第64話 好きな人を悩殺するために

「……もう、遅いよゆーし!」


「ごめんごめん。その、な。女子の水着選ぶなんて初めてだから時間かかった」


 水着を数着入れたカゴを持って、俺は由那の待つ試着室前へと向かった。


 結局どの水着も似合いそうだったのだが、なんとか候補を四つまで絞った。それらをカゴごと由那に手渡し見せる。


 一つ目は、水色のワンピース。露出は限りなく少ない、服のような形の水着だ。水色という涼しげな色と共に彼女にはよく似合うと思った。


 二つ目は、ピンク色のフリフリがついたビキニ。柄などは特になく、通常のビキニこ上からフリフリがついた形。デフォルト的なタイプだが、変に捻りまくるよりこういうのもあった方がいいかと思って。


 三つ目は、黄色と白色の水玉模様ビキニ。少し子供っぽい柄な気もするけれど、由那くらい子供っぽい性格の奴にはよく似合いそう。


 そして四つ目。これが俺の中では一応大本命だ。


 黒ビキニ×半透明なジャージ。ジャージ、呼べる物なのかは分からないが、どうやらこれは黒ビキニとのセット商品らしく、肩からかけて少し上着的な立ち位置で使われる。


 他の三つと比べると、少し大人っぽい水着だ。だが由那の白髪と対比した黒ビキニや、スタイルのいい彼女をより引き立たせる羽織り。勿論本人が他がいいと言えばそうしてもらうつもりだが、俺的には強く推していきたい。


「ふぅん。なんか、時間かかってただけあってちゃんと選んでくれたって感じするね。えへへ、これがゆーしの好みかぁ」


 ニヤり、と小悪魔的な笑みを浮かべる彼女から目を逸らしつつ、俺は早く試着室に行ってこいと背中を押す。


「ね、ゆーしっ。ちゃんとここにいてね? 着替え終わったらすぐに見せるから!!」


「はいはい、待ってるよ。楽しみにしてる」


「もぉ、照れちゃって。じゃあ待っててね〜」


 シャッ、とカーテンを閉めて、由那は試着室の中へと消えていった。


◇◆◇◆


「こ、ここここれが……ゆーしの好きな水着……」


 カーテンを閉めた私は、カゴの中を改めて覗き込む。


 こういった水着を着るのは何年ぶりか。小さな頃ゆーしと一緒に海へ行ったことがあるけれど、あの時なんて幼稚園生。もう自分がどんな水着を着ていたのかすら覚えていない。


 着てきた服を脱いで、下着姿になってから。黄色と白の水玉ビキニを手に取って、そっと自分の身体に当てて鏡に映った自分を見る。


「こ、こんなの……ほとんど下着だよぉ……」


 すぐに自分の顔が真っ赤になったのを感じた。


 雑誌に載っている有名人や何かの企画でテレビ番組に出るため水着を着ている人をよく見るけれど、いざ自分がやってみるとここまで恥ずかしいものなのか。


(あ、でも布面積が多いのもある……)


 そんな私が見つけたのは、水色のワンピース型水着。


 他の三つはビキニタイプなのに、これだけ服みたい。もしかしてゆーし、私がビキニを恥ずかしがるかもしれないと思って入れてくれたのかな。


 ワンピースを自分に当てて、もう一度鏡の前に立つ。


 妙な安心感があった。布が多く露出が少ないこれなら、私でも恥ずかしがらずに人前に出られる。そんな気がする。


 でも……


(攻めなきゃ……ダメだよね)


 それじゃ意味がない。私が恥ずかしくないレベルの水着で、ゆーしを悩殺出来るわけがない。


 やめよう。ワンピース型になんて甘えてられない。


「ゆーしに、ドキドキしてもらいたいもん。やっぱり着るなら、ビキニタイプしかない、もん……」


 すぅ、と大きく息を吸って、覚悟を決める。


 選択肢はあと三つ。別に買う物を一つに絞る必要はないし、ここからは全部着た感想をゆーしに聞いてみたい。


(待っててね、ゆーし……)





 カーテン一枚隔てたその空間で、私は。小さく握り拳を作ってから勢いよく下着を脱いで。まずは一枚目の水着を、肌に通した。