確かに、さっきアルが
事前にどんな能力者がいるのか調べた上でその波長に合う精霊さんを送っていたとは思いもしなかった。
「じゃぁ、アルは今までにも色々な能力を持っている人を見てきたことになるんだね」
私のその言葉に、少し困ったような顔をしながら。
【うん。
そうだけど、アルフレッド様はその大半を覚えてないと思うよ~】
【そうそう、アルフレッド様が覚えているのは、僕達の誰が能力者と契約することになったかだけだもんね】
【昔は本当に能力者も結構な数がいたから、その全てを一々記憶するのが大変だったみたいだしね】
という言葉が精霊さん達から返ってきた。
確かに長い年月を生きてきたアルのことを思うと、幾らアルの記憶力がずば抜けていると言っても、その全てを覚えるのは大変だろう。
【それに、能力者と契約した精霊からの連絡が一時期からパタッと途絶えてしまって、その件数が増えてからはアルフレッド様も凄く落ちこんだ様子だったしね】
そうして、彼らからそう言われて、私はそのことが今一よく分からずに首を傾げた。
【あれ、もしかしてオネェさん、知らなかった?】
【ごめんね、アルフレッド様、大雑把なところがあるから】
「……えっと、ごめんね、どういう意味、かな?」
【うん、あのね。
……アルフレッド様は特別だけど、僕達は契約したら契約主の寿命に左右されちゃうの】
【契約主が死んじゃったら、基本的には僕達も死んじゃうんだよね】
ほんの少しだけ困り顔で精霊さんたちからそう言われて、私はびっくりしてしまう。
そんな話、アルからは全く聞いてなくて、慌てる私とは対照的に、セオドアはその事実を知っていたのか、全く驚いている様子はなくて。
「セオドア、もしかしてこの話、知ってたの?」
「あぁ、前にアルフレッド本人から聞いた」
問いかければ、当たり前のようにそう返ってきたので驚いて目を見開いた。
「そ、そうだったんだ……っ。
あ、でも、それならどうして精霊さんは能力者と契約するの?
アルからは古の森で出会った時、私達の存在が生きて行くための何よりの糧になるというのは聞いていたし。
ご飯だけじゃなくて、私達の存在そのものが精霊さんにとって良いことは間違いないんだろうけど……。
それでも、寿命が減っちゃうというのを聞いて、戸惑いながら精霊さんに問いかければ、彼らはにこにこと笑いながら。
【勿論、それはあるよー】
【美味しいご飯が食べられたら、すっごく幸せだもんね】
【でもね、自分と波長の合う運命の契約者に出逢えること自体、僕たちにとっては貴重なことなんだ】
【そう、そう。どんなに長く生きても生涯で、運命の契約者に出逢える子は本当に一握りしかいないからさっ!】
【だからこそ、長生き出来る私達からしたら、確かに寿命は少なくなっちゃうけど。
それでも、自分と波長の合う唯一の契約者に出逢えることは私達にとって喜び以外の何者でもないんだよ】
と、教えてくれる。
能力者、赤を持つ者に対して、いつだって精霊さんたちは好意的だ。
その姿を凄く眩しいなぁ、と思いながらも、一時期からパタッと精霊さん達から連絡が途絶えてしまって、アルが落ち込んでしまったということは、精霊さん達も、精霊と契約していた魔女も亡くなってしまったということに他ならないだろう。
それも一人、二人のレベルじゃ無く、同時期に何人も……。
【確かにアルも、前に古の森で会った時、一時期から魔女の数が減ってしまったのだと言っていたな】
その所為で、精霊達もこんな風に澄んだ古の森のような場所でしか暮らせなくなってしまったのだと。
思わず俯いて、当時のアルに思いを巡らせていたら。
「アルフレッドは、恐らく迫害によって俺たちの数が減ったんじゃないかって、予想してたな」
と、セオドアから補足するように言葉が降ってきて。
私は思わず顔を上げて、セオドアの方を見つめた。
「迫害によって、?」
「あぁ。
……今の世じゃ絶対に有り得ねぇけど、俺たちみたいな赤を持つ者は、今とは真逆で、昔は神の子として崇められていたらしい……」
「……えっ?
