12月25日 11:53 海軍室蘭学校 正門
「はー、着いた着いた」
「やっと着いたね~」
面倒な講演会全部アイツに丸投げ出来るはずだったのに…。
クソが、雪め。
こんなに雪が憎いのは初めてだ。
長万部でかにめしを買おうと思っていたが、寝過ごしてしまった。
気づいたら東室蘭、まぁ帰りに買えばいいさ。
外は寒いのでさっさと校内に入る。
エントランスに入ると懐かしい匂いが漂って来た。
「ん~懐かしい!」
「あぁ…懐かしいよなぁ…」
エントランスで懐かしい匂いを堪能していると、右側から誰かが近づいて来た。
あぁ、見覚えがあるぞ、あの顔は。
「「幡生教官!!」」
「大変だったなぁ!お前ら!」
大笑いしながら俺と彩華の肩を叩く。
変わってねぇなぁ、コイツ。
「全くですよ。親父の奴、室蘭卒だからってこんな雪の中ココまで来させやがる」
「飛行機も欠航してっからなぁ!国重の奴、鬼畜だなぁ~」
「当の本人は霞ヶ関でぬくぬく…ったく…」
「後方でふんぞり返ってる奴はそんなモンだよ」
「呆れたもんだよ」
また大笑いしてら。
ま、笑わないよりマシか。
「さぁさぁ、疲れただろう、懐かしの学生館へ案内してやろう」
今度は背中を叩いて学生館の方へ俺達を誘導する。
学生館は俺達が暮らしていた宿舎。
食堂に風呂に自習室…色々揃っている。
さてさて、懐かしの寝室とご対面~。
12:03 学生館 3階 307号室
「「そ、そのまま」」
あの時の部屋のまま残されていた。
忘れてった懐中電灯もそのまま。
「おう!折角だからな、残せるだけ残してやったんだ」
「それに何の意味があるの…?」
「き、記念…?」
「何の記念だよ」
「ま、まぁそんな事は良いじゃないか、な、な?」
誤魔化そうとしている。
ま、どうでもいいや。
「講演会自体は明日だから、まぁゆっくりしてくれ」
おっ、明日なのか!
良かった良かった、アイツに丸投げ出来る。
「「了解しました」」
「じゃ、久しぶりの室蘭生活楽しめよ~!」
そう言いながら笑顔の幡生は去って行った。
室蘭で楽しめた事なんて1回も無いぞ。
「「………」」
取りあえずベッドに飛び込む。
ツインベッドであり、二段ベッドではない。
「あ”~っ”、懐かしいィ~」
この感覚!
あの日々を思い出す…。
「ねぇ、紫風ちゃん」
「何だぁ~?」
「懐かしいね」
「…あぁ、懐かしいな」
暫く2人で思い出を語りながら、懐かしの部屋を堪能する。
…思い出されるのは訓練の事ばかりだが…。
「にしても……何も無ぇなぁ~」
「うん。私達が居た時はもっと物があったと思うけどね~」
「あぁ、そうだな」
部屋にはベッドが2台とテレビが1台。
それと、机が2台。
後、冷蔵庫2台、ポットは1つだけ。
「冷蔵庫は…流石に空か」
まぁ、流石に空か。
逆に何か入ってたら怖いわ。
「こんなに広いのに2人部屋何だよね」
「あぁ、そうだな」
もっとベッドが入るだろうに。
本来はもっと大人数を想定していたのだろう。
「テレビもしっかりつくな」
「しっかり電気通ってるね」
「あぁ、そうだな」
ベッドから起き上がり、机を撫でる。
この机で勉強したなぁ~…懐かしいぜ。
「なぁ、彩華」
「ん~?」
「懐かしいよな」
「…うん!」
~~~~~~~~~~~~~~
12月26日 10:00 大講堂
「えー、本日は任務で忙しい中、七条 橘花中将がお越しになられた」
幡生教官がマイクで話している。
あの人が私の事を敬語で紹介する時が来るなんてなぁ…。
「中将閣下、壇上へ」
促されるまま壇上に上がる。
一体何を話そうか…何も考えていない。
確か、この子はウチの航海長の弟だった様な。
「えー…」
私はこういう演説は得意じゃない。
彩華の方が得意だ。
「…こんにちは」
「こ、こんにちは」
「私が、第一潜水艦隊司令、七条 橘花である」
と、取りあえず自己紹介…。
口調もそれっぽくして…。
「君は確か、SOS課程だったかな」
「はっ!」
あ~、元気良い返事。
ちょっとだけ安心。
「私もだよ」
彼は驚いている。
まぁ、当然か。
「え~、潜水艦に於いて―――」
