第25話、ついにお披露目!

「こんかめーん、みんなお待たせ!」

【きたー!】

【待ってました!】


 そしてついに新衣装お披露目の日がやってきた。告知した通り、私は配信を予定していた時間に枠を取る。開始時刻になるとすぐにたくさんのリプライが届いた。どうやらみんなも待ち遠しかったらしい。この期待を裏切らないように頑張らなければと改めて思う。

 しおりお姉ちゃんも知り合いに口添えしてくれたのか、見たことない人達がたくさん来てくれている。それに、配信部屋もしおりお姉ちゃんのデザインなので【部屋の作りがさすが】だの、【壁のポスターの場所がセンスいい】だのと盛り上がっていた。私の姿はまだ画面に映っていない。既に裏では新衣装を用意しているため、私はすぐには出ないようにしていた。なるべく期待値をあげておきたい。


「今日は来てくれてありがとう」

【早く新衣装見せて!】

【けーちゃんどこ?】

【待ちくたびれすぎて砂になっちゃう……】

「砂にならないで」


 そんなコメントに笑ったりして心の準備を整える。ぶっちゃけ心臓が爆発して死んでしまいそうだ。でもここまで来てしまったからには死んでしまってでもやりとげないと。


「まずはみんなにお礼させて! 初配信からここまで来れたのはみんながいたからこそだよ。私の活動はまだまだ続くし、もっともっと大きくなっていきたい。これまでの軌跡と、これからの奇跡……ずっと見ていてくれる?」

【もちろん】

【応援してる!】

【一生ついていくぜ!】

【ずっと推します!】

「ありがとう……みんなと出会えたことに感謝します。じゃあ、いくね」


 最後にそう締めくくり、私は意を決して画面を映す。その瞬間、コメントは拍手で埋まり私の新衣装が映し出された。その画面にいた私は、フリフリの衣装に身を包み、頭には大きなリボンがついていた。ちなみに仮面は健在だ。


「みなさん、改めてこんかめん~。私の姿は誰も知らない……仮面VTuberのイニシャルKです!」

【うおおおおおお!】

【きたああああ!】

【可愛いいいい!】


 私が新衣装を映した直後、コメント欄は大盛り上がりだった。いつもより爆速で流れていくコメント欄に目が追いつかない。みんなも喜んでくれているようで安心した。そして私は言葉を続ける。

 人前に出ることに慣れたとはいえ、やはり緊張するし恥ずかしい。だけど、今私の目の前にいるのは画面越しのみんなだけ。なら大丈夫だと自分に言い聞かせた。


「えっと……これが私の新しい衣装になります。最近配信を始めた時とはまったく違う感じの服装だよね。イニシャルKはこの仮面をつけていることもあってミステリアスなイメージが強いと思うんだけど、今回はこういう可愛い系の衣装にしてみたの」

【最高!】

【本当に天使……】

【かわいいよー!】

【もっと見せて!】


 やはりみんなは喜んでくれているみたいだ。そのコメントを見て私はホッと一安心する。しおりお姉ちゃんが褒められているような気がして嬉しかった。でも、私はまだまだこれから。もっと色んな人達に知ってもらわないと。そのためにも、今日は頑張らないと!

 私は自分の顔をずいっと画面いっぱいにして、リスナーに見せつける。いわゆるガチ恋距離というものだ。リスナーも突然の私の行動に戸惑っているような反応を見せる。そんなリスナー達に対していつもは見せない面を見せてみることにした。


「みんなは、私のことどう思ってくれてる? 推してくれてる人はたくさんいると思うけど……ちゃんと言葉にして欲しいな」

【好き!】

【可愛い!】

【愛してるよ~!】

【けーちゃんしか勝たん!】


 みんなの反応は様々だが、好意的なものがほとんどだった。私の目を見つめてみんなしっかり愛を伝えてくれる。それが嬉しくて私はついつい顔が緩んでしまうのだった。


「えへへ……ありがと」

【照れてる?】

【やっぱり天使だ……】

「て、照れてないから!」


 私は慌てて否定するが、声の雰囲気でバレバレなのかリスナー達は生暖かく【はいはい】とか【そうだね、照れてないねー】とか言ってくる。なんだか恥ずかしくなってしまい、私はコホンと咳払いをして誤魔化す。


「こほん、じゃあそろそろこの衣装で歌でも歌ってこうかな」

【お!?】

【けーちゃんが歌ってくれるの嬉しい!】

【聴きたい聴きたーい!】

「それでは、聴いてください。『けーかっと』です!」


 私はそう言うと、早速音源を流し始める。裏でボリュームを確認済みなので大丈夫なはずだ。みんなの鼓膜を破ることはないだろう。私は息を吸い込むと、歌を歌い始める。この曲なら音程を外すことも歌詞を間違えることもない。視聴者としてはそういうドジなところも見たいのだろうけど、私は歌に関しては一番真剣でありたい。

 みんなが認めてくれたこの歌声を大事にしていきたい。そして、多くの人に歌声を聴いてもらって笑顔になって欲しい。歌は世界を救うって言葉があるけど、あながち間違っていないかもなんて思ったりするのだった。


「きっとわかってたことだった。無理して頑張っても、本当の私じゃない。みんなが思う通りに上手くやれないときもある。だけどそんな時、一緒に乗り越えてくれる仲間がいる。それが幸せだった……」


 冒頭を歌って一旦間奏部分でコメントを見る。そうするとコメント欄はサイリウムの絵文字と【うぉぉぉぉぉぉぉ!】という熱狂的なコメントで埋まっていた。そんな反応がなんだか面白くてつい口角が上がってしまう。

 歌うのは好きだ。みんなに褒めてもらえるのが嬉しい。でもそれ以上に、みんなと一体になれる感覚が好きだった。これからも、どんなことが起きるかわからないけど、みんなと楽しく活動していけたらと思う。


「この曲は、仲間がいるから乗り越えられる。そんな気持ちがこもってるから選ばせてもらったよ」

【うおおおお!】

【最高だあああ!】

【感動したよ……】


 そんな温かいコメントが嬉しくて私は思わず涙が出そうになってしまう。でもそれだと歌えなくなってしまうのでぐっとこらえて笑顔で歌い続ける。その想いはみんなにも伝わったようで、より一層応援してくれるようになった気がする。みんなの愛をヒシヒシと感じてとても心地よかった。


「ありがとう……みんな、本当に大好きです。これからもよろしくね!」

【俺も!】

【一生推すよ!】

【もう結婚しよう!】


 こうして、私は無事にお披露目配信を終えた。……まあ、後半はお披露目というより歌枠になってしまったような気はするけど。

 それでも、この配信は大成功と言ってもいいんじゃないだろうか。今後の活動にも大きな希望を持てたし、この調子ならもっと上を目指していけそうだとも思えた。