、みんなにソルジャーラットの体力を削ってもらうしかない。
「【クイックヒール】、【フィウヒール】」
再び回復スキルを使用。
追加で迫ってくる小団体、計四体がこちらに向かってくる。
「今のうちにやりきって!」
声を張り上げ全体に指示。様々な声が飛び交っていたように聞こえたけど、今はその言葉は届かない。
今集中するべきなのは目の前。
「「「「「「キュゥー!」」」」」」
複数のラットたちの鳴き声が鳴り響く。
一撃、一撃と間髪入れることなく続く攻撃。正面、右、左と攻撃が続く。
盾で受け流し、全身を使って回避――止まってはいけない。
杖の装備を解除して、右手が空けておいたのが功を奏している。地面に手を突いて、後方倒立回転などの様々な動きで回避ができる。
常にバックステップを意識して後退、左右に動きながらも相手を視界に入れ続ける。
だけど、距離を取り過ぎてはいけない。援護が届かなくなったり、最悪あちら側に全部流れていってしまうからだ。
「はっ、はっ――」
目線の先に時折入るあちら側の様子。
あの様子からソルジャーラットの体力の削れ具合は相当なものだろう。
「くっ!」
顔が歪む。
目の前には六体。残念ながら完全に回避し続けることはできない。時折届く攻撃は、決して柔らかいものではない。
攻撃を食らってしまう度に、回復スキルを使用。
だけど、この流れは一番望む展開ともいえる。
ここまで回復スキルを使用すれば、
◇
「ダメだよ桐吾くん!」
「でも、あんな状況じゃ志信がっ!」
「大丈夫。しーくんなら大丈夫。大丈夫だよ」
守結は桐吾を真っ直ぐ見て、反転しようとしている桐吾の行動を止めた。
「でも、あんなの無謀すぎる!」
「桐吾くん、その気持ちはわかる。でもしーくんは、『今のうちにやって』って言った。聞こえたでしょ?」
「……っ! ……わかりました」
桐吾は、されども反論しようとした。でもしなかった。できなかった。
見てしまった。誰もが援護に行くべきだと判断するこの状況でも、そう言い切る守結の姿を。
剣を持たない左拳は固く握られ、力だけじゃなく気持ちも込められた左腕は小刻みに震えている。
桐吾はそれを見て悟った。
こんな状況で一番に駆け付けたいはずの人が誰よりも冷静なはずがない。文字通り力一杯に自分の感情を抑えて、
守結は、志信が望むこの戦いの『勝利』を掴みにいこうとしている。
それを汲み取った桐吾は、右手に握る剣を力一杯に握りしめ、ソルジャーラットの元へと駆け出した――。
「康太くん、このまま一気に片づけちゃうよ!」
「おうよ、待ってたぜ!
「う、うん! いくよー!」
「はいはいー! やっちゃうよー!」
康太の掛け声に声を張り上げて応える2人。
もはやこの状況に置いて、ソルジャーラットの行動はかなり制限されている。
正面からのヘイト管理により目を離せず、後方や側面からはほぼ絶え間なく剣撃を食らっている。
そして、剣撃が止んだと思えば遠距離からの魔法攻撃。
サンドバックとはまさにこの状況のことをいうのだろう。
こんな状況が続けば、体力が尽きるのも時間はかからなかった。
『ギィィィィャァァァァァ!!』
苦痛に泣き叫ぶ悲鳴が鳴り響いた。
そして、その声と共に力なく後方へ体を倒し姿なく消えていった。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
康太は感極まって両拳を天に突き、声を大にして雄叫びを上げた。
そして、喜びを分かち合うため2人の方に視線を向けるが、そこには誰の姿もなく康太は目線をぐるりと回した――。