昨日のウアさんの件で、ワタシたちは取り調べを受けるために鳥羽差警察署に向かった。
「よろしく……じゃないんですよ!! 先輩、昨日マンションで通報があった時も来ていませんでしたよねぇ!? その上で今日は寝坊ですかぁ!?」
「ああ……痛い……スイホ、ちょっと緩めて……」
真面目でハッキリとしたスイホさん、そして暗い表情しか見せないクライさん。ふたりは、ウアさんの事件の担当刑事みたい。ふたりとも、裏側の世界の人物画の6人に含まれているけど。
クライさんからの取り調べでは、単にこっちの知っていることを話しただけで収穫はなかったけど……同じく取り調べを受けたフジマルさんは収穫があった。
「事務所に戻ったら、我々は阿比咲クレストコーポレーション本社の紋章研究所に向かうぞ。さっきの取り調べの後、面白い情報をつかんだんだ……!」
ワタシたち3人は、ウアさんの死体に埋め込まれた紋章の検視を行った紋章研究所に向かった。
そこでスイホさんとクライさんと合流したあと、ワタシたちを待っていたのは……
「まるでボクがペットみたいな言い方じゃないか!! あとそれから、ボクはマウっていう名前があるんだからね! “おばさんっ”!!」
「別におばさんって言われる歳だから、あまり気にせんけどね。ウサギちゃん」
「ギヌヌヌヌヌゥ!!」
紋章研究所の所長、テイさん。
テイさんは、10年前の事件に母親を失っていた。その母親の左足は……今、ワタシの左足となっている。
「うちが考える紋章……それは、体の一部。誰しもが五体満足であるとは限らない……でも、決して簡単じゃないけど、足りないものを他で補うことはできる。だからかねえ……うちが紋章にひかれるようになったんの」
その後、1カ月前に紋章研究所で盗まれた紋章の道具の資料を取りに行ったっきり、テイさんは帰ってこなかった。
その上、ワタシたちは研究室に閉じ込められた。
「……悪いけど、ボクたちはこの羊の紋章に触れたほうがいいと思ってる」
「これがワナであることは重々承知してくれ。近くに実験室に戻る紋章はあるんだろう? なにかあったら、すぐに戻るんだ。いいな?」
研究所の医療用ベッドに埋め込まれた羊の紋章に、ワタシとマウは自ら手を触れた。
「あ……あぁあああ……!!」
「テイ……さん……?」
裏側の世界で見たのは、落ちそうになったワタシを助けたのに、すぐに殺そうとした仮面の人間、そして、
「あんた……“姿の紋章”で……うちの母さんに姿を変えてたんやね……うちの研究所から盗んだ……紋章で……!!」
テイさんは、すでに殺されていた。
テイさんの母親に会いたかったという気持ちを利用されて……
「イザホ、失ったものはあるけど……裏側の世界に向かって正解だったね」
裏側の世界から戻ってきたワタシは、そこで得た証拠品をクライさんに渡し、今日は切り上げることにした。
その夜、マウとフジマルさんと一緒にスーパーマーケットを訪れると、ベンチで寝ていたリズさんと再開した。
「それじゃあ……依頼、受けてくれる? ウアの友達が、なんだか様子がおかしいの」