12:00
「―――と、言う事」
何とか2時間話しきった。
途中、途切れ途切れになった部分になったけれども、何とか話しきった。
「………あ、以上」
「中将閣下、ありがとうございました」
壇上から降り、横で待機していた彩華の所へ一直線に向かう。
彩華は笑顔で私を受け入れてくれた。
「疲れたよぉ」
「お疲れ様」
彩華は私の頭を沢山ナデナデしてくれた。
あ~っ、落ち着く~。
「はぁ、講演とか彩華に全部丸投げしたかったのに」
「え~?私~?」
「だって彩華の方が演説上手いじゃん」
「そ、そうかな~」
照れてる彩華。
めっちゃ可愛い。
「いやぁ~ご苦労だったなぁ!」
そう言いながら、幡生教官は私の背中を強く叩いた。
ちょっとだけ痛い。
「俺はお前らがデカくなって嬉しいぞ~!」
また大笑いしてる…。
まぁ、変わって無くて安心した。
「それで、お前らこの後どうするんだ?」
「え、普通に帰ろうかなーって…」
「もう1泊しないのか」
「当然ですよ」
折角のクリスマス使ってわざわざ…。
それも交通機関がかなり麻痺している状態で…。
もう…お父様の馬鹿。
行くのは構わないけれども、日程と天候考えてよ…。
結果論だけど、どうせ26日になるんだったら今日出発で良かったじゃん。
わざわざ24日から行かせなくても…。
交通費全部経費で落としてやる。
「ねぇ、紫雲ちゃん」
「ん?」
「最後にさ~、ココ、グルって周ろうよ」
「良いね、そうしよう」
「おっ、じゃぁ俺も―――」
「「要らない」」
「アッ、ソッスカ…」
幡生教官の付き添いを拒否して、2人で周る。
まずは本館から。
大講堂がある3階から下り、2階へ向かう。
3階はこの大講堂しか存在しない。
「2階~」
2階は実験室だとかシミュレーターなどが置いてある階。
操舵は勿論、航空機のシミュレーターも存在する。
SOS課程なのに謎に航空機の操縦訓練もさせられた。
理由は今でも分からずじまい。
「あ、コレコレ」
2101教室には潜水艦の操舵シミュレーターが置いてある。
SOS課程であるから、ココには毎日の様に通った。
今は機械の電源は落とされており、使う事は出来ない。
「懐かし~!」
「懐かしいよね」
彩華が座席に座り、目を
昔を思い出しているのだろう。
12:12 2104教室
ココには通常艦艇の操舵シミュレーターが置かれている。
潜水艦シミュレーターの次に多く訪れた部屋だ。
「コレも懐かしいよね~」
「もう全部懐かしい」
"懐かしい"。
もうそれしか感想が出てこない。
司令官と言う役職に就いた今、舵を触る事は無くなったが、今でも感覚は染みついている。
通常艦艇はシミュレーターだけだが…。
潜水艦は実際に触った事があるから、良く覚えている。
特に最終試験……。
「1階行こうよ、紫雲ちゃん」
「OK、行こう」
エレベーターで1階へ。
1階には普通の大小様々な教室が並んでいる。
私達もそこで講義を受けた。
「あ、今お昼ご飯だから誰も居ないのね」
「そうそう。今食度行けば、色々会えると思うよ」
「どうしよっか、紫雲ちゃん」
「いや~、別に良いかな」
「そっかぁ~」
教室を覗きながら廊下を進む。
誰ともすれ違わない。
まぁ、良くある事だ。
「学生館は全部見終えたし…あ!」
「トランク!」
「危ない危ない、トランクお部屋に置きっぱなしだった」
急いで学生館の"元"自分の部屋へ戻る。
ベッドの横に放置していたトランクを無事回収。
中身は無事、何も盗まれていない。
と言っても、盗む物は無いけれど。
「よし、帰ろうか」
「うん!」
外は雪が積もっている。
ただ積もっているだけで、降ってはいない。
行きよりだいぶマシだ。
「ねぇ」
「ん?」
「京都も雪降った事いっぱいあったよね」
「ね~」
京都も結構雪が降る。
特に山間部、鞍馬山とか。
「…雪だるま作る?」
「作ろ~!」
久しぶりに雪だるま作ろ。
こんなに雪積もる事なんて滅多に無いし!
そして、門の前に雪だるまを作ろうと思い、外に出たらなんと…。
「おっ!気を付けて帰れよな!」
幡生教官が大量の雪だるまを錬成していた………。