「
一人の女は、息も絶え絶えに、震える手を伸ばして小さな子の頭を撫でた。
「だけど小景、あなたは、独りじゃないのよ……必ず、あなたを愛してくれる人がいる……ママはね、小景が心から愛せる人と、幸せになってほしいな……だから、ママの事は忘れて、生きて。幸せになって……ママの我儘、きいてくれる?」
蝋燭は既に短く、灯された火は弱く揺れていた。暗がりのお陰か、せいと言うべきか、涙を流す彼女の顏が幼子の目に映る事はなかった。
小さく丸い手が、母の手をギュッと握る。
「わかったよ、ママ。ぼく、いきるよ。がんばっていきて、しあわなる! だけど、ママはゼッタイ、わすれないから、ママのぶんも、あと、パパのぶんも、いきるから!」
「ふふっ……ありがとう。わたしの、かわいい小景」
頬を撫でたのを最期に、彼女の手は力を無くしベッドに沈む。
風に吹かれた灯火は、敢え無く消えた。
「うん。ぼく、いきるよ……」
小さな手に籠る力は弱く、幼い彼は知らぬ感情に声を上げ、涙を流す。
それが、彼の最後に零した涙だった。