あやまっても許さんけどね!

 弾け飛ぶフェアリーの腕の中から筋を強引に掴み取り、チョンカは手前に力の限り引っ張った。

 フェアリーは体勢を崩して前のめりになる。



「────っ!! おぉっ!!」



 その場でぴょんっと跳ねてみせて空中でゆっくり三回転。

 そして四回転目の後ろ足──


 フェアリーの頭がなくなっていた。飛び散る肉片さえチョンカの赤いオーラに触れて蒸発してしまう。

 消えてなくなったのだ。



 優しく着地したチョンカは頭上で両の手のひらを合わせ両手で円を描くように下ろしていく。

 手のひらの後を追うように虹色の輪がチョンカの背に現れる。



「ラブ公、もうちょっとだけ待っとってね。すぐ済むけぇね」


「チョンカちゃん……きれい……」



 虹の瞳が自分を見ている。先程までの傷も消え、七色の光の輪を背負い、赤いオーラに包まれるチョンカは、ラブ公には天使の様に見えていた。



「ふふ、ありがとう。ラブ公」



 少し離れた位置にいたウニの群れの中から空へ筋肉質なウニの中身が飛び出した。



「やっぱりおったね──サイコフォトン!」



 チョンカが背負った七色の輪が回転し、次々と光の矢が放たれる。

 成す術もなくフェアリーが空中で吹き飛ぶ。



「じゃあ、行ってくるけぇね! ラブ公!」





 チョンカは腕を広げつつウニの群れへと駆け出す。

 右手を握る。



「サイコ……キネシス!!」



 ウニの群れの中から突如、何本もの巨大な柱が猛烈な勢いで無造作に地面からせり出した。空へ巻かれたウニ達の中にフェアリーもいた。

 フェアリーは柱に押し上げられ柱よりも高い空中で放物線を描いていた。



「な……なんだ、こいつは……!」



 恐ろしい速度をもって柱の間を三角飛びで登っていき、最後に柱の頂上を蹴り上げチョンカもフェアリーと同じように空中で放物線を描く。


 逆さまで自由な姿勢のまま空を泳ぐようにマフラーを揺らし赤い光の軌跡を描く。少し先にいるフェアリーへ手のひらを向けるチョンカ。


 フェアリーは突きつけられたチョンカの手のひらから、広背筋が凍るような感覚を覚えた。



「サイコフォトン」



 先程のサイコフォトンとは比べ物にならない程、太い光の矢が何本も放たれ、束になってフェアリーへ注がれる。

 光の束が通り過ぎた虚空に炎の軌跡が残った。



「ぐぅ、仕方がない!! ア……アニマシールド!!」



 アニマシールドに弾かれ、反射するように方々へ拡散していくサイコフォトンは地上へも降り立ち各所で爆音と共に土煙を上げていた。

 破られるはずのないアニマシールドが次々と襲いくる光の矢に悲鳴を上げるように欠けていく。そしてフェアリーは見た。光の矢の中でも一際輝いていた赤い星が迫り来るのを。



「馬鹿……な! お、俺の……アニマシールド……!!」



 宙返りを一回転、二回転、捻りを入れて三回転──踵落とし──

 軽やかな音を立て、アニマシールドが砕け散る。

 大気を揺らし赤い衝撃波が周囲に広がった。踵はアニマシールドを突き破りフェアリーの後頭部へ落ちていた。



 一直線へ地面へ叩きつけられ、地響きと共に衝撃で多数のウニが舞い上がる。


 チョンカの七色の瞳の色が更に強さを増す。

 背負っていた光の輪が、チョンカの頭上へ位置を変え、町の大きさと同等にまで広がっていった。



「まだどうせ復活するんじゃろ? ウニは全滅させちゃるけぇね!!」



 光の輪の七色も一層強くなり、更に回転しだした。



「サイコレイ!!」



 幾百、幾千もの光の筋がワカメシティへ降り注ぐ。


 港のウニ。

 路地裏のウニ。

 民家に入り込んだウニ。

 庭園にいた無数のウニ。


 ワカメシティ中のウニ達を光が貫いていく。



『チョンカ君! 町の外だ!』



「西京先生!?」



 突然の西京からのテレパシーに町の外へ視線をやると、逃げ出そうとしているフェアリーを見つけた。



(西京先生、無事だったんじゃね……よかった!)



「な、なんだあの女……! 西京といい弟子といい、ば、化け物だ!」


「待ちぃや。このまま逃げられると思うとるん?」



 チョンカはテレポーテーションでフェアリーのゆく手を阻むように進路をふさいだ。



「ひっ! ひっぃいぃい!!」


「町の人に……」



 チョンカの右手に七色の光が集められる。



「ワカメボーイさんに……!」


「た……たすけ……!! あああぁぁぁ!!」




「あやまりぃーや!! この馬鹿筋肉オヤジ!!」




 地面を蹴ったチョンカの姿を、フェアリーは目で追うことが出来なかった。

 アニマガードは虚しく砕け散り、チョンカのサイコルークスが脇腹を薙いでいく。

 そして脇腹の傷から広がる光りに、肉体が浄化し意識が薄らいでいった。


 風に揺らぐチョンカのマフラーの後ろで薄緑色の塵が空へ舞っていく。




「あやまっても許さんけどね!!」




 そして纏っていた薄赤い光と瞳の虹色の光も一緒に、空の青へ溶けて行ったのだった。