二十 十日間の夢

修良は幸世を連れて、衣裳店、装飾品店、化粧品店を回し、幸世に贅沢な品物を支度した。

一周まわったら、幸世はもう美しいお人形のようになった。

その後、二人は高級料理店で楽しそうに食事をした。

夜になったら、修良は幸世を町の一番値段の高い旅館の女将さんに預けて、幸世の名残惜しい眼差しの中で街に出た。


幸世がいなくなった以上、幸一は身を隠す必要がなくなり、直接に修良の前に現れた。

「先輩、はっきり説明してくれないか?先輩は幸世の旦那さんになるつもりが……ないよね?」

修良はフフと笑って、幸一に聞き返した。

「幸世の望みはなんだと思う?」

「あのなんとか溺愛小説みたいに、すてきな旦那さんを掴むこと、じゃない?」

幸一の答えを聞いて、修良は笑い声を出した。

「だとしたら、私は幸世の旦那になるしかないな。幸一の頼みだから」

「先輩!真面目に答えてください!」

修良の話が冗談だと分かっていても、幸一はイライラする。

修良は一歩前に出て、幸一の話を止めるように、人差し指を幸一の唇に当てた。

「じゃあ、こうしよう。これから十日間、私は幸世の望みを実現させるために動く。幸一は私を監視しても構わない。十日後、私は答えを発表する。でもこの間に、幸一は何も聞かないでほしい」

「全然答えにならない!」

修良の勿体ぶりに、幸一はもっと焦った。

「そういえば、私たちがここに来たのはお母様がこの町にいると推測したからじゃない?」

「!!」

修良に言われたら、幸一はやった気付いた。母探しのことをすっかり忘れてしまった!

「幸世のことは意外の出来事にすぎない、お母様を見つけるのが先だろ」

「先輩、言ってることとやってることが違うんじゃない?」

「私が言っているのは、幸一のやることの優先順位だ。私にとって最優先のことは、幸一の頼みを完成することだ」

「……結局、幸世の望みを実現させると頼んだ俺が悪かったのか」

幸一は不服だけど、修良の理論に敵わない。

自業自得だと嘆くしかない。

「いいえ、情の深いところは幸一のいいところだ」

そう言って、修良はやさしく幸一の頭をなでなでした。

その子ども扱いの行動に、幸一のうずうず気持ちはなだめられたような、さらに唆されたような……

「お坊ちゃま――あっ!」

いきなり、横から呼び声があった。

幸一を探しに来た二郎だ。

駆け付けた二郎はちょうど、二人が寄り添う場面を目撃した。

「あ、あの……もしかして、お邪魔、ですか?」

「二郎さん、どうした?何が邪魔?」

幸一はなんの困りもなく、普通に聞き返した。

「えっと、その……お坊ちゃまがそのまま奥様を通報するのではないかと心配で、急いでお探ししました」

「まだ母を見つけていないよ」

「そ、そうか……」

幸一の平然とした顔を見て、二郎はいろんな意味でほっとした。

「お久しぶりです。二郎さん」

「!」

修良は微笑んで、二郎に話をかけたら、二郎はシャキッと背筋を伸ばした。

「実は、幸一の頼みで、この数日間に幸世お嬢様の世話をすることになりました。奥様探しにお手伝いができなくて、本当に申し訳ありません」

「?!」

「この十日間、幸一のことを頼みました」

(えっ?!ど、どういうこと?)

(年頃のお嬢様のお世話を若い男子に頼むとはどういうこと?お坊ちゃま?!)

