第255話 思いがけない歓迎



 それから、翌日になって。


 私達は、アーサーの母親の親戚が住んでいるという村へとやって来ていた。


 ブランシュ村とは違い、きちんとした連絡も出来ていないまま立ち寄ったため。


 のどかな場所に住んでいる村の人達は、急に訪問した私達を見ても、まさか皇太子であるお兄様がこんな所に来ているとも思っていないのか。


 特に誰からも注目されるようなこともなく、私達が話しかけないと反応するようなこともなくて……。


 もしかしたら、鉱山を目当てに旅の一行が立ち寄ってきたとでも思われているのかもしれない。


 ブランシュ村に来た時よりも、田畑にいる人達も含めて、更に人口が少ないように思いながら、家屋は建ち並んでいるのに、ぽつぽつとしか人影が無いことを不思議に思いながらも。


 念の為、この村の領主である貴族には事件の調査の為にやって来たという事情を話した方が良いということで。


 狭い山中では馬車が通れない道もあるため、私達は一先ず、歩いて領主の館を目指すことにした。


「それにしても、人が少ないな」


 お兄様が怪訝な表情を浮かべながら、何かあったのかと眉を寄せれば。


「確かにな。……家屋はあるが、どこにも、あまり、人が居る気配がない。

 ここまで人がいないと、何かあって、村人達が全員一箇所に集まってるとか、そういうことなのかも知れねぇな」


「それって、もしかして。……村のどこかで、何か催し物が開催されていたりするのかな?

 それとも、何か問題があって、村人達が緊急で集まっているとか……?」


 セオドアの言葉に、現状、パッと思いつく限りの事を口に出せば。


「ふむ、催し物かっ!

 もしもそうなら、一度、人間の開催する催し物とやらに僕も参加したいと思っていたのだがっ! 開かれているといいなっ!」


 と、催し物と言う言葉に反応したアルが、はしゃいだように弾んだ声を出してくるのが聞こえて来た。


「オイ、アルフレッド。……俺たちは、この場所に遊びに来た訳じゃないんだからな」


 それに対して、お兄様が呆れたような声を出せば。


「むぅ、ウィリアム、そんなにも、固いことを言うなっ……!

 例え遊びに来ていないとしても、そういった心のゆとりという物は大事にするべきだぞ。

 僕達に与えられた仕事はきっちりこなすとしても、仕事が終われば後は自由時間であろう?

