ワタシたちの鳥羽差市での生活が、今日から始まった。
「そういうわけで、オレは変なお隣さんってことになるが、懲りずに仲良くしてくれよな」
「はじめまして、ワタクシの名は“ヴェルケーロシニ”。管理人として、おふたりの豊かな生活をサポートさせていただきます」
このマンション・ヴェルケーロシニには、ふたりとの出会いがあった。
ひとりは紋章ファッションデザイナーのナルサさん。マウは彼の大ファンだって聞いたことはあるけど、まさか引っ越し先で出遭うとは思わなかった。
もうひとりは、マンション・ヴェルケーロシニの管理人さん。このマンションの建物に紋章で人格を与えられた存在である管理人さんは、とても紳士的で優しそうだった。
「よくもまあ、堂々と正面から入ってきましたね、コソドロ」
……不審者に対しては別だけど。あの時不審者に間違えられた時……声がまるで別人のようだった。
その後、ワタシとマウはマンションの向かいのコインスナックで、フジマルさんと出会い、仕事場になる瓜亜探偵事務所に向かった。
「今回の依頼……それは、行方不明となった少女の行方調査だ」
その行方不明となった少女……ウアさんの顔は、昨日ワタシたちを裏側の世界に引き込み殺そうとした、あのローブの少女そっくりだった。
「……別に収穫がないからといって、まだ確証のないことを言う必要はないんですよ。そもそも、裏側の世界など、にわかに信じたいですが」
「そうそう、自分は社長なんだって意識するから、しっかりしないとって思う。そうすることで意識が仕事に向くから、他のことは忘れられる」
喫茶店セイラムの店長さんの娘であり、ウアさんと友達だったリズさんから、ウアさんの母親であるハナさんの様態を聞き出した。
ハナさんは会社の社長としては気にしていない素振りをしていたけど、本当は自信を失わないために振る舞っていただけで、精神的に参っていたらしい。
「あの子から、手紙がきたの。会いに来てって」
ハナさんに会いに来るのは、ウアさんではなくウアさんの死体だ。そして、ハナさんは命の危機にさらされている可能性があると、ワタシたちは仮定した。
「ヴェルケーロシニ! すまないが1002号室のオートロックを解除してくれっ!! ハナに危機が迫る前に、我々で説得したいっ!!」
その後、ワタシたちはハナさんを尾行して、マンション・ヴェルケーロシニの1002号室にたどり着いた。
途中で不審者に間違えられたり、フジマルさんが足を挫いたりしたけど、ワタシとマウのふたりだけでハナさんの目の前に立つことが出来た。
裏側の世界に連れて行かれるのを、止めることはできなかったけど。
「ウアさんは……ここで殺されたっていうの?」
裏側の世界で見たのは、ウアさんとリズさん、ワタシを含めた人物画、バフォメットが立つ絵、そして、ウアさんの殺害現場を再現した絵だった。
その直後、ワタシたちはウアさんの死体から襲撃されるけど、なんとか紋章にパレットナイフを突き立てたことで動きを止めることができた。
「……イザホは、手を引くつもりはないみたい。だからボクも手を引かないよ」
この事件は、10年前の事件とつながっていることには間違いない。
ワタシとマウはフジマルさんに協力して、この事件に関わることにした。
少しでも誰かのために……そして、ワタシが自立できるために……
「だから、きっと友達になれるよね。ウアの次に仲良しな、友達に」