二郎は不思議な目で幸一を見る。

「ああ、そういうことだ。しばらく先輩と幸世のことに構わない。母探しに集中する」


修良は別の旅館で部屋を取ると言って、一旦幸一たちと別れた。

二人になったら、二郎はさっそく幸一に意見を言う。

「あ、あの、お坊ちゃま、何があったのかよく分からないけど、幸世お嬢様のことはやはり、構ったほうがいいと思います」

「やっぱり二郎さんもそう思うのか……でも、これ以上尾行したら、器が小さいと思われるだろう」

二郎の意味を正確的に理解できていないが、幸一は真剣に考えた。

すると、ピンと解決法を思いついた。

「じゃあ、こうしよう!俺は母を探す。二郎さんは執事として幸世について行こう!何か気になることがあったら、俺に教えてくれ!」

「え、ええ?!」

思わずの提案で、二郎はまったくついていけなかった。

「お坊ちゃま、わたしはまだ何がなんだか……」

「大丈夫だ!母探しくらい、俺一人でもできる!二日三日もあれば母の場所を掴める」

二郎に質問の余裕も与えなく、幸一は独断に決めた。


*********


二日三日で母を見つけて、それから二郎と合流し、修良の真意を究明する。

そうすれば、修良は自分を追い払う理由がなくなる。

それは幸一の打算だ。

しかし、その計画は見当外れだ。

幸一は自分の人探し能力を高く評価した。

三日が経っても、韓婉如を見つからなかった。


四日目に、幸一は普通の探し方に観念し、占いを頼ることにした。

しかし、占いに興味がないせいか、才能がないせいか、幸一の占いはとんでもない下手。

八卦、星、骰子、札、四つの方法で試した結果、それぞれ違う方向を示した。

「占いの授業、もうちょっと真面目に受けるべきだった……」

そして、幸一はまだ気づいていない――彼の外見は目立ちすぎる。

韓婉如は彼を避けるのは、彼が韓婉如を見つけることよりずっと容易だった。


気まずいのは母のことだけではない、毎日二郎が報告した修良たちのやることも幸一の心を波乱する。


「修良様は、お嬢様の買い物のために、商店街を一日貸し切りしました」

「?!先輩はそんなお金持ちだっけ?!」


「修良様は、幸世お嬢様のために、使用人と家具付き屋敷を購入したらしい」

「屋敷まで?!」


「今日は、東の街に蝙蝠の妖怪が現れて、間一発の時に、修良様は幸世様を守りました」

「昼間に蝙蝠の妖怪が?!ありえない!」


「幸世お嬢様は、修良様に一目ぼれした悪女の手下に攫われた!」

「?!早く助けに行かないと!」

「で、でも、修良様は悪党たちを成敗して、幸世お嬢様を救い出しました……」

「なんで毎日もこんな不思議な出来事があるんだ……」


「修良様と幸世お嬢様は盛装でお祭りで遊んでいました。幸世お嬢様は、とても幸せに笑っていたのです……」

「連日に戦闘や遊び、先輩の体は大丈夫かな……?」

「ピンピンしていると思います……」


はらはらの十日間を我慢して、十一日目の朝一で幸一は修良のいる旅館に殺到した。

幸一が来ると予測したように、修良はお茶を飲みながら個室で待っていた。

幸一が現れたら、修良は静かに一通の戸籍文書を机に置いた。

「?!!」

「幸世が持っているものだ」

「どうやって手に入れたの?!」

「幸一の悪行をまとめて出版すると約束したら、幸世に認めてもらった」

「……冗談だろ」

幸一の顔色が暗くなった。

「そう、冗談だ。実は、求婚したら、幸世に喜んで差し出してもらった」

「やっぱり冗談のほうでお願いする」

幸一の顔が青ざめた。

「プッ、フフフ」

幸一の反応を存分楽しんだように、修良はさわやかに笑った。

「『あのようなものは純粋のあなたが持つようなものではありません。幸せを手に入れたあなたは、もう過去の悲しみに捕らわれる必要がありません。他人を許すことは、自分を許すことです。あなたの優しさに触れて、幸一も深く反省するのでしょう』——と、説得したんだ。ああいうきれいごとを言われたら、善良な主人公でいたい幸世は断りたくても断られない」

「俺は罪人か……」

幸一は眉間を掴む。

「でも、取り戻してくれてありがとう……もしかして、先輩はこれを取り戻すために幸世の芝居に付き合ったのか?」

修良は無返事に一口お茶を飲んだ。

幸一は戸籍文書を手にして、真偽を確認する。

「違う、これも偽物だ……妙だな、母はあんなに幸世を可愛がっているのに、本物を渡さなかったのか……」

「なるほど、まだお母様を見つけていないのか?」

「そっ、それは……」

修良にさりげなく聞かれたら、幸一は慌てて言い訳を探そうとした。

「まあ、こんなこともあろうと思って、幸世から回収しといた」

「すみません……」

すでに修良に見通されたので、幸一は素直に負けを認めた。

「いいんだ。私が手伝う。今日中お母様を見つけよう」

「本当に?幸世のほうは?」

修良が戻ると思うと、幸一の気持ちはやっと晴れた。

青楼せいろう(*2)に売りつける」

*2 青楼:娼館のこと

「なるほど、青……?えっ、えええ?!!」

修良の話を理解した瞬間、幸一は驚きの声を上げた。