 折角、普段来ることが出来ない場所に来ているのだ。

 その土地の名産品などを味わうことも見聞を深めるという意味では馬鹿には出来ぬ」


 と、アルが楽しそうに目を細めて、私達に向かって言葉をかけてくる。


 普段から何も縛られることのない、自由人らしいアルの言葉だけど、その考えは凄く素敵な考えだなぁ、と私は思う。


 確かに、滅多に来ることのない地方に来ているのだから、調査は調査としてアーサーのことについては色々と聞くにしても。


 その土地ならではの物を楽しむということは、時間に余裕が出来るのならしても良い気がする。


「何か催し物が開かれていたり、名産品とかがあれば、折角だから買うのも楽しいかもしれないよね」


 にこっと笑みを溢して、アルの言葉に同意すれば。


「うむ、そうであろう、そうであろうっ! ……ほらなっ、アリスもこう言っているじゃないか。

 ウィリアムも、セオドアも、何もかもを、現実的に落とし込んで考えすぎなのだ。

 お前達は、もっとこの場にあるものを、臨機応変に楽しむこともするべきだと僕は思うぞ」


 ――特に僕とは違い、人間というものは、極端に寿命が短い生き物だからな


 この場にいる誰よりも年長者らしく。


 アルからそう言われて、お兄様とセオドアがほんの少し苦い表情を浮かべるのが見えた。


「この男と一緒にされるのは心外だ」


「あぁ、ソイツは俺も同感だ。こんな所で、アンタと意見が合致するのも含めてな」


 そうして、二人がちょっとだけ嫌そうな顔になってから、それぞれに声を出してくる言葉も含めて。


 お互いにこんなにも息ぴったりなのに『どうしていつも、相容れない部分があるんだろう……?』と私は凄く不思議に思ってしまう。


「まぁ、でも、姫さんは滅多にこういう所には来ることが出来ねぇし、時間があるならそういうのを堪能するのは悪くねぇかもな」


「あぁ、まぁ、そうだな。……多少の、息抜きは大事だからな。

 この辺りの特産品がどんな物なのかは分からないが、どこかに販売しているような人間はいるだろう。お前達が立ち寄ること自体は別に構わない」


 そうして、セオドアとお兄様からそう言って貰えて、パァァァ、っと笑みを溢しながら。


「良かったね、アル……。

 アーサーの事が解決するのが第一だけど、何か珍しい物があるなら買って帰ろう」


 と、声に出す。


 そういった物を販売しているお店に立ち寄るのを許可して貰ったことで。


 嬉しくなって、私が弾んだ声を出したからか、お兄様もほんの少し表情を緩めながら優しい目つきで私とアルのことを見てくれる。


 ――それから……。


 私達が取り留めの無い会話をしながら歩いて、どれくらい経っただろう。


 領主の館がある方向にみんなで向かって歩いていると、それまでお年寄りがぽつぽつとしかいなかった村の中で、村人達も増えて、がやがやと慌ただしく賑わっていて。


 急に活気に満ちあふれたような場所に辿り着いて、私達は顔を見合わせる。


 村人達は大人から子供まで、何かの準備をするように忙しそうに動き回っていて。


 その中で、一番私達の近くにいた女性に向かって、お兄様が……。


「すまないが、ちょっと聞いてもいいか? 今、この村では何が起こっているんだ?」


 と、問いかけてくれると。


 手に持っていたバスケットの中に、鶏が産んだものを回収したばかりだったのか……。


 卵を沢山入れていたその女性が此方に振り返って、足を止めてくれた。


 それから、お兄様や私達の格好を見たその人は。


「あら、こんなところに、珍しい。……もしかして、子連れの旅人、冒険者さんですか?」


 と、私達に問いかけてくれた後で……。


「今日は、素晴らしい日を記念した祝祭しゅくさいなんです」


 と、お兄様の質問に答えてくれた。


「祝祭……?」


 私が、彼女の言葉を反復するように声を出せば、此方に視線を向けてくれた女性が穏やかに笑みを溢しながら


「えぇ、そうなんですっ……!

 ここ最近、村人達を悩ませていた事が、やっと解決してくれたのでっ。

 それを祝って、近隣の村も含めて、この領地内で合同に開催されるお祭りなのでっ、皆さん、本当に運が良いですよ。

 夕方くらいから開催されるので、是非参加してみては如何でしょうか……っ!」


 と、興奮した様子で教えてくれる。


 私達がその言葉に顔を見合わせて『村人達を悩ませていた事って、何があったんだろう』と更にお兄様が彼女に事情を聞こうと口を開いた瞬間だった。


「あ、あれっ……!? で、殿下ではありませんか……っ!

