フジマルさんの自動運転の車が信号待ちしている間、ワタシは窓の外をのぞいてみた。
写っていたのは、大通りに立ち並ぶビルの数々。
その中で、ひときわ高くそびえ立つビルが見えた。
「イザホ、何見てるの?」
隣で顔を出したマウに、ワタシは窓の外の1番高いビルを指さした。
「なんだか、ここだけ見ると大都会って勘違いしちゃうよね……安直かもしれないけど、あの1番高いビルって……」
「ああ! 阿比咲クレストコーポレーションの本社だ!」
運転席で座っていたフジマルさんは、窓の外のビルを指さして話に割り込んでいた。
もしもこの車にハンドルが付いていたら、フジマルさんはよそ見運転の扱いになっていたのかな?
この車は自動運転専用だから、ぜんぜんいいんだけどね。
「ふたりとも、あの本社に研究所があることは知っているか?」
研究所?
「うーん、確か阿比咲クレストコーポレーションでは本社で研究した紋章を使っているって、サイトで見たことはあるけど……」
ワタシはそもそも、阿比咲クレストコーポレーションのことはよくわからない。
「あのビルの地下には、専用の紋章研究所が存在する。そこの研究員はもともと、紋章を研究する有名な私立大学に所属していてな、大学が廃止された際に阿比咲クレストコーポレーションが研究員たちを買収したんだ」
その時、信号は青になり、自動車は紋章の判断に従って動き出した。
「ねえ、その研究所ってさ、見学対象に入ってる?」
「確か、付近の小学校が見学に来ていたというニュースをテレビで聞いた。きっと見学できるはずだ」
紋章の研究所……か……
「ふふっ、やっぱり思った通り、ワクワクした目をしてる。イザホならきっと興味を持つと思っていたよ」
鼻をぴくぴく動かすマウを見て、ワタシは思わず笑みを浮かべた。
やっぱり、マウには全部お見通しだ。
大通りを走る中、マウは「おっ」と窓の外を見上げた。
……なにかあったの? マウ。
「いや、大したことはないんだけどさ、さっき病院が見えたんだ。ボク、行ったことがあるのは動物病院ぐらいだけだから、あそこまで大きい病院を見たのは初めてなんだ」
へえ……ワタシはどちらにしろ、ほとんど縁がなかったけど。
「あそこは
! 不笠木総合病院……あそこが……!?
「……どうしたの? イザホ」
あ、いや、なんでもない。
そういう意味をこめて、首を振る。
不笠木総合病院。名前だけは聞いたことがあった。
あそこは、ワタシが生まれた場所。いや、ただのバラバラな死体であったワタシが作られた場所といったほうが正しいかな。
車は大通りを抜けて、民家が建ち並ぶ住宅地へと入った。
窓の外を眺めていると、墓地のような場所を横切った。
なんだか、至って普通のお寺の墓地。
だけど、なんだか不思議な雰囲気を持つ墓地だった。
フジマルさんに聞いてみようかな……
「おっ!!
……と思っていたら、フジマルさんが前の窓を指さして叫んだ。
やがて、マウのいる席の窓に、大きな校舎が写った。
古すぎず、だからといって近代的でもない、想像していた通りの校舎の校門には、“
行方不明となっている、ウアさんの通っている学校だ。
「小中一貫校って……小学校もあるんだね」
「ああ、かつては高校もあったが、生徒の数の問題でなくなってしまったな……しかし、この学校の特色としては、紋章を数多く活用している! 古くさいような外観だが、この学校では時代の先端を目指しているといっていいだろう!」
この校門を通って、ウアさんは学校に行っていたのかな。
別に未練はないけど、ワタシが経験していないことが経験できるんだったら、ちょっとうらやましいな。
やがて、フジマルさんの車は森の中へ入っていった。
目的の喫茶店セイラムまで、もうすぐだ。