第203話 夏休みはイチャイチャから2

 それからものの数分後。ベッドに腰掛けウトウトしていると、ガチャリと部屋の扉が開く。


「お待たせぇ〜!」


「うぅん……おぉ?」


 先程まではワンピースに身を包んでいた由那の服が変わっている。


 パーカーに緩いズボン。分かりやすく部屋着であり、なんなら寝巻きだ。


「随分と緩い格好になったなぁ。それで、したいことって?」


「ぐっふふふ。いつもならすぐに勘づきそうだけど、今日の彼氏さんは寝起きで鈍いにゃあ。え〜い!」


「のわっ!?」


 ぽすんっ。由那に押され、身体が後方に倒れる。


 俺の背中を包んだのはもちろんベッドの柔らかい衝撃。何をするんだ、と急いで起きあがろうとしたのだが、彼女はそんな俺を見てニヤニヤしながら。隣へとダイブしてきたのだった。


「まだ朝だもんね。ゆーし、疲れてるんでしょ? 実は私も眠いんだぁ……」


 ふにゃあ、と可愛いあくびをしながら目を擦る由那。もう何を企んでいるのかは、寝起きの回っていない頭でも流石に察しがついた。


「ごろごろイチャイチャ、か?」


「あったり〜♡ せっかくの夏休みだもん。遊びに行くのも大事だけど、こうやって朝からのんびりできる休みもそうそう無いよ? ぎゅっしながらごろごろしよ〜」


「オイオイ、彼女さんは本当俺を甘やかすのが得意なんだな。そんなことされたら起き上がれないぞ」


「起き上がらなくてもいいよぉ。ずっと私の横にいて? ぎゅ〜〜って、いっぱいいっぱい甘やかすからぁ。彼氏さんからもたっぷり欲しいにゃぁ♡」


「……そうだな。とりあえず二度寝するか」


 二人並んで狭いベッドに寝転がり、上から布団を被る。


 以前にこうした時は……ああ、確か初めて大人のキスをした時だったっけ。


 結局あれから封印してるけれど、解禁されるのはいつの日になることやら。まあそんなことは考えても無駄だし、今はたっぷり甘やかしてもらうか。


「えへへ、ゆーしの匂いだぁ。このお布団、いっぱい匂いが染み込んでるから好きぃ。くんくん、くんくんくん……」


「やめろ、恥ずかしいだろ。というかそんなこと言ったら由那だって、こんな密着したら匂い凄いぞ」


「……なんかえっちだね」


「なんでそうなる。いや、確かに言い方は悪かったけども」


 布団の中で二人の形を作り、しばらくそれを整えるためにもぞもぞと動いてから。俺の伸ばした右腕に頭を乗せ、そのまま両腕で抱きついてくる由那にとって完璧な構図が完成。俺も全力の抱擁に応えるようにして左手を小さな背中に回すと、身体を引き寄せた。


 ああ、ダメだ。この甘い匂いと暖かな体温に当てられると余計眠気が強まってくる。


 由那の感触を味わっていたい。まだ堪能していたい。そう思っていても身体は眠気に素直で、次第に瞼が重たくなっていく。


「ゆーし? 寝ちゃう前に朝のキス……シよ?」


「……ん」


 なんてだらしのない夏休みの始まり方だ、なんて思いつつも。結局身体が感じ取っているのは幸せそのものなわけで。せっかく期末テストを頑張って乗り越えたのだ。夏休みくらい、とことん堕落し切ってもいいのかもな、なんて。


 ダメ男になってしまいそうな思考回路に陥りつつ、由那と唇を重ねる。





 とても幸せな朝だった。