 こんな所でお目にかかることになるとはっ! 珍しいですね! 此方には、一体、何をしに来られたんでしょうかっ……!?」


 と、少し遠い所から、焦ったような、大きい声が私達に向けられた。


 その声の大きさの所為で、周囲でバタバタと忙しなく動き回っていた村人達の足がピタリと止まるのが見える。


 そうして、村人達の合間をするすると抜けながら、此方にやってきたその人に、私は見覚えがあって、思わず驚いてしまった。


「……あっ、……ブライス、さん……?」


 ――この人とは一度しか、会ったことがないけれど。


 お父様と一緒に、私のデビュタントの時に、水質汚染について話し合ったから、その名前も含めてちゃんと覚えていた。


 お父様の側近で、環境問題の官僚をしているブライスさんだ。


 私がその名前を呼んだからか、お兄様にしか目を向けていなかったその人の目線が下がり、私の方を向いたのが見える。


「こ、皇女様っっ……!」


 フードを被っているとはいえ、正面から見られたら、当然私だということは知っている人からすると分かってしまうもので。


 私を認識したブライスさんが、お兄様を見つけた時よりも更に、驚いたような表情を浮かべながら、大きな声を出してきたことで。


 その場にいる村人達の視線が、さっきよりも、更にこっちに注目してきて……。


 どことなく、有名人が来たことに対する、尊敬や憧憬しょうけいの気持ちが混じったキラキラとしたような、好意的で熱気のもったような視線に変わったことに。


【普段、人から見られるような視線は、私の髪が赤いということであまり良い物ではないことが殆どなのにどうしたんだろう……?】


 と、私は、その視線の意味を図りかねて『……??』と、頭の中で疑問符を飛ばしながら困惑してしまう。


 これが、例えばウィリアムお兄様や、ギゼルお兄様とかだったなら、そういった視線を向けられるのは分かる。


 世間的に見て好感度も高いだろうし、二人がそんな視線を向けられるのは、私も幾度も目にしてきたことだから。


 でも、どう見ても、彼らはお兄様ではなく、ブライスさんの発した『皇女様』という言葉に対してこんな反応を見せたように感じて……。


 そのことを不思議に思っていると、ブライスさんから、少し遅れて此方にやってきた日に焼けた40代くらいの貴族っぽい雰囲気の男性が。


「ブライス殿、今の発言っ! こ、皇女様が、この村にやって来て下さっているとは本当ですかっ!」


 と、ブライスさんに前のめりになりながら、興奮した様子で話しかけるのが見えて。


 私たちは彼らの話についていけず、ポカン、としてしまう。


「あぁ、みんな、聞いてくれっ。……何を隠そう、此方のローブを着ている御方が、皇女様だっ!」


 そうして、どこか誇らしげに胸を張り、満足そうな表情を浮かべたブライスさんに、貴族っぽい人だけではなく、村人全員に向かって、もの凄く目立つような紹介をされてしまい……。


 全くローブのフードが意味を成さなくなってしまった私は。


『おぉ、あちらにいるのが皇女様……っ!』


『なんてことだ……っ、あの方がっ!』


 などと、何故か、私を見てひそひそ話をするように彼方此方あちこちで声を出してくる村人達に。


 どうして、私がこんなに注目されているのか全く分からず。


 針のむしろになっている状況に、居心地の悪さを感じながら、内心であわあわしつつ、ただ困惑してしまうばかりだ。


 それから直ぐに、『こ、皇女様……っ!』と、日に焼けた40代くらいの貴族っぽい男性に。


 感極まったような表情で、まるで、素晴らしいものでも見たのだと言わんばかりに熱いまなざしを向けられた私は。


 お兄様達が普段、誰かに向けられているようなその瞳が今、私に向けられていることに。


 こういう時、どう対応をすればいいのか分からず、そっと、お兄様の方へと窺う様に視線を向ける。


「……っこ、こんな良き日に、皇女様がわざわざ我が領地を訪ねてきて下さるだなんてっ!」


 そうして、私の視線を受けて。


 お兄様の方も、普段の無表情さをあまり崩すことはしないながらも、戸惑ったような表情を浮かべているのが見えて……。


 これがどういう状況なのかは、把握し切れていないみたいで、お互いに混乱してしまう。


 私達がこの場で困りきってしまっていることを、傍目から見ても分かったのだろう。


 どこか興奮したような様子だった、ブライスさんがハッとした表情を浮かべたあとで。


「……も、もしや、皇女様、っ! 陛下から、何も聞いていないのですか……っ!?

 この間のデビュタントで私に話して下さった水質汚染の件の原因を、皇女様のお蔭で究明することが出来たんですよっ!」


 と、事情を説明してくれた。


 その言葉に、私もようやく合点がいって、『あぁ……っ!』と、内心で納得することが出来た。


「ブライスさんが一生懸命に取り組んで下さっていた水質汚染の件、無事に解決することが出来たんですね。……良かったです」


 そうして、ホッと安堵しながら、ブライスさんと恐らくこの辺り一帯の領主なのだろう貴族の人に向かって笑みを溢せば。


「いえっ、皇女様っ……! 

