第22話

子供の頃は、犬を飼うのが夢だった。

けれど各々忙しいうちの家では、誰かの手助けが必要なら飼う資格はないと両親に言われ、諦めざるを得なかった。

まぁ至極その通りだとも思った。

ペットって結局、人間の都合だ。

勝手に改良され、増やされ、売買され、可愛がられ、時には捨てられたり殺されたりする。

人間はひとときの癒しを得る為ならば、どんなに残酷なことでもする生き物だ。

そう考えた時、私はペットを飼うということについて考えなくなった。

友達のうちにいる犬や猫を見ても羨ましいという気すら起きなかった。

単純に、可哀想だと思った。

ペットも人間も。


ペットが死んで立ち直れなくなるほど鬱になってしまった人間ばかり見てきたから。


私が昔、祭りで掬った小さな亀を亡くした時でさえ、あんなに喪失感に陥ったのだ。

これが犬や猫なんていう、自分に精一杯懐くような動物が……なんて考えたら……

考えるだけで地に突き落とされるような恐怖感が襲ってくる。


私は人間だけでなく、動物にさえ、置いていかれたくないのだ。


だからペットを飼うことはもう夢ではなくなったのに、子供の頃に抱いていたそれがこんな形で叶うことになろうとは……。



「驚きましたか?」


私は、家族の一員となったシーズーを撫でながら昇さんに笑いかけた。


「いえ、全く。」


昇さんはおやつを持ってしゃがみこみ、シーズーの目の前に差し出す。

クンクンと少し警戒したように鼻を動かし、小さな口でそれを咥えるシーズー。

この子は動物保護センターで引き取ってきた子だ。

動物を飼うのなら、身寄りのない捨てられた動物…死を待つしかない命を選びたいと思った。


人間の勝手都合で殺処分されている犬猫は年間1万数千匹もいる。


その中から私が一匹救い出したところで意味は無いことなのかもしれないけれど。

ペットショップで引く手数多であろうまだ幼い人気犬を選ぶよりも、死を待つだけの1つの命を救うほうが遥かに意味のあることのような気がした。

それが偽善だろうと、私はそうしたかったのだ。


「さすが、萌さんですよ。恥ずかしながら僕は……盲点でした。」


「いえ、そんなことは…。ただ私が考えていただけのことですから。……ていうか昇さんっ!さっきからおやつあげすぎですよ!」


「えっ、そうなんですか?でもすごい食いつきですよ」


「好きなだけあげていいわけないじゃないですか!チコがドッグフード食べなくなっちゃいます!」


私が無理やりおやつを取り上げると、昇さんもシーズーのチコも同じような顔をしたので思わず吹き出してしまった。