☆プロローグ☆
「なにしてんの?」
直也が隣の部屋からこっちへ来て、私の座っているソファに並んで座った。
「耳掃除」
「わ。俺も!俺の耳もやって欲しい」
「しょうがないなぁ・・・」
私の両太股の上に頭を乗せて、直也が嬉しそうに笑った。
耳たぶを引っ張って、直也の耳の中をのぞきこむ。
「あっ!でっかいのいるよ!」
「嘘!取って取って」
慎重にそうっと耳かきを直也の耳の中へ入れる。耳垢を掬い取る。
「もうちょっと力入れても良いよ。そうっとされるとかえってくすぐったい」
「注文の多い・・・」
「注文の多い料理店!」
「宮沢賢治か?食べられちゃうぞ~」
きゃっきゃ言いながら笑う私たち。
丁寧にちょっと力を入れてお掃除する。無言の時間が流れて、ふいに私は直也の耳にふうっと息を吹き込んだ。
「わー何すんだよ!」
「おしまい」
「あのな、耳かきの梵天は何のためについてんの?」
「梵天?」
わざと梵天で直也の鼻をくすぐった。
「バカ明美」
「なによぅ」
二人同時に吹き出した。