 これはただ単に、問題を解決したどころの騒ぎではありません。

 皇女様の柔軟な考えのおかげで、この辺りでは採掘量の多い金属で作った容器などの成分が、水に溶けて川に漏れ出し、水質を汚染していたことが判明したのです。

 我が領地内で苦しんでいる民を、大きな被害が出る前に救って下さったばかりか……っ。

 水質汚染がこれ以上、他領にまで広がってしまうことなく、自領で食い止めることが出来たことを、本当に私も含めて、みなが感謝しているんですっ!」


 と、食い気味で、領主の人から言い募るようにそう言われて、私はパチパチと目を瞬かせた。


 この人が、水質汚染の件で被害が大きくならなかったことに対して、私にもの凄く感謝してくれていることは伝わってきたものの……。


 その感謝も何もかも、此方に向けられる熱量が。


 私が想像していた以上のもので、その反応に思わず戸惑ってしまっていると……。


「アリス。……俺が知らない間に、お前、いつの間にそんなことをしていたんだ……?」


 と、お兄様から、驚いたようにそう言われたあとで。


「あまり、お前自体はピンと来てはいないかもしれないが。

 こういった国全体を揺るがしかねない問題は、原因の究明によって、最終的にどこに責任があったのかも問われてしまいかねないからな。

 今の段階で解決することが出来ずに、もっと被害が広まっていたとすれば……。

 水質汚染ともなると、故意ではないにしろ、その金属を使った容器を水に溶け込ませていたということで、この辺りに住んでいる人間は世間から非難の目を向けられて、針のむしろに晒されてしまっていただろう」


 ――お前が水質汚染の原因を早期発見したということは、そういう二次的な被害からもこの辺りの人間を救う素晴らしいものだ


 と、褒めて貰えた。


 そこで初めて……。


 私自身は、水質汚染から、ただ病気になってしまう人を救っただけだと思っていたけれど。


 そういった後々あとあと、起こりうる責任の追及で。


 この辺りに住んでいる人達に対して、世間一般の人達から非難が向けられてしまうようなことを事前に防げることが出来たのだと分かって。


 彼らが私に向けてくれる、熱気の籠もったようなその視線の意味にも気付くことが出来た。


 いつも人から向けられる視線は、悪いものばかりだったから……。


 こうして、好意的な目を向けられることには慣れてなくて、少し照れくさく感じてしまうけれど。


 それでも色々な被害から、彼らのことを救うことが出来たのなら本当に良かったな、と内心で思う。


「あの、水質汚染で身体に不調が出てしまったような人はいたんでしょうか……?」


 そうして、気になって問いかければ。


「えぇ、自領の民から健康被害などに関しては、どうしても防ぎきれずに、出てしまっています。

 ですが、国から飲み水も配給されていましたし。……重篤な人間や、死者が出てしまう前に防ぐことが出来ました」


 と、領主から本当に嬉しそうに言葉が返ってきて。


 私はその言葉にホッと安堵しながら『そうですか。……それなら良かったです』と、表情を綻ばせた。


「皇女様は、我が領地の恩人であり……、大袈裟なものではなく、我々からすると、まさしく女神のような存在なんです」


 そうして、まるで何かを崇めるかのように、興奮した様子で声をかけて貰ったことに対応しきれず。


 思わず、その雰囲気に圧倒されてしまっていると……。


「こ、皇女様……っ。

 先ほどは皆さんのことを、旅人や、冒険者だと勘違いしてしまって申し訳ありません!

