第24話 後始末

 正気に戻ったニブル王とアルフの再開を邪魔しない様にアル達は玉座から少し離れた所へ移動し、その光景を温かく見守っていた。

 ニブル王は悪魔に付け入れられたことを謝り、アルフがそれを仕方のない事だと許す。そして再び抱き合い、お互いの無事を確かめ合った。


 しばらくしてニブル王がどうやって自分が正気に戻ったのか? とアルフに尋ねると、アルフがアル達の方を向いて事情を話す。


「あそこに居る彼等のお陰です。牢に閉じ込められていた私を救いだしただけでなく、仮面の悪魔をも下し、お父様に掛かっていた催眠を解除してくれたのです」

「おぉ! なんとお礼を言えばいいのか……。そんなところでかしこまらずに近くへ来てくれないか?」


 ニブル王の言葉に甘える形でアル達はアルフの横に並び、改めてニブル王へ挨拶をする。


「初めまして、私はアルファード・フォン・グレイスと申します。こっちは従者のジブリール。あっちで寝ているのがナーマと言います」

「グレイス? もしかして災厄のグレイスの生き残りか!」

「はい、その通りです」

「まさか生き残りが居たとは……。まぁ詳しい話はまた後日にしよう。今はたすけてくれた事に感謝の意を示す」

「っ!? ありがとうございます」


 驚くべきことにニブル王はアルに対して頭を下げた。今はいち旅人に過ぎないアルへ一国の王が頭を下がるのは一大事件だ。この場が公式の物だったならば大騒ぎになっているだろう。だが幸いなことに仮面の男達や魔術師団の者は皆気絶していて、目撃者はジブリールとアルフだけなので大丈夫だろう。それをわかっているからこそニブル王も頭を下げたのだ。


「して、どうやって悪魔を退けたのかね?」

「それは、ここにいるジブリールが天使なのです。それとあそこで眠っているナーマという上級悪魔の助力でニブル王を助けることができました」

「なっ!? 悪魔だと!?」

「安心してください。彼女はジブリールの契約魔術により私と契約しています。なので人に害をなす事はありません」

「むぅ……」


 悪魔に操られていた自分が悪魔に助けられたという事に納得できない表情を見せる。それは無理もないかと考えるアルだったが、ニブル王は意外な言葉を口にした。


「アルフォード殿が信用しているなら、我が口を挟むものではないな。すまない」

「いえ、寛大なお心遣い感謝いたします」

「うむ。それにしても随分と暴れたのう。それに仮面の者達をどう罰すればよいのか……」

「それでしたら、私に任せて貰えませんか?」

「なに? 何か良い案があるのか?」

「仮面の悪魔達は死罪でよろしいですよね?」

「ああ、構わないが」

「ありがとうございます。少し失礼します」


 ニブル王に頭を下げて玉座から離れ、アルはいまだ瓦礫の横で寝ているナーマも元へ駆けよった。そして寝ているナーマの肩を揺すり、眠りから起こした。


「疲れているところ悪いんだが、やって欲しい事がある」

「アル様の命令なら喜んで遂行致しますわ」

「例のブラックホールで仮面の悪魔達を片づけて欲しい」

「了解致しました。ですが、こちらからもお願いがあります」

「なんだ?」

「今回の戦闘で相当量な魔力を消費してしまったので、後で吸魔をさせてくださいまし」

「わ、わかった」

「ありがとうございます。そうと決まればパパッと片づけてしまいますわ」


 そう言って立ち上がったナーマは謁見の間中央に行くと魔術を行使した。


闇の虚空ブラックホール!」


 そう唱えると、ナーマの頭上に黒い穴が開き、仮面の悪魔達が次々とその闇へ吸い込まれていき、ものの数秒で仮面の悪魔達は消え去ってしまった。

 以前にも思ったが、吸い込まれた物は闇の中でどうなっているのだろう? と考えるアルにナーマが声を掛ける。


「終わりましたわ。ですが、今のでほとんどの魔力をつかってしまいました」

「ありがとう。後は俺とジブリールで何とかするから、ナーマはゆっくり休んでてくれ」

「お言葉に甘えて休ませて貰いますわ」


 そう言ってナーマはその場に座り、また眠りに就いた。それを見届けたアルは再びニブル王の元へと戻る。


「今の魔術は闇魔術か? 凄い物を見せて貰った」

「ええ。彼女にはいつも助けられています」

「本当に貴殿はあの悪魔を信頼しているのだな」

「そうですね、契約魔術を掛けているというのもありますが、彼女自身が私に好意を寄せてくれています。まぁ、目的は私の中の物でしょうが」

「中の物?」

大魔王の魔力デザイアです」


 アルの言葉にニブル王は目を見開いて驚く。


大魔王の魔力デザイアとな。まさか降魔の儀式は成功していたのか!」

「いえ、失敗したからこそ我が祖国グレイス王国は滅びました。しかし、なんの因果か、大魔王の魔力だけ私の中に残ったのです」

「なるほどのう。さぞ苦労したであろう?」

「そうですね、いつになるか分かりませんが、大魔王の魔力デザイアを消し去るのが目的の一つです」

「そうであるか。険しい道のりになると思うが、その願いが叶う時を我も心待ちにしていよう」


 アルの決意が籠った瞳を見て、ニブル王もアルが本気なのだと感じ取る。その横でジブリールがうんうんと頷いている。彼女は彼女で幼い頃からアルに仕えているので思う所があるのかもしれない。

 一通りの挨拶が終わり、アルフが提案する。


「ニブル王も病み上がりのことだし、細かいお礼等はまた別日で良いか? 謁見の間の掃除もしなきゃならないし、何より魔術師団や王城の中の不穏分子も排除しなきゃならない」

「そうだな、ナーマも魔力を使い過ぎて眠ってしまっているし、俺達は近くの宿屋でしばらく待機しておくよ」

「そういってくれて助かる。礼の準備が出来たら使いの者を出すから、それまでゆっくり休んでいてくれ」


 こうしてニブル王奪還と仮面の悪魔退治が終わり、アル達……いや、ニブル王国にとって長い一日が終わりを告げた。


 眠っているナーマをアルがおんぶし、王城近くの高級宿屋へ足を運ぶ。道中、ジブリールが「ナーマをおんぶするなんて甘やかしすぎです!」と文句を言っていたが、今回のニブル王奪還はナーマの活躍が大きいと説明し、無理矢理納得させた。

 宿屋に到着し、主人に話しかけると既に部屋が用意されていた。何でもアル達が来る前に王城から使いの者が来て、アル達を手厚く持て成す様に言われたらしい。ついさっき王城からやってきたアル達より早く使いを出す速さに驚きながらも感謝しつつ、その日は泥の様に深い眠りに就いた。