「び、美人……?」
「ありゃ、自覚ないか? ルウルウ、あんたは美人だ。なんだったら吟遊詩人風に讃えようか?」
モグモグとナッツを噛みながら、カイルは大げさに右手を掲げた。
「おお、その白き髪は真珠のごとく、青き瞳は渚の水のごとく……」
カイルが言うように、ルウルウの髪は白い。老人のような単なる白髪ではない。白い中にごくごく淡い黄色を帯びていて、光の加減でわずかに虹色さえ入る。まさに真珠の色だ。
また、ルウルウの瞳は淡青色だ。青空の色に似ていて、空の色を映した淡水湖のようでもある。
「白き肌は夜に輝ける月のごとく、その容貌は麗しの女神ショーシャナのごとし……!」
「ええぇぇ……」
カイルの即興詩に、ルウルウは困惑した。カイルはルウルウの様子は気にせず、気持ちよさそうに続ける。
「おお、美しきルウルウ! その艶美なる名に誉れあれ!」
「そこまでにしとけ」
ジェイドがやっとカイルを止める。カイルは気にせず、ルウルウに尋ねる。
「どうだった、俺の詩は? あなたにピッタリだったろう?」
「ええと、よくわからない……かな」
ルウルウは頬を赤らめた。褒められてはいるのだろうが、からかわれている気もする。容姿をここまで讃えられた経験は、ルウルウにはない。恥ずかしいような、照れた気持ちになる。
カイルが口をとがらせる。
「なんだよー、けっこういい出来だと思ったのに」
「あああ、えっと! お茶、できたね!」
ルウルウは照れながら、棚へ向かった。カップを三人分、取り出す。
そんなルウルウの背中を見ながら、カイルがジェイドにささやく。
「旦那ぁ。あなた、ルウルウのこと褒めてやってないのかい?」
「……いつも感謝してる」
「そうじゃなくて」
ジェイドとカイルが押し問答に入ろうとしたところで、ルウルウが戻ってくる。ヤカンを火から下ろし、中のハーブティーをカップに注ぐ。
「はい、あったまるよ、カイル。ジェイドもどうぞ」
「すまんな」
「お、ありがとー!」
三人でハーブティーを飲み、ナッツやドライフルーツを食べる。温かな暖炉の火が、冷えた肉体を癒やし、濡れた衣服を乾かす。たわいもない会話をする。穏やかな時間が過ぎていく。やがて皆、心地よい疲労感に包まれる。
ジェイドは疲れた様子はないが、カイルはウトウトとまどろんでいる。
「ふぁ……」
ルウルウは思わずあくびを漏らした。時刻はおそらく真夜中を過ぎたところだろう。今夜はいろいろなことがありすぎた、とルウルウは思う。寝る前に、干していたジェイドたちの服の様子を見ようと立ち上がる。ルウルウがさわると、ジェイドとカイルの服はほとんど乾いていた。
「ジェイド、服、乾いてるよ」
「――シッ」
突然、ジェイドがシーツにくるまったまま、立ち上がった。剣帯と、そこに差したショートソードを取る。家の扉の前に移動する。ジェイドは外をうかがうように、扉の前で聞き耳を立てる。
「ど、どしたの?」
「静かに」
ジェイドに制され、ルウルウは口をつぐんだ。
しばらく聞き耳を立て、ジェイドが表情を険しくする。
「ひとり、ふたりじゃないな。……ルウルウ」
「う、うん」
「カイルを起こして、服を着させろ。俺の服も頼む」
「……うん!」
ルウルウはジェイドに彼自身の服を放り投げる。うとうとと眠りかけていたカイルを起こす。彼に服を着させる。
「な、なんだよ~……旦那……」
「カイル、もう立てそうか?」
「あ、ああ。大丈夫、だと思う」
ジェイドもまた、素早く服を来て革鎧をまとう。カイルの状態を確認し、ルウルウに視線をやる。
「ルウルウ。本当に大事なものだけ持て」
「えっと……」
「囲まれている」
家が囲まれている、とジェイドは言った。ルウルウは当惑し、家の中に視線をさまよわせる。ジェイドの言う、「大事なもの」は多く置いてある。持てと言われても、瞬時に判断するのは難しかった。
「ジェイド……その、なにが起こって?」
「ここを包囲された。おそらく、魔族だ」
ジェイドの口調が鋭くなる。彼の表情が、緊急事態を告げている。
ルウルウの運命が、大きく変わろうとしていた。
つづく