 皇女様のお蔭で、原因も分かって、我が子の病気もそこまで酷くならなくて済んだんですっ!」


 と、先ほど、お兄様がこの村で何かあるのかと質問をするのに呼び止めた女性が、私に向かって、本当に感謝するような声色で言葉をかけてくれた。


 その人が私に話しかけてきたのを、皮切りに……。


 遠巻きに私達のことを見ていた村人達が、一斉に私達の周囲を取り囲むように集まってきて。


「皇女様、うちの母ちゃんも、皇女様の発見のお蔭で、事なきを得ましたっ!

 俺からも是非、感謝させてくだせぇっ!」


「皇女様、私の家族も、大変なことになる前に助けて頂いたんです。……本当にありがとうございましたっ……!」


 と、彼らから口々に感謝されてしまい、私はあまりにも慣れていない状況に直面して焦ってしまうばかりだ。


「あぁぁっ、いえっ、私は、その……。

 思ったことを、ただ発言しただけで、実際に動いてくれたのはブライスさんなので、そこまで、感謝して貰えるようなことじゃ……っ!」


 そうして、彼らの反応に、おろおろしながらも何とか言葉を口に出して。


 実際に動いてくれたのはブライスさんで、彼のお蔭なのだと話せば。


「アリス……。

 例え、お前がそんな風に大それたことはしていないと思っていたとしても、それで救われた人間が大勢いるのだとしたら、その感謝は、お前がきちんと受け取らなければいけないものだ」


 と、お兄様から、やんわりと注意されるように、そう言われてしまって。


 私は戸惑いながらも、私に向かって本当に嬉しそうに声をかけてくれる、彼らの感謝の言葉をしっかりと受け取ることにした。


 それから……。


「皇女様、水質汚染の問題が片付いたということで。

 ここ最近、どうしても暗くなりがちだった、領民達を明るくするという目的もあり。

 お祝いとして、自領では、今日の夜からお祭りを開催する予定になっているのですが。

 そのっ、領民の手作り感満載のものになっていますし、王都で開かれる物ほどきちんとしてはいませんが……。

 是非とも、皇女様も含めて、皇太子様や、皆さんも参加して行かれませんかっ?

 水質汚染の問題解決の立役者でもある皇女様が来て下さると、領民達にとっても、この祭りは本当に意義のある素晴らしいものになるでしょう……っ!」


 『領民達のためにも、皇女様には、是非ともお力添えを頂き、参加して欲しい』と、強い瞳で、力強く領主の人から誘われて、私は皆と顔を見合わせる。


 事件の調査をしに、ただ、アーサーの行方などについて聞きに来ただけだったものが、全く思ってもみなかった展開になってしまった。


 領民である村人達も、私を見て『是非とも参加して下さい』というような、期待するような瞳を向けてくれているし。


 私自身、そんな風に想って貰えるのなら、折角だから彼らの開く祝祭に参加したい気持ちが湧いてくる。


 そうして、アルの『ウィリアム……っ! 祭りとやらに、僕は参加したいぞっ! 絶対に行こうっ!』というキラキラとした期待するような視線を見て……。


「あぁ、そうだな。……村人達のことを悩ませていた問題が解決したことによる、折角の目出度い席だ。

 それに、そこにアリス自身が関わっていて、その礼も兼ねて誘ってきているのだとしたら、水を差すようなことも出来ないだろう」


 と、お兄様が了承の言葉を出してくれたことで。


 私は、領主に向かって


「あのっ、もし良かったら、折角ですので、私達も是非お祭りに参加させて下さい」


 と、にこりと笑みを溢しながら声を出した。


 村人達が開催するというお祭りに、私達が急遽参加することになったのを、本当に此処にいる多くの人が喜んでくれたみたいで。


 周りで聞いていた村人達から色めき立ったように、ワッと、歓声のようなものが上がったのを聞きながら……。


 本当に、お邪魔しても良いのかな、と内心で思いつつも。


 自分がしたことで、人から、こんなにも喜んで貰えることなんて滅多にないから、少しだけ擽ったいような嬉しさが込み上げてくる。


「そうと決まれば、村人達の祭りの準備が整うまでは、是非とも我が家で皆様を持てなさせて下さい」


「あぁ、いや。……俺たちに対して、そこまで気遣う必要はない」


「いえっ! 殿下、お気になさらないで下さいっ!

