正確には、黒皇がどこにも行ってしまわないよう、早梅がつかまえていた。
黒皇のそばにいると、日向ぼっこをしているようにあたたかい。
それが今日に限っては、握りしめた大きな手のひらが、燃えているかのように熱くて。
あてがわれた
早梅が卓の椅子に腰かけたのを見届けると、黒皇は袖を合わせ、頭を垂れて、ついに重い口をひらく。
「わたくしは、姓をフオ。
「木王父、という方は……」
「
男仙を統べる神。その木王父を父とする黒皇ら八咫烏はつまり、霊鳥ということだ。
「金玲山には、無理をお願いして籍を置かせていただいておりました。一度下界へおり、木王父さまのおられる
黒慧が大きくなるまでは。
黒皇もそのつもりで、金王母の身のまわりの世話をしながら、金玲山ですごしていたというが。
「そうしているうちに、われら兄弟に、陽功が内功としてそなわっていることがわかりました。数ある気功の中でも、陽功は
黒皇は語る。陽功とは、太陽の力だと。
──この世界に、太陽はいくつも要らないのですよ。
ずっとむかしに、彼はこうも言っていたか。
──太陽が多すぎても、困るでしょうから。
その言葉の意味を、早梅はやっと理解する。
「われら十兄弟の全員が、太陽でした。かつてこの世に、
うつむいた黒皇の声音は、ふるえていた。
「わたくしの不注意で、八人の弟を死なせてしまいました……それこそが、わたくしの咎なのです」
* * *
「なぜですか! 弟たちに罪はありません! 罰するなら私を! お願い申し上げます、父上!」
燃える、燃える。
「
燃え尽きて、灰になる。
「どうして……
灰となったら、どうなるか。
「
灰の行く末。そんなものは決まっている。
風に飛ばされて、なくなるのだ。
「私の、せいだ……っ」
弟たちを想わなかったことなど、一瞬たりとてない。
「あぁ黒慧……
それが、おのれの背負うべき咎なのだから。
鉄錆のにおいと真っ赤な色に埋め尽くされた場所にうずくまり、黒皇は独り、
あの日の悪夢が、人の世では、こう語りつがれているらしい。
『