わ、私達って、昔はそんな風に、崇められるような存在、だったの、? ほんとうにっ……?」
セオドアから言われたその言葉が、信じられなくて。
思わず、本当のことなのかと、疑ってしまう私を見て。
「姫さんが信じられない気持ちも分かる。
……俺も、アルフレッドから最初に聞いた時には信じられなかった」
と、セオドアから言葉が返ってきた。
「……まぁ、それに昔はそうでも、今、俺たちが迫害されてる事実は変わらないしな。
アルフレッドはそのことを、人間が強い力を持つ者を恐れて排除する方向に動いたんだろうって予測していたけど」
そうして、セオドアにそう言われて、アルがそう言うということは本当のことには間違いないだろうし、事実を事実として認めることも、その話に納得出来た部分も勿論あったけど。
やっぱりどこか、その事実をありのまま受け入れるのに抵抗を持ってしまうのは、私達が迫害されてきたこの現状や価値観に慣れすぎてしまっているからだろう。
【私達が神の子、だなんて……】
誰からも愛され、祝福を受けてこの世に生まれた存在かのように言われていること自体……。
まるで自分が存在していない、どこか遠い世界の話のように感じてしまう。
だから、今一、その言葉を聞いてもピンと来ないというのが正直なところだった。
きっと、セオドアもアルからその話を聞いた時、私と同じように思っただろう。
二人にしか多分、分かりえないだろう感覚を。
有り難いことに、セオドアとはいつもこうして、共有出来るから。
こういうとき、一人で抱え込まなくても良いんだって言って貰えているみたいで、心強い。
【それにしても、もしもアルの推測が正しいのなら。
人間の迫害によって能力者である私達が亡くなってしまったそのタイミングで、彼らと契約していた妖精さんたちも数多く亡くなってしまったのだろう】
離れている精霊さん達といつでもコンタクトが取れる分……。
沢山の精霊さん達からの連絡が一斉に途絶えてしまったら、心配でしかなかったと思うし。
私達と一緒にいても、いつも精霊さん達のことを気にかけているアルからすれば、本当にショックな出来事だったに違いないだろう。
私達の会話でその時のことを詳細に思い出したのか、精霊さん達も私達の周囲をふよふよと飛びながら、困ったような顔をしたあとで、声を出してくる。
【そうなんだよ、あの時のアルフレッド様、本当に見てられなかったな】
【僕達も何が原因なのか分からなくて、いっぱい仲間が死んじゃって凄く悲しかったんだよね】
【うん、うん。
……そういえば、アルフレッド様、特に
そうして、ポンポンと交わされる精霊さん達の会話から、聞き慣れない名前が出てきて、私は首を傾げた。
「アルヴィン、様……?」
私が精霊さんにそう問いかけた瞬間……。
「よし、少し手間取ったが、殆どの解析が終わったぞっ! やはり、僕の思っていた通りだったっ」
と、さっきまでずっと地面にしゃがみ込んで、ガリガリと数式を書いていたアルが、顔を上げて。
やりきった満足感のような表情を浮かべながら、私達を見たあとで。
「……? うん?
何だお前達、揃いも揃って辛気臭そうな顔をして」
私達の表情が、アルからしたらそんなに暗いものだっただろうか。
こんなに近くで話していたのに、精霊さん達の言う通り、集中していたアルの耳には全く私達の言葉は届いてなかったのだろう。
きょとんと首を傾げたあとで、アルにそう聞かれて、私はいつまでもそんな顔をしている訳にはいかないと思いながら、精霊さん達との遣り取りを中断したあと、慌てて首を横に振った。
「ううん、何でもないよ。
アル、本の解析、ありがとう」
「ああ、それで?
その本を作った人間は分かったのか?」
私とセオドアの言葉を聞いて、無邪気に笑顔を溢しながら、アルが此方を見てきた。
「あぁ、問題なく、その殆どは把握することが出来た。
やはり、当初の僕の予想通り、複数の魔女が絡んでいたようだ。
……それと、僕にとっては
「……凄く懐かしい、者?」
アルの言葉にセオドアと二人で顔を見合わせて、オウム返しのように問いかければ。
アルは少しだけ真面目な表情になったあと、私の言葉に同意するように頷いてから……。
「うむ、生まれた時から傍にいた、僕の半身だ」
そう、声を出して、困ったように笑った。