 何て言ったって、皇女様は我々の恩人ですのでっ……!

 少しでもそのご恩をお返ししたいと思っているのは、領民だけではなく、私もなんですっ!

 だからこそ、私の為を思って、遠慮せずに、来て頂けると有り難いっ!

 それに、ブライス殿も準備が整うまでは、我が家に来てくれる予定でしたしね」


 そうして、どこか鼻息を荒くしながらも。


 にこにこと、本当に私達を持てなそうと動いてくれる領主の人に。


 ブランシュ村と、そこまで離れていないけれど、領主と一口に言っても、色んな人がいるなぁ、と思ってしまう。


 ブランシュ村で出会った領主は、私達を持てなすことで自分の利益にもなって箔が付くとでも思っているような、どこか嫌な雰囲気を漂わせている人だったけど。


 この村の領主は、そんな雰囲気を微塵も感じることがなく、本当に私達に感謝しているから、張り切って持てなそうとしてくれているのだと分かって、何だか和んでしまう。


「あの……。

 私達、王都で行方不明になってしまっている、アーサーという騎士の母方の親戚がこの村に住んでいると聞いて、調査しにやってきたんです」


 ただ、このままこの領主のペースに流されてしまうと、大事なことが聞けないままになってしまう、と危機感を覚えた私は。


 彼の対応に和んでいる場合じゃなかった、と……。


 ハッとしたあとで、私達の本来の目的である事情を説明すれば。


「ふむ、王都で騎士をしている、アーサーですか……。

 それで今、皆さまが探している、我が領地にいるという、アーサーという騎士の親戚の名前は分かってらっしゃるんでしょうか?」


 私の言葉を聞いて、少しだけ考え込む素振りを見せてくれた後。


 詳しい事情に関して更に突っ込んで聞いてくれた領主の人に……。


「いや、それが俺たちも、アーサーの親戚のきちんとした名前については把握出来ていないんだ。

 アーサーの母親の名前は、エブリンと言う名前なんだが」


 と、ブランシュ村に住んでいた村人達から聞いてくれたという、アーサーの母親の名前も出してお兄様が説明してくれれば。


「成る程、承知しました。……エブリンに、アーサーですね?

 村の内部についてよく知っている取り纏め役に、該当する人間がいないか聞いて、アーサーの親戚を私共の方でも探してみましょう。

 何、そんなに広い村ではありませんからねっ。……きっと、祭りが開催される夜までの内には見つかっていると思いますよ!」


 領主の人は、全く嫌な顔をすることもなく。


 この村に住んでいる人の中でも特に村のことを知っていそうな人に、アーサーの親戚についても聞いてくれるよう、手筈を整えてくれた。


 今日は、丸一日フルで使って、村の人達全員に、1からアーサーの親戚について心当たりが無いか聞いて回らないといけないんじゃないかと思っていただけに……。


 彼のその配慮は、今の私達にとっては渡りに船のようなもので、本当に有り難く感じてしまう。


「あの、ありがとうございます。……ご配慮、本当に助かります」


 私が、彼に向かって、お礼を伝えると……。


「いえいえ、これくらいのことはお安い御用ですっ!

 少しでも、殿下や、皇女様達のお役に立てているのなら、良いのですがっ!」


 と、貴族の人とは思えないくらい、大らかに大きく口を開けて豪快に笑ってくれて。


 貴族の人にしては珍しいくらい裏表もなさそうで、明るく、全く嫌な雰囲気も漂っていない大らかな人だなぁと改めて思いながら、私も彼に向かって笑みを溢した。


 それから、私達は。


 丸一日かかると思っていた予定が、思いがけず、空いてしまったことで。


 これから、細かい話をする予定だったというブライスさんと一緒に、村のお祭りが開催されるまでの間、領主である彼の家にお邪魔させて貰うことになった。