第200話記念話9 ダブルデート4

 遊園地が開場時間となり、入場が始まる中。俺たち四人は列の流れに従いながらチケットで中へと入り、まずはグッズストアへと向かった。


 ここではお土産の他、遊園地をより楽しむための装備を購入することができる。


 え? 装備ってなんだって? それは勿論……


「……どう?」


「は? 死ぬほど可愛い。好きだ……」


「えっへへ、やった〜! でもゆーし、全部可愛いって言ってるけどどれがいいの?」


「それを選ばせるなんてお前、鬼か? 選べと言われたら全部選ぶぞ」


「ちょっ、そんなにカチューシャはいらないよぉ!!」


 猫耳、たぬき耳、ねずみ耳に牛耳、犬耳等々。


 動物達をテーマにしているこの遊園地では小動物関連のグッズが多い。種類も豊富にあり、おかげで由那が購入するカチューシャを何耳にするのか選べないでいる。


 だって仕方ないだろう。どれも似合っていて死ぬほど可愛いんだから。こういうのって大体遊園地にいる間しかつけないし、それっきり使う機会が無いという場合が多いけれど。その使い方では勿体無いほどの似合い方をしていた。


 あれも可愛い、これも可愛い。そう言っているうちにやがて、どれか一つにしてと怒られてしまった。でもそんなこと言ったってなぁ……。


「もぉ、せっかくゆーしが一番好きって言ってくれるやつを付けようと思ったのにぃ。私の彼氏さん、優柔不断だよぉ」


「ゆ、優柔不断とはまた違うだろ。というか由那が何つけても可愛いのが悪い」


「むっ……そ、その褒め言葉は嬉しい……。よし、じゃあ分かった! もう私はゆーしとお揃いの買うことにするから次、ゆーしが被っていってね! ふふん、私はちゃんと一つに絞れる子だもん!!」


「俺も被るのか? てっきり由那だけかと」


「お揃いにしなきゃ意味無いの!! ほら、まずはうさちゃん耳から!!」


「えぇ……」


 と、そんな一方で。


 イチャイチャ勝負なんて勝ち負けの基準も曖昧で、由那が突然言い出したそれにまあものの見事に影響されてしまっていた中田さんはというと────


「わ、私もこれ被るの……?」


「大丈夫、恥ずかしがらなくても死ぬほど似合ってるよ? ほら、写真撮ってあげるから見てみて」


「と、撮るなっ!! こんな恥ずかしいの付けてなんて絶対無理だって!!」


「恥ずかしくないよ。それよりもやっぱり有美はシンプルに猫耳が一番似合ってるね。黒髪とも合っててよく映えてる。買ってあげるからずっと付けてて?」


「やぁだ!! こんの、私だけなんて不公平でしょっ!!」


 すぽんっ、と猫耳カチューシャを外すと、真っ赤な顔で寛司に近寄って。強引に頭へそれを嵌める。


 自分だけ付けさせられているという状況が、なんだか辱められているような感じで癪に触ったのだろうか。顔を真っ赤にして声を荒げていたけれど。


 やはり男にはお世辞にも似合うとは言えない猫耳カチューシャ。それを付けられてきょとんとしている寛司の方を見つめて、中田さんは何故か固まってしまう。そして、しばらくの沈黙と共に。ぷるぷると小刻みに身体を震わせながら言った。


「……けて」


「え、なに?」


「わ、私がお金……出すから。それ、付けてて。か、かか寛司が付けててくれるならその……交換条件、で。私も付けててあげるから……」


 ああ、これは流石の俺にも何が起こったのかすぐに分かった。


 中田さん、多分反抗心でやり返しただけだったんだろうけど。好きな人の猫耳カチューシャ姿という核兵器に敗北してしまったんだ。ほら、こっそりとカバンの中からスマホを取り出して、真正面に立っているくせにバレていないか気にしながら写真を撮ろうとしてる。自分も付けるからなんて……よっぽど気に入ったんだな。


「ちょっとゆーし、よそ見しないでよぉ! ほら、次ねずみさんだよ!!」





 騒がしく、甘々な。ただ自分の好きな人とイチャイチャしているだけのダブルデートは、